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第弐話 リテイク

「だとしても肝心の犯人探しはどうするつもりなんだ?」

僕は率直な疑問をフウにぶつける。

「簡単な事だ。聞き込み調査...いや、現行犯逮捕...どちらも違うが。揺さぶりをかけるんだ。」

「揺さぶり?」

「あぁ。『犯人は貴方です』といったような感じだ。」

フウは知的に見え、実際に賢くはあるのだが、多少抜けている部分があるのを僕はその時思い出した。

「...特に何も考えてなかったのか」

「私は話すのが苦手でね。そういうのは君の役目だろう。私はあくまで助手さ。」

フウはアフォガードを嗜みながら事件の資料を見漁る。

「僕も人と話すのは最近得意じゃないんだ。補助は頼む。」

「了解。」

フウは少し嬉しそうに返事をした。本題の犯人探しだが、結局の所フウの方法しか僕らには残されていない。短い溜息を吐きながら僕は口を開いた。

「フウの方法で行こう。それで当たっていくならここのマスター、【高橋 蝋】からいくのが賢明だと思う。」

「異議なし。じゃあ行こうか。」

【高橋 蝋】は僕らが中学時代、絵描き教室の後によく寄っていた喫茶itoのマスターである。《6人》で。重い腰を上げ、床を踏み鳴らす。

「お久しぶりです。高橋さん。」

「 ...翔くん。久しぶりだね。それに風花くんも。2年...3年ぶりかな。」

マスターは途端に暗い顔になった。高橋は続ける。

「そんなに経ってから私のもとへ来たということは、やはり立花くんの話かな?」

「はい。その事で幾つかお伺いしたい事があります。」

「立花くんの事情を知るものは少ないからね。いくらでも聞いてくれ。」

大きく息を吸って、僕はマスターに問いかけた。

「僕らは立花の死は自死では無いと考えています。」

僕は言い切った。するとマスターからの予想外の返答に僕は耳を疑った。

「それについては私も考えていたよ。人の気持ちなんて分かるはずないのだけれども。長く立花くんを視てきた自信はあるからね。」

想定外の応えに、僕は少し驚きながら問い返す。

「というと?」

「立花くんの性格上、自殺というものは少し不自然であろう。さっきも言った通りもちろん人の気持ちや悩みなんて分かったりしないけどさ。」

解釈一致。とでも言うのだろうか。僕も似たような考えをした。そう僕が下を向いているとフウが口を開いた。

「失礼ですがマスター。私は貴方の事を容疑者と認識しています。」

「私が立花くん殺しの容疑者...なるほど。僕が犯人だとして、動機はあるのかな?」フウは応える。

「はい。まず【立花 灯】が有名画家の立花であるというのはごく僅かの人しか知りません。メディアにも頑なに出ませんでしたから。」

フウは資料を取り出しながら続けた。

「立花の絵は売れば少なくとも一般人には生活に困らないくらいの値段です。そしてこちらの資料は、近年喫茶ito周辺の閉店した店舗数の資料です。」

「...ほう?」高橋は資料を見つめる。

フウは止まらず続けた。

「お店が潰れるという事は経営難に陥った。と考えるのが無難でしょう。原因は数駅先の大型ショッピングセンターによる客足の減少でしょうか。この商店街も数年前よりも人気が随分と無くなった。」

「そうだね。随分とこの街も寂しくなったものだよ。」高橋はそう言って窓の外を見つめた。

「客足が減ったのはこの喫茶 itoも同じでしょう。経営、厳しいんじゃないですか?」

フウは眉をひそめながらマスターに聞いた。

「...そうだね。ここ最近少しづつ回復はしているけど。一時は閉店を考えた事もあったくらいだ。つまり、風花くんの見解はこうだ。経営が厳しくなった私は立花くんを殺害、絵を盗み、売ったことによって経営を維持出来てるのではないかと。」

「はい。」フウは力強く返事をした。高橋は応える。

「推理、考察、仮説...どれでも良いけどそれらとしては良いものじゃないかな。ただね、私にはアリバイがあるよ。」

「...アリバイ」フウは戸惑いながら呟いた。マスターは続けた。

「私はその日世界旅行に行っていてね。お店を留守にしている。つまりこの街からも離れている事になる。」


警察は正義である。しかし、効率的な正義である。立花の遺体が発見されたのは公園であった。公園内の木に、縄とともに吊るされていたのであった。警察は自殺と処理したが、周りの人に事情聴取などしない訳がない。公園は商店街を抜けたすぐ側にあるのだ。ただ、自殺として処理されている以上、周囲の人間には犯人が見つからなかったとも言える。僕は口を開いた。

「疑ってしまい申し訳ありませんでした。コーヒー美味しかったです。また来ます。行こう、フウ。」

僕はフウの手を引いて重い扉に手をかける。

「私も事件の結末に納得はいっていないんだ。引き続き調査を続けて欲しい。」

高橋は僕らに背を向けながらそう言った。

「善処します。」僕はそう応え扉を押した。

ガランガラン...

「...一人目は違ったな。」僕は独り言のように言った。

「アリバイというものが抜けていた。すまない。私のミスだ。それを先に聞くべきであった。」

フウは相当落ち込んでいるようだ。無理もない。頭脳を武器にしてるフウからしたら、ミスは許されるものではない。

「...見たくない顔が2つも集まってるわね。」

そう僕たちに言い放ったのは二人目の容疑者である、【山村 茜】であった。喫茶itoに通い込んだ6人の内の1人である。忘れたい脳裏にこびり着いた思い出が、風が吹くと同時に鮮明になっていくのを感じた。風は肌寒く、静かであった。

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