第4章 第21話――気づけば国中が私を“聖人”扱いしていて、もう悪役になれませんわ!?
第21話は、
“エリザベート=聖人”
という学園全体・国全体の評価が確定する回でした。
本来の悪役令嬢ルートは、
完膚なきまでに破壊され、
逆に“王妃候補の象徴”として扱われ始める地獄回です。
第4章 第21話――気づけば国中が私を“聖人”扱いしていて、もう悪役になれませんわ!?
ミリアの全力庇護によって、
私が悪役になれる可能性は昨日の時点でほぼ消滅していた。
しかし、今日はさらにひどかった。
(どうして……どうしてこうなるんですの……
私は悪役令嬢をやりたいだけなのに……)
私は登校しながら深いため息を吐く。
だが、学園の門をくぐった瞬間、
すでに様子がおかしかった。
「ローゼンクロイツ様……!」
「お、おはようございます……!」
「今日もお美しい……」
生徒たちが異様にそわそわしている。
視線がまとわりつくように刺さってくる。
(なんですの……この“聖人接遇”みたいな空気……?)
私が廊下に入った途端、
数名の男子生徒が跪きかけた。
「エリザベート様が通るぞ……!」
「姿勢を正せ……!」
(え? 私、騎士団長でもなんでもありませんけれど!?)
「ローゼンクロイツ様、おはようございます!」
「本日も、ご清廉なる一日を……!」
(ご清廉……?)
私は思わず固まった。
(ちょっと待って……
昨日の“嫌われよう作戦”で、
何か……逆に変な伝説が生まれた可能性がありますわね……?)
***
◆教室:突然の“聖人扱い”
教室に入ると、案の定、全員が立ち上がった。
「エリザベート様……!
本日もどうぞよろしくお願いいたします!」
(まるで担任教師に挨拶する生徒のような光景……!?)
クラリスが涙ぐんで近づいてくる。
「エリザベート様……
昨日、ミリアをあれほど深い慈愛で包んでくださって……!」
(慈愛じゃない!! 悪役ムーブだったのよ!!)
アイリーンが鼻をすすりながら言った。
「エリザベート様の“自分が嫌われてもいい”という覚悟……
本物の聖女にしか持てませんわ……!」
(だから“嫌われたい”の意味が違うって言ってるでしょう!?)
ミリアまで、胸に手を当てて震えている。
「エリザベート様は……
自分を責めながらも、他人の成長を願ってくださる……
本当に……本当に……尊いお方……!」
(尊くない! 尊くないの! 誤解の二乗なの!)
そこに、
爆弾を抱えた人物が現れた。
アレクシス殿下である。
「エリザベート。皆の話は聞いたよ」
(聞かないでよ! 今日だけは!)
殿下は私の手を取り、
教室中に響く声で宣言した。
「君ほど純粋で、強く、思いやりに満ちた女性を
私は見たことがない」
(殿下!?)
「君の行いは──“聖人の徳”に等しい」
(せ、せ、聖人!?
断罪されたい女を……聖人扱い!?
逆方向に数千キロ飛んでますわよ!!)
教室は沸騰した。
「聖人……」
「エリザベート様は国の光……!」
「さすが殿下……見る目がありますわ!」
ミリアは完全に泣いている。
「エリザベート様……
いつか……国の人々の希望になれる方です……!」
(違う!! “悪役として断罪される希望”が欲しいの!!)
クラリスとアイリーンは手を取り合い、震えていた。
「殿下……ついに公の場で……!」
「これ、婚約発表の前段階では……?」
(まだ言ってはいませんわよ!?
まだギリギリ悪役ルートに残ってますわよ!?
ほんの数ミリくらいは!!)
殿下は私の手を包み込み、
優しく微笑んだ。
「エリザベート。
君がどれほど尊い女性か……
国中に伝えたいと、私は心から思っている」
(やめてぇぇぇ!!
“国中に伝える”なんて言ったら、
悪役どころか国の象徴になる未来しかありませんわ!!)
私は堪えきれず叫んだ。
「お願いですわ……
わたくしを……悪く……扱って……!!」
しかし、その叫びは逆に……
「自らを卑下するなんて……!」
「謙虚すぎる……!」
「なんてお優しい……!」
(もうだめだ……
この国、全員“天才的誤解力”を持っていますわ……)
***
その日の学園の噂。
「エリザベート様=学園の聖人」
「殿下、ついに認める」
「国に希望をもたらす令嬢」
「婚約発表は近い?」
(悪役は!? わたくしの悪役ルートはどこ!?
完全に消滅してしまいましたの!?)
私は校舎裏で崩れ落ちた。
(神様……どうして……
悪役令嬢になりたいだけの人生が……
ここまで困難になりますの……?)
空は今日も青かった。
私の絶望など関係ないと言わんばかりに。
お読みいただきありがとうございます!
これにて 第4章は完全にクライマックスを迎え、終了です。
次はついに 第5章。
本作の最大イベントである
「断罪イベント(のはず)が、殿下の公開プロポーズにすり替わる」
というメインルートに突入します。




