逸話
【10】
隣町へ向かう途中、荷馬車の中で俺はガタイのいい男とだいぶ仲良くなりいろいろな話をした。
「へぇ〜、にいちゃん異世界人なのか」
「どうやらそうらしい。異世界から来る人ってのはやっぱり珍しいのか?」
「たまにいるとは聞くけど俺も会ったのは初めてだ。にしても異世界人も言葉は通じるんだな」
「ああ、話す方や聞く方は大丈夫みたいだ。ただ文字は全然ダメだ。全く理解できない」
「ほぉ〜、だいぶ苦労してんだなぁ〜」
「苦労といえば最初が一番やばかったよ。いきなりドラゴンに遭遇しちまったんだ」
「なに⁈ ドラゴン⁈ そいつは大変だったなぁ。ドラゴンが出たなんていや大騒ぎだぞ!」
「そうなのか?」
「あぁ、ドラゴンが来たら小さな集落が一つなくなってもおかしくねぇ」
「俺はもしかしてとてつもない経験をしたのか?」
「あぁ、よく生き残ってこれたもんだ。んで、ドラゴンってのはどんなんなんだ? 俺もまだ見たことねぇんだ。教えてくれ!」
──こいつはいろんなことに興味を持つんだな。
「いいぜ。俺が見たのは白いドラゴンと茶色のドラゴンの二体だった」
と、その情報を話した時、ガタイのいい男は首をかしげた。
「おいおいにいちゃん、茶色いドラゴンは本物かも知んねーが、白いドラゴンってのは見間違いじゃねーか?」
「ん? なんでだ?」
「普通ドラゴンってのは茶色だ。他にも黒いやつとか青いヤツもいるらしいんだが白いドラゴンってのはこの時代にいるわけがねーんだ」
「どういうことだ?」
「俺も詳しいことを知ってるわけじゃないんだが、白いドラゴンは三百年くらい前に絶滅してるはずなんだ」
──⁈ どういうことだ? 俺が見たのは間違いなく白いドラゴンだった。しかしその白いドラゴンは絶滅しているはずだと?
「白いドラゴンについて詳しく説明してくれないか?」
俺はガタイのいい男に詰め寄った。
「いやいや、俺は歴史とかそういう類のことには詳しくねーんだ。わりーが絶滅したっつー情報しか知らねーんだ」
「くっ‥‥‥」
俺が悔しそうな表情をしたその時。
「白いドラゴンの情報を知りたいんですか?」
当然声をかけてきたのは一緒に仕事をしていたもう一人の男だった。ガタイのいい男とは違い物腰柔らかい感じの男だ。
「詳しいことを知っているのか?」
「全てを知っているわけではないですが白いドラゴンの逸話くらいでしたら知っています」
「‥‥‥教えてくれないか」
「いいでしょう」
そう言ってその男は話し出した。
「昔、白いドラゴン、白竜族といえば黒いドラゴンの黒竜族と共に竜族の中では最強だと言われていました。一匹現れれば街一つが、五匹現れれば国ひとつがなくなるとさえ言われていたほどです。
しかし白竜族と黒竜族は互いのことを嫌悪し合っていました。そして約四百年前、ついにその二種族が戦い始めたんです。
その戦いは壮絶なものでした。大地を焼き、街を壊滅させ、滅びかけた国さえあったとも言われています。
しかしお互いの強すぎる攻撃力のため、二種族はどんどん数を減らしていきました。そして戦いが始まって百年後、ついに白竜族が滅びてしまったという話です。残った黒竜族もかなり数を減らし、なんでか今はおとなしくしているらしいです。
それに乗じてなのか今は茶色いドラゴン、まぁ普通にドラゴンって呼ぶことが多いですね。そいつらがだいぶ暴れまわってるって話ですよ」
「へぇ〜、本来茶色いドラゴンよりも白竜族や黒竜族の方が強かったのか?」
「もちろんです。その二種族は最強でしたから。まぁ白竜といえば今や伝説の生き物になってしまっていますけどね」
──俺が見た白い竜は茶色いドラゴンに対して一方的に攻められていた。しかも本来白竜族は三百年前に滅びたっていうし、だいぶ見てきた事実とは異なるな。
これは調べてみる必要がありそうだ。
などと考えている時、急に前から荒々しい声が飛んできた。
「殺されたくなかったら止まれ!!」
その声と共に急に荷馬車が止まった。