プロローグ:修学旅行
「どうしてこうなった」
気が付けば、俺はお祭りムードの中、1人でたたずんでいた。
いや、1人ではなかった。他にも3人一緒に立っていた。
もちろん4人で祭りをしている訳ではない。
しかし、他に誰がいるのかと聞かれても返答に困る。
果たして彼らを人間と称してよいのだろうか。
見た目は確かに人間である。手足が2本ずつあり、目、耳も2つ。
立って歩き、屋台で買い食いなんかもしている。
ではなぜ返答に困るのか、その答えは簡単である。
彼らは、小さすぎた。
当たり前だが、赤ちゃんが二足歩行して屋台を出したりしているのではなく。
成熟した大人(?)であるにもかかわらず、その背は俺の膝あたりまでしかない。
俺の身長は165㎝、ごく平均的な身長の高校1年生である。
彼らの身長は約40cmほどであろう。
常識的に考えてありえないことだが、俺たちは今、
小人に遭遇していた。
「信也起きなさい!」
母の声で目が覚めた。
俺は寝ぼけた頭で今日の予定を考える。
「今日から修学旅行でしょ!」
しかし、母が先に今日の予定を答えた。そう、今日から修学旅行だった。
「はやく下に来なさいよ。」
そう言って、母は階段を下りて行った。
しかし、俺はあまり修学旅行を楽しみにしていない。
入学して二か月経つが未だにクラスに馴染んでいなからだ。
なので、クラスで話せる人はほとんどいないと言ってもいいぐらいだ。
我が「服部家」には父親はいない。
俺の父親は立派な警察官だったが、殉職をしてしまった。
その頃の俺はそうとう荒れていたのだが、今の俺を周りの人が説明した場合、
「ネクラ」「真面目」「メガネ」の3つのワードが入る見た目からして優等生キャラだ。
しかし、若干コミュニケーションが苦手なためさっき述べたような状態にある。
俺は、何とも言えない微妙な気持ちを抱えながら、家を出た。
「よう、信也!」
朝から暑苦しい声が校門で響く。
「何の用だ、武?」
できるだけ威圧的な声を出す。
しかし、武は歯牙にもかけず、
「いや、用が無くても挨拶ぐらいいいだろう。」
うざったい笑顔で話してくる。
こいつの名前は「佐藤 武」。
クラスで唯一俺に話しかけてくる物好きだ。
しかし、一度こいつには助けられた借りがあるので、
少しは話すようにしている。
「ま、これから3日間よろしくな!」
武が背中をバンバン叩いてくる。
そう、最悪な事、いや、他の俺を敵視する奴と一緒よりははるかにましだが、
こいつと修学旅行中、同じグループで行動することになってしまった。
俺は、適当に武をあしらいながら、集合場所に向かった。
「やあ、服部、佐藤」
グラウンドに着くなり俺に声をかけてきたのは、俺たちと同じグループの北条夕日だ。
北条は弓道部のエースで、一年生でありながら、部で一番の実力を持っている。
彼女は無口で冷たいと思われる態度を取るので、美人でありながら、
嫌われてこそ無いが、敬遠されがちである。
まあ実際は、彼女は人見知りが激しいだけであり、
けっこう優しいのだが・・・
「あれ、天野はどこに行ったんだ?」
武が北条に質問すると、北条は黙って後ろを指差した。
そこには大勢の男子に囲まれた、
天野輪がいた。
「天野輪」 彼女は天才と言われている。
天才と言っても勉強は中の下といったところであり、
彼女はスポーツ面に関しての「天才」である。
運動神経抜群であり、彼女の実家は有名な道場で、柔道、合気道、空手は勿論、
彼女に剣、薙刀などを持たせても、右に出るものはいないだろう。
一度、女子の剣道の授業を見たことがあるが、剣道部員が
手も足も出なかったのを覚えている。
そんな天野が唯一認めているのが北条である。
噂ではそんな天野を一度だけ学校内で下したことがあるのが、
北条であるらしい。
北条は中学の頃、弓道において、全国3位を取ったことがあり、
春に天野と勝負し、勝ったことがあるらしく、それ以降、
天野と北条はよく二人で一緒にいた。
さて、今そんな天野が何をしているかというと、
何人もの男たちを屠っていた。
様々な部活のエースが天野に向かって攻撃を仕掛けるが、
全員攻撃をいなされ、カウンターをくらい、地に沈んでいった。
なぜそんな光景が朝から起きているか、説明しなければいけまい。
「天野輪」彼女はとにかく「もてる」のである。
実は彼女は身長150センチで小柄であり、ものすごい美人なのである。
入学当初は告白する人間が多すぎて、休み時間に教室の外まで列ができるぐらいであった。
今のところ、それも落ち着いている。
最初の3日ほどで、誰も告白しなくなった。
彼女が「私にスポーツで勝てたら、付き合ってあげる!」
と宣言したからだ。
よって、毎日のように挑戦者が後を絶たず、
修学旅行の朝にまで、戦っている。
一度北条が天野に勝っており、2人はいつも一緒にいるために実は2人は付き合っているのではないかというバカげた話もたまに聞くが、俺は「実際本当なのでは?」などと思ってしまっている。
「はろー、服部くん」
などと俺が考えていると彼女もこちらにやってきた。
勿論、二人は同じグループなので、彼女も俺たちと同じグループだ。
「天野さん、お、おはようございますっ!」
武が勢い込んであいさつをする。
武も天野輪のことが好きな大多数の一部である。
しかし、天野は武の方をちらりと一瞥しただけだった。
天野は自分と戦い、一度でも負けた奴には全く口を利かない。
なので、武も口をきいてもらえないのである。
天野はそのまま北条の方に歩いて行ってしまった。
「なあ、信也。俺はどうすれば天野さんと喋れるようになるんだ?」
武が潤んだ瞳でこっちを見た。
はっきり言って気持ち悪かった。
「だれもが笑い転げる一発ギャグでもしたらどうだ?」
投げやりに言って俺は先生にグループのメンバーがそろったことを報告し、バスに乗った。
「なあ、信也。」
武が話しかけてくる。
「何だ?」
「お前、いったい何読んでんだよ…」
俺が持ってたのは、銃の構造について図解で説明してくれる本だ。
初心者でも分かりやすいようになっている。
隣では北条も何とも言えない顔をして、こちらを見ている。
ちなみにいうと、北条とは隣と言っても、通路を挟んでいる。
「ねえねえ服部くん!」
天野が北条の隣りの席から話しかけてくる。
「君さ、武術か何かやってたでしょ!」
いきなりの発言に俺は面食らった。
少し動揺しながらも答える。
「あ、ああ。昔少しな。」
「え~、本当?今もやってんじゃないの~?」
天野がさらに聞いてくる。
俺は背中に若干の冷や汗を掻きながらも答える。
「いや、今はやってないよ。」
「え、でも――――」
「輪ちゃん。あまり詮索はしない方がいいよ。」
天野がさらに何か言おうとしたところで北条が俺に助け舟を出してくれた。
天野はウンウンと唸っていたが結局北条との雑談に戻って行った。
「おい、信也。」
「何だよ。」
「お前何で嘘ついたんだよ?」
武が不思議そうに言ってきたが、俺は答えずに窓の外に目をやった。
その後、約30分後に目的地に着いた。
「では、これより山登りを行う。全員安全に気を配るように!」
担任の山田先生がやたらと大きな声でそう言ってきた。
元々、俺たちの在学する高校は変な学校で、修学旅行でありながら、
山を登り、キャンプをして帰るという、修学旅行とは思えないことを行う。
代わりに、3年生では外国へ行くことができるので、誰も文句は言わないが…。
「なあ、俺たちはあっちの道行ってみないか?」
歩き始めて30分程経った頃、武がそう言いだした。
「あっち?」
しかし、武あ指をさした方は一見どう考えても道があるとは思えない。
ただ、よく観察してみると、細い道が一本だけあった。
「これは道と言えるのか?」
抑揚の無い声で北条が尋ねてくる。
「大丈夫だろ。人が通ったことがあるみたいだし、そこまで危険じゃないはずだ。」
「ねえ、輪ちゃんは…。」
天野にも聞こうとした北条は突然言葉を切った。
天野の眼は子供が欲しいおもちゃを目の当たりにしたかのように、
キラキラと輝いている様に見えた。
「先に行くね!」
天野がさっさと道に入って行く。
その後を武が「お供します!天野さん!」と叫びながら付いて行き、
結局俺と北条もその細い道に入って行った。
「なあ、この道は本当に大丈夫なのか?」
北条が疲れたように尋ねてきた。
「どうかな。」
俺も若干不安になりつつ、適当に返した。
俺たちがその細い道に入ってから、約15分ほど経っていた。
天野と武は二人とも言葉を交わしていないのに、きれいに役割分担して、
俺と北条が進みやすいように道を広げてくれている。
「本当に大丈夫なのか?」
さらに15分ほど経って、北条がまた聞いてきた。
「やばいかもな…」
既に登り始めて1時間、集合予定時刻になっていた。
流石に武や天野も危機感を抱いたようで、
「信也!コンパスが狂ってるぞ!」
とか、
「ゆうひ~、どうしよう?」
と天野が涙目になってたりした。
北条まで、
「の、信也!どうにかしてくれ!」
とか言っていた。
俺は大きくため息をつきながら、
「あと10分だけ進んでみよう。」
と言いながら、3人を落ち着かせた。
「お、川があるぜ!」
武がはしゃいだように叫ぶ。
結局あれから、5分ほど歩くと川が見つかった。
「よし、ここで休憩して、これからのことを決めよう。」
俺がそう言うと、全員が同意してきた。
「ゆうひ~、魚いっぱいいるし捕まえようよ~。」
「輪ちゃん、危ないからやめた方がいい。」
二人は穏やかに川のそばで話していた。
「多分、この川に沿って歩いた先が集合地点だろう。」
「ああ、そうだな!」
おれは地図を見ながら、武と話していた。
「よし、それじゃ行こうか。」
俺が声をかけると、全員が荷物を取って、立ち上がった。
少し歩くと、
「なあ、あそこじゃないか?」
武が先に見える少し開けた場所を指差す。
「ああ、多分そうだ。」
俺が同意すると、
「よっしゃ、早く行こうぜ!」
武が走り出そうとすると、
「待て佐藤!ここは滑りやすいから気をつけろ!」
北条が武を引き留めようと、武に手を伸ばす、
北条の手が武のリュックにひっかかったが、
北条に引っ張られたせいで、武がつんのめり、
川に向かって倒れそうになる。
「武!」
俺が武を支えようとしたが結局全員でもつれて川に向かって倒れた。
思った以上に深かった川にダイブした俺たちはもみくちゃになりながら流され、
俺は途中石か何かで頭を打ったようで、意識が飛んでしまった。




