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第10話 101回目の僕へ

未来の写真に写っていた、一冊のノート。


『朝倉湊へ』

『私を忘れた101回目のあなたへ』


今が100回目なら。


101回目とは、いったい何なんだ。

「……101回目?」


写真を持つ手が震える。


今は100回目。


凪自身がそう言った。


なら。


101回目なんて存在しないはずだ。


少なくとも。


まだ。


「私を忘れた……101回目のあなたへ」


声に出す。


嫌な感じがした。


俺が。


また凪を忘れる?


いや。


待て。


今回。


凪は言っていた。


十二月十八日に。


絶対に別れる。


そして。


『私はちゃんといなくなるから』


あれは。


そういう意味なのか?


100回目が終わって。


また。


101回目が始まる?


でも。


それなら。


何のための100回目なんだ。


俺はすぐに凪へ電話をかけた。


出ない。


もう一度。


出ない。


三回目。


出ない。


「……くそ」


メッセージ。


『101回目って何?』


送る。


既読。


つかない。


『未来の写真にノートが写ってる』


『見つけた』


『説明して』


送る。


まだ既読にならない。


俺は写真を拡大する。


ノート。


その横。


何か書いてある。


見えそうで見えない。


画質が悪い。


「もっと……」


指で広げる。


ぼやける。


でも。


一文字だけ。


読めた。


『最』


最?


最後?


最初?


その時。


スマホが震えた。


凪。


電話。


「もしもし!」


『……湊くん』


「101回目って何?」


『…………』


「見た」


『どこまで?』


「ノート」


沈黙。


「私を忘れた101回目のあなたへって書いてある」


『そっか』


「そっかじゃない」


『うん』


「今が100回目なんだろ?」


『うん』


「じゃあ101回目って」


『湊くん』


凪の声。


さっきまでより。


ずっと静かだった。


『明日』


「え?」


『学校で話そ』


「今じゃダメ?」


『ダメ』


「なんで」


『ちゃんと顔見て話したい』


「…………」


『逃げないから』


その言葉。


信じていいのか。


「絶対?」


『うん』


「全部話す?」


『全部は無理』


「またそれかよ」


『でも』


少し間。


『101回目のことは話す』


「……分かった」


電話を切る。


眠れる気がしなかった。


でも。


明日。


ようやく。


少しだけ。


先に進める。


◇


月曜日。


学校。


いつも通り。


教室。


いつも通り。


悠真。


いつも通り。


でも。


何もかも。


同じに見えなかった。


「湊」


「ん?」


「顔死んでるけど」


悠真が机に寄りかかる。


「寝不足」


「ゲーム?」


「違う」


「女?」


「まあ」


「マジで女だった」


「うるさい」


悠真がニヤつく。


「白石?」


「…………」


「図星」


「あとで話す」


「お」


悠真が少し真面目な顔になる。


「なんかあった?」


「色々」


「大丈夫?」


「分かんない」


そう。


分からない。


自分が。


今。


どこまで大丈夫なのか。


その時。


教室のドア。


凪が入ってくる。


目が合う。


一瞬。


凪が止まった。


俺も。


何も言わない。


学校では。


秘密。


朝倉と白石。


そのはずなのに。


今日は。


距離が遠すぎる。


凪は何も言わず。


自分の席へ座った。


悠真が俺を見る。


「なんか空気やばくね?」


「あとで」


「了解」


予鈴が鳴る。


先生が入ってくる。


授業が始まる。


でも。


何も頭に入らなかった。


◇


昼休み。


スマホ。


凪から。


『屋上来れる?』


すぐ返す。


『行く』


教室を出る。


階段。


屋上。


扉を開ける。


凪がいた。


フェンスの近く。


風。


髪が揺れている。


「凪」


「うん」


振り返る。


少し。


目が腫れていた。


「寝てない?」


「湊くんもでしょ」


「まあ」


「私も」


二人。


少し離れて立つ。


「101回目」


俺から切り出す。


「話して」


凪は頷いた。


「うん」


少し。


息を吸う。


「まず」


「うん」


「今が100回目なのは本当」


「うん」


「でも」


凪が俺を見る。


「101回目があるかどうかは」


「うん」


「分からない」


「……は?」


いきなり。


予想外。


「どういうこと」


「私は」


凪が言う。


「100回目までしか経験してない」


「じゃあ」


「写真は?」


「その写真」


「うん」


「私も」


一瞬。


言葉に詰まる。


「どこから来たか分からない」


「……え?」


「待って」


理解が追いつかない。


「凪が持ってたんだろ?」


「うん」


「じゃあ何で」


「気づいたら」


凪が言う。


「持ってた」


「気づいたら?」


「100回目が始まったとき」


また。


新しい話。


「始まったって」


「いつ?」


「……九月九日」


「俺に告白する前の日?」


「うん」


「目覚めたら」


「うん」


「この世界に戻ってた」


戻ってた。


その言い方。


「どこから?」


「99回目の終わり」


「十二月十八日?」


「ううん」


凪が首を横に振る。


「十二月十九日」


「……十九日?」


今まで。


十二月十八日を越えられない。


そう言っていた。


「越えてるじゃん」


「少しだけ」


「どれくらい」


「七分」


「七分?」


「午前零時七分まで」


また。


妙な数字。


「その七分で」


「うん」


「何があった?」


凪が黙る。


「凪」


「私」


手が震えている。


「湊くんに」


「うん」


「殺されたの」


「…………は?」


頭が。


真っ白になった。


「何言ってんの」


「本当」


「俺が?」


「うん」


「凪を?」


「うん」


「ありえない」


即答。


「俺がそんなこと」


「分かってる」


「じゃあ」


「湊くんじゃなかった」


「は?」


「違う」


凪が自分の言葉を訂正する。


「湊くんだった」


「どっちだよ」


「見た目も」


「…………」


「声も」


「…………」


「全部湊くん」


風。


フェンス。


遠くの車の音。


でも。


俺の耳には。


凪の声しか聞こえない。


「じゃあ俺じゃん」


「でも」


凪の目。


怯えている。


「目だけ」


「目?」


「湊くんじゃなかった」


ぞくっとした。


「どういう意味」


「分からない」


「また分からない?」


「本当に」


凪が頭を押さえる。


「そこだけ」


「…………」


「100回やって」


「…………」


「初めてだった」


声が震える。


「湊くんが」


「うん」


「私を殺したの」


俺は。


何も言えなかった。


◇


「どうやって」


聞く。


凪は一瞬。


目を逸らした。


「言いたくない」


「必要だろ」


「…………」


「俺が危ないなら」


「違う」


「何が」


「湊くんは危なくない」


「じゃあ」


「私が怖いの」


凪の声。


小さい。


「思い出すのが」


それ以上。


聞けなかった。


「分かった」


「……ごめん」


「じゃあ」


俺は話を戻す。


「その後」


「うん」


「凪は死んだ」


「うん」


「で」


「目覚めたら」


「九月九日」


「うん」


「100回目」


「うん」


「その時」


「持ってた」


「写真を?」


「うん」


「あと」


凪が言う。


「ノートも」


「…………え?」


俺は思わず。


一歩近づいた。


「持ってるの?」


「うん」


「今?」


凪。


頷く。


「家に」


心臓が跳ねる。


「101回目の俺へってやつ?」


「うん」


「中身見た?」


凪が。


首を横に振る。


「見てない」


「なんで」


「開かないから」


「鍵?」


「違う」


「じゃあ」


「開けようとすると」


凪が。


右手を見せる。


指先。


小さな絆創膏。


「切れるの」


「何が?」


「手」


「は?」


「勝手に」


「何それ」


「分からない」


「じゃあ無理やり」


「やった」


「どうなった?」


凪は。


袖を少しめくった。


手首。


薄い傷。


何本も。


「おい」


「大丈夫」


「大丈夫じゃないだろ」


「浅いから」


「触るなよ」


「でも」


「でもじゃない」


俺は。


少し強く言った。


「もう一人でやるな」


凪が。


俺を見る。


「……うん」


「今日」


「え?」


「学校終わったら」


「うん」


「そのノート見せて」


凪は。


少し迷った。


「分かった」


◇


放課後。


俺たちは。


凪の家へ向かった。


初めてだった。


「なんか」


凪が言う。


「緊張する」


「俺が言う側じゃない?」


「だって」


「何」


「彼氏、家に連れてくの」


「…………」


「初めてだから」


「100回やってるのに?」


「今回では初めて」


「その言い方ずるい」


凪が笑う。


普通。


本当に。


普通の高校生。


なのに。


話してる内容だけ。


普通じゃない。


住宅街。


白い家。


凪が止まる。


「ここ」


「普通だな」


「何想像してたの」


「知らん」


「お城?」


「そこまでは」


「残念でした」


玄関。


凪が鍵を開ける。


「ただいま」


返事なし。


「家族は?」


「今日遅い」


「……二人?」


凪が止まる。


俺も止まる。


「変なこと考えた?」


「考えてない」


「顔赤い」


「うるさい」


「ふふ」


階段。


二階。


部屋。


扉を開ける。


「どうぞ」


「お邪魔します」


女の子の部屋。


人生初。


少し。


いい匂い。


「変なとこ見ないでね」


「見ない」


「本当に?」


「早くノート」


「つまんない」


凪がクローゼットを開ける。


奥。


小さな箱。


そこから。


一冊。


ノート。


写真で見たもの。


黒い表紙。


『朝倉湊へ』


『私を忘れた101回目のあなたへ』


実物。


「……本当にある」


「うん」


凪が机に置く。


「開けていい?」


「湊くんが?」


「うん」


「危ないよ」


「俺宛てなんだろ」


「でも」


「やる」


表紙に触れる。


何も起こらない。


「……大丈夫」


ゆっくり。


開く。


開いた。


「え」


凪が固まる。


「普通に開いた」


「なんで……」


一ページ目。


文字。


俺の字でも。


凪の字でもない。


でも。


読める。


『100回目の朝倉湊へ』


「……100回目?」


タイトルと違う。


101回目じゃない。


今の俺。


「俺宛てだ」


凪が隣に来る。


二人で読む。


『これを読んでいるなら』


『白石凪はまた失敗した』


「…………」


凪の顔が。


固まる。


次。


『彼女はあなたを守ろうとする』


『でも』


『それが間違いだ』


「何?」


俺はページをめくる。


『十二月十八日に起きていることは』


『呪いでも』


『運命でも』


『事故でもない』


「じゃあ」


次。


『白石凪が原因だ』


凪の顔から。


血の気が引く。


「……私?」


次のページ。


『彼女が生きている限り』


『十二月十八日は終わらない』


「待って」


凪が。


後ろへ下がる。


「違う」


「凪」


「違う」


ページ。


最後。


そこには。


一行。


『100回目のあなたへ』


『白石凪を殺せ』


部屋が。


静まり返る。


俺は。


何度も。


文字を見る。


「……誰が書いたんだよ」


返事。


なし。


「凪?」


振り返る。


凪が。


泣いていた。


「やっぱり」


「え?」


「そうなんだ」


「何が」


「99回目」


凪が。


俺を見る。


「湊くんが私を殺した理由」


「待て」


「これだったんだ」


「違う」


「同じノートを」


「凪」


「読んだんだ」


「落ち着け」


「だから」


凪が後ろへ下がる。


「私を」


「違う!」


俺は。


ノートを閉じた。


「俺はやらない」


「でも」


「誰が書いたかも分からない」


「…………」


「信用できるわけないだろ」


凪は。


何も言わない。


「100回やって」


俺は言う。


「お前が俺を助けようとしたんだろ」


「うん」


「なら」


一歩。


近づく。


「今度は俺も一緒に考える」


「湊くん」


「一人でやるな」


凪の涙が。


落ちる。


「でも怖い」


「俺も」


「死ぬかもしれない」


「怖い」


「私が」


「うん」


「原因かもしれない」


「それでも」


俺は。


凪の手を握った。


「お前を殺す選択肢はない」


凪が。


泣きながら笑った。


「99回目も」


「何」


「同じこと言ってくれた」


「…………」


「それで」


凪の笑顔が。


消える。


「最後は」


「やめろ」


「私を殺した」


「今回は違う」


「どうして分かるの」


答えられない。


でも。


言う。


「違うから」


「根拠ない」


「ない」


「馬鹿」


「知ってる」


凪が。


少し笑う。


その時。


机の上。


閉じたノート。


勝手に。


ページが開いた。


「……え?」


風。


ない。


窓。


閉まっている。


ページが。


一枚。


また一枚。


勝手にめくれる。


そして。


止まる。


さっきはなかった。


新しい文章。


インクが。


目の前で。


浮かび上がっていく。


『選択を確認』


「何これ」


凪が。


俺の腕を掴む。


次。


『朝倉湊は』


『白石凪を殺さない』


そして。


『100回目』


『分岐発生』


「分岐?」


最後。


一文。


『101回目は消滅しました』


「…………」


凪が息を呑む。


さらに。


文字。


『代わりに』


ゆっくり。


浮かぶ。


『100回目の十二月十八日』


『二人とも死にます』


時計。


午後五時十八分。


まだ。


九十一日ある。


それなのに。


俺は。


初めて。


十二月十八日が。


すぐ目の前まで来たような気がした。


――100日目まで、あと90日。


今日は第10話まで投稿しました!


ここまでは、今まで書き溜めていた話を一気に投稿する形になりましたが、読んでくださった方、本当にありがとうございます。


第10話までで、湊と凪の過去や「100回目」の秘密もかなり見えてきました。


ここから先は、100日目に向かって二人の関係も物語もさらに動いていきます。


引き続き『君が僕を忘れるまで、あと100日。』を楽しんでいただけたら嬉しいです。

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