第50話 不適格
..... ..... .....
翌朝。
フェニーチェ島はやけに静まりかえっていた。
まだ全身には力が上手く入らない。
そんな病み上がりのような状態だったジャーベスに向かって、アルテナが言った。
「ジャーベスはいーから、今日はここで休んでろって。」
「おお。わりいな。すまんが、そうさせてもらうよ。」
「お前らも『 第三の試験 』、絶対に無茶だけはすんなよ。それから仲良くな?」
「わ……分ぁってるって!言われなくても。そんなこと。」
「じゃ、行ってくっかんな。」
「イケメン男!はやく元気になりなさいよね!」
「はい。ありがとうございます。
リベッラ王女。」
と、リベッラ王女へ向けて和かな微笑みを見せるジャーベス。リベッラは相変わらずだった。
「ふんっ!」
バタン。
家を出て行った二人を見送ったジャーベスは、
「今日はやけに街が静かだな。」
そう一人呟くと、
シルヴァリオンのいる馬屋に向かった。
..... ..... .....
州都レーゼに到着したアルテナとリベッラ王女は、その光景を目の当たりにして、思わず足を止めていた。
「……おい、なんなんだよ……こりゃあ。」
街の人たちがみんな路地や市場、いたるところで、昨日のジャーベスのような状態になって倒れていたのである。
「試験どころの話じゃねぇぞ……王女様、
これからどうす--」
「おい!!リベッラ!!?」
「あ……あるて……な……」
ガクンッ
どさ…………
リベッラ王女がそう言うと、ついに彼女までもが石畳みの上に倒れてしまった。その体は歪んでいて、今にも消えてしまいそうなほど不確かだった。
「やべえ……まじでこれはシャレになんねえぞ………」
そんな異常な状況に置かれ、パニックになっていたアルテナを、近くの家屋の影から見ていた執事エスカルドはーー
「さて、これから
君はどう動きますかね?」
消えそうな体をなんとか保ちながら、
そう言うのだった。
..... ..... .....
あれからどれぐらい時間が経ったのか
もう分かんなかった。
頭ん中も、心んなかも。ありったけの記憶を探しても、打開策はなにも見つからず、ただその場で跪いていた。
「クソぉッ!!!……なにかあるハズなんだ!!何でもいいから思い出せ……なんか思い出せよ俺え!!」
その時だった--
ぽろっ
かちゃん。
「……あ?」
アルテナのズボン・ポケットから落ちたそれは、いつか母ちゃんにもらった『 USBみたいなやつ 』だった。
「そうだ。今はなんも思い出せねぇけど……やってみるしかねえ。」
アルテナがそれを拾い上げたとたんに--
▼▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼
--アルテナ……
おまえがいつか自分の道に迷ったとき。
母ちゃんとの約束を、いつも忘れないこと。
あと、これをあんたに--
形に残るものはね、
『 心を留める器 』
になれるんだ---
▲▲▲ ▲▲▲ ▲▲▲ ▲▲▲ ▲▲▲ ▲▲▲ ▲▲▲
---「ドックンッッッ……!!!」---
いつか聞いた力強いその声に。やさしくて温かい言葉のぬくもりに。アルテナの左胸が強く脈打つ。
そして、碧い光が足元から風を巻き込んで
爆発する--
遠くの空では『 幻環 』がゆっくりと回転を始めた。
すると『 幻環 』から白紫色の光が光速で飛んで来て、彼の背中に真っ直ぐ突き刺さった。
「ぐゥッッ………!!」
ゆっくり目を見開く。アルテナの灰青の瞳には強い光が宿り、左胸には『 影の環 』が浮かび上がっていた。
左腕に入れたシンボルマーク。
ギルドの誓い=『 不死鳥の片翼 』が淡く光ってアルテナに勇気を与える。
『これで俺が壊れたって構わねえ。戻れなくなる……かも知んねえ。だけど今は--
「母ちゃん。リベッラ、ジャーベス、みんな。もう頼むから。お願いだから。誰も失いたくないんだ俺は……」
「この街のみんなをただ……
俺は助けたいんだけなんだァァア!!!」
そう叫んだ瞬間---
一人や二人なんかじゃない。
街のすべての人々の『 生まれてから今までの記憶や思い出 』『 全員分の人生 』が。
頭の中に激流のごとく流れ込んで来た。
「ぐがッッ……がああぁあああ!!!」
-----接続可能 |記憶 複数存在
許容範囲超過 危険領域 最終警告!
---識別名:複数存在 判別不能 最終警告!
--波形:生体反応読込エラー 最終警告!
-起動ログ:アルテナ・フォッティーゾ
---再構築率:読込エラー 最終警告!
-欠損記憶読込エラー
最終警告!
その代償はすぐに支払われた。




