第1話 異星の美少女
---その惑星の記憶が一度、
真っさらな白紙になった---
ただ一つだけ
消えなかったものがある。
それは--
『 強い願い 』だけだった。
---
幾億の恒星がその瞬間
同じ夢を見た。
母が娘に伝える料理のレシピのように。
味付けも、火加減も、失敗も全部。
記録が記憶に。
そうして新たな生命へと、
その形を変えていく。
やがて世界はまた
夢を観始める。
その時---
『観測の鎖』は切れたのではなく、
確かに次へと『渡された』のだった。
ある夜。
一つの夢はある惑星に落ちていった。
太陽が二度昇る時代---
やがて『闇色の海』に沈み行く運命にある
青い惑星=地球へと。
---
星が落ちてきそうな
そんな夜だった--
地平の彼方まで果てしなく続く砂漠地帯。
そこでは生き延びることなど誰一人として到底許されない、そんな冷酷で無慈悲な環境が一帯に広がっている。
--そこには、何もなかった。
朽ち果て砂に埋もれた小さな聖堂の片隅で、
一人の少女が静かに目を覚ます。
---『 おぼえていてね。ノエマ。』---
♦︎♦︎♦︎
崩れ落ちて穴が空いた天井の隙間からは、
『幻環』の白紫光が差し込んでいる。肌が淡く光っているのは、その光を反射させているから。
真夜中、一人の少女が聖堂の古びたベンチの上
で目を覚ました。
その瞳は翡翠色で、髪はプラチナに輝き、まるで生まれたばかりの星の光を宿しているようであった。その輝きはどこか儚さを帯びている。
少女は目をこすりながら辺りを見回し、つぶやいた。「……ここ……どこ?」
「…………」返ってくる声はなかった。
彼女は次第に動揺しながらも、
「………おかあさん!!
………
おとう………さん………!
………って………
なに………?」ーー
と口にした。
口をついて出たその言葉に、
感情だけが先に反応して揺れる。
理由も、意味も、なにも思い出せないまま。
少女はベンチから立ち上がろうとしたが、力がうまく入らず、床に倒れ込んだ。
さらさらとして冷たい地べたとほっぺがくっ付いて、倒れた時に舞った小さい砂粒が目に刺さった。
そのままの姿勢で視線だけを動かしてみると、壁には『 ひび割れたステンドグラス 』、床にはきらきらと『 淡く光る砂 』の吹き溜まりだけが見えた。
そして仰向けになって天井を見上げると、
天井には大きな穴が空いていて。
そこからはなんだか不思議な色の明かりが、少女のどこか不安気な表情を照らし出していた。
しばらくその景色を見てから、自分の胸元がぼんやりと光っているのに気付いた。
地面に坐り直して。少女が胸に手を当てると、そこには『 ペンダント 』があった。
それを手にしてそっと開くと、中には
『古い写真』が一枚だけ収まっていた。
写真には若い女の人が映っていて。その人は、
なぜか自分に微笑みかけているようにも見える。
そしてその瞳の奥には、見たこともないほどの深い静けさと、人間離れした美しさがあった。
写真によく目を凝らすと、下にはすり減った文字でこう書かれていた。
『おぼえていてね-ノエマ』
『To the one who remembers - Noema』
「ノエマ……?」
少女がその言葉を口にしたとたん--
頭の奥で何かの炸裂音が響いて
直後に鋭い痛みが走った。
「ッ!んっ……。」
少女は両手で耳をふさぎ、息をひそめてじっとしていた。
しかし次の瞬間、ペンダントから燃え盛るような紅い光が溢れ出した。
「あ……」
反射的に目を閉じる。
まぶたの裏が赤く光り、脈打っているのを感じた。
冷やされた砂漠のにおい。
夜風にサラサラと舞う砂の音。
崩れた建物の壁に砂粒が当たる感触。
その全てを、少女は確かに感じ取った。
ペンダントの放つ紅い輝きは、なおも止まらない。
少女は胸の内で「あれ……かなしくないのに」「どうして……」と思った。
涙が頬を伝ったが、それが『 哀しみ 』だとは
まだ彼女自身にもわからなかった。
---そして思い出した。
「ノエマ……それが……」
「わたしのなまえ?」
星が落ちてきそうな夜に。
少女ノエマは初めて『 一つ目の記憶 』を
取り戻した。
♦︎♦︎♦︎
ビュオオオ ザアアァ……
砂嵐が吹き荒れる砂漠で
もう一つの小さな影が
砂に埋もれたまま
淡い光に包まれて
揺れていた。
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