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はじまりの統一、再び。  作者: I嬢
初めに
2/3

   ▶帰郷   

投稿頻度えぐすぎる。

不定期だけど、22:40には投稿したい。

 ━━━━━━━━━━

  異世界_帝都中央駅

 ━━━━━━━━━━


ごうっ、と空を震わせる蒸気の音が、

緑深い谷間にこだましつつあった。


人外よりも住んでいる人間の割合が圧倒的に多い帝都中央駅には、

今日も白い蒸気を吹き上げ続けている

巨大な機関車が停まっていた。


古くからの歴史を思わせる真っ黒なボイラーに、

磨かれた車輪、連結棒のひときわ目立つ艶。


それは何処か愛おしいほど「手作り感」と

「技術者の魂」が宿った、旅客用蒸気機関車。


そのホームの端で、革の旅行鞄トランク

両手で抱きしめながら立っている一人の少女がいた。


ゲルダルート・ホルツコーレ。


この世界の中でも希少なドワーフ達が多く住む村の村娘にして、

弱気で泣き虫で、生真面目すぎて損ばかりしている可哀想な子だ。


前髪はだらしなくだらりと垂れて、

目の前が見えていないように見えるが、そもそもゲルダルートは

目が良いので、その事など気にも解さない様子だ。

そして、前髪がこんなことになっているのは、ゲルダルート自身が

あまり眩しい光を見ることを好まず、

極端に明るい所があまり好きじゃないのが大きな理由だが、

実はこうしていた方が可愛いからという理由が裏にはある。


だが、ひとつだけ胸を張れる才能がある。


それは、機械の修理だ。


小さな手でも、細かな歯車や魔導ピストンの調整ならお手の物。


誰よりも、機械の「困った」を理解して直してあげられる。


そのせいでドワーフの中で超発明家として

有名な父親に修理ばかり押し付けられ、

発明の為の時間が全然取れないので、

「発明家の娘なのに発明が出来ない事」が悩みだ。


「え、えっと。今日はちゃんと帰れる.....はず。きっと、大丈夫ですよね.....うん。」


彼女は不安そうに彼女の身長とは不釣り合いな大きな車体を見上げる。


可愛い子には旅をさせよ、という諺のように、

彼女は突如頼まれた「ある人物」からの

大規模な修理の依頼を引き受けて見知らぬ帝都に遠出していたのだから。


汽笛が短く鳴り、白い蒸気が跳ねるように吹き出した。

その音にびくっと肩をすくめるゲルダルート。


少し怖がりだが、機関車は正直言ってとても好きだ。


蒸気の匂いも金属の焼ける音も、むしろ自然で落ち着く。


ただ.....「どこへ連れていくのか」が、不安なのだ。


彼女は文字しか書かれていない、

至ってシンプルな切符を取り出しては、

帝都中央駅という文字と村の最寄り駅の名が載っている事を確認する。


「まもなく発車します!乗るなら今のうちですよ~!」


車掌が声を張り上げる。


「......! の、乗らないと.....!」


ゲルダルートは小さな足をぱたぱたと動かして乗車口へ向かう。


階段を一段ずつ踏みしめて、車内へ。


古木を磨いたような温かみのある内装が広がり、

窓の向こうには豊かな森と、遠くに光る鉱山。


そこは薄らと見える、帰り道の道標のような物だと記憶してある。


それから、ゲルダルートは空いている席にちょこんと腰を下ろした。


足は地面につくかつかないか分からないくらいの長さであり、

ぶらぶらとブランコのように足を運動させた。


(今日は......迷子にならないように.....。絶対にちゃんと帰らないと......!)


小柄な身体は古い革張りの座席に沈み、両手は薄く煤に汚れている。


背丈は人間の子供にも見えるほどに小さい。


頬はぷっくりとして丸く、耳は人間よりわずかに丸みを帯びて短く、

金属細工のために分厚くなった指先や掌には細かな傷跡が刻まれている。


手のひらの硬さ、爪の中に溜まる黒い汚れは、

彼女が幼い頃から工具を握り続けてきた証だ。


こういう手は特に、繊細な部品を扱うのに向いている。


車両の内装は完全に旅客用に作られていて、

窓の外側には手作りの鉄枠があり、

そこに取り付けられた板ガラスは陽光が入射して、

同じ角度で緩やかに、穏やかに、反射していた。


座席は古さと高級さを同時に感じさせる本革で覆われ、

擦れた縫い目からは中身の詰め物が顔を覗かせ続けていた。


窓際に差し込む光は、外の世界の色をぼんやりと

水をより多く含んだぼんやりとして、

鮮明とは言い難い水彩画のように映し出す。


広い草地の緑、斑に浮かぶ小さな森、遠くに連なる山脈、

そして活気に満ち溢れ、未だに賑わい続けている帝都。


ゲルダはそんな景色を、いつもの変わらない眼差しで飽かず眺めた。


列車自体は、よく見知った蒸気機関車の姿をしているが、

細部がやはり違った。


大きなボイラーの表面には、彫り込みのような細工が施され、

そこに描かれた模様は古びたルーン文字や帝都の紋章にも似ている。


列車の車内は静けさと微かなざわめきに満ちていた。


まわりの乗客は三々五々。


布製の荷物や籠を傍らに置き、声をひそめて隣と話している。


彼らの職業や服装は多彩で、


魔導書や古文書をすぐ隣の席に置いて、

今もその中の一冊を読み漁っている哲学者、

真新しい楽譜の束を抱えた作曲家、

そして、寄り添い合って眠る兄弟。


ゲルダは席に座ってから、膝の上で小さな手を組んだ。


彼女はいつも、不安になると手を握る癖がある。


今もその癖が出ていて、指先が悴んでいないのにわずかに震えている。


目は窓の外の風景に釘付けだが、

視線は頻繁にあちらこちらへと移動しており、

全くと言っていいほど一点に集中しない。


胸の中の鼓動が痛いくらいにどきどきと高鳴るたびに、

彼女は小さくため息をつき、思わず「大丈夫」と自分自身に囁いた。


声はほとんど戸のきしむ音にかき消されるが、

その中には彼女の誠実な祈りが混ざっていた。


どうか。

どうか父親の元に。

他の6人の兄や姉の元に。

何事もなく帰れますように。


列車の車掌が通路を歩く。


車掌は黒い制服を纏い、金属製の笛を首から下げている。


その顔つきは帽子を深く被っており、顔は見えなかったが、

どうも目は鋭く旅客の様子をうかがっている事はすぐに分かった。

彼女は顔色が悪いのだろうかという程度にしかその物事を捉えてはいないが。


「.....切符、拝見します。」


車掌の足音は、床板にわずかな振動を残す。


車掌はこの車両にやって来ては最初にゲルダと

「目を合わせる」と、彼は短く頭を下げ、

ポケットから小さな木片を取り出して彼女に差し出した。


乗車券を示す代わりの小さな刻印の入った札。


まあ、つまるところ、切符だ。


「では.....良い旅を。」


ぱちん。


軽快な音がして、切符に穴が開けられた。


「ありがとう、なのです」


小さな声で切符を受け取るとゲルダはあることに気づいた。


「ある鳥」の模様が刻まれているのだ。


(これは.....どういう鳥なのでしょうか.....?この列車のマーク.....だったり?)


彼女にとって生まれてから「この世界では」見た事がない鳥だった。


しかし、彼女は殆ど村から出ることが無く、

まともに村から出始めたのは最近な為、

村の外での経験が疎いせいかと無理矢理自身を説得させた。



故に.....


  「違和感」は気づかなかった。

   気づきようがなかったのだ。


車掌は眉を僅かに上げ、そしてまた通路の奥へと歩いて行った。


列車の天井には、灯りをともす小さなランプが幾つか

ちゅうぶらりんにぶら下がっているが、

時折停電しそうに不安定であり、チカチカと点滅し続けていた。


ランプの中には蜜蝋のような灯火を放つものもあれば、緑色に揺れる、

魔力が固められて作られた人工の灯火を放つのものもある。


ゲルダはその光を見て、ふと思い出した。


村の夕べ、鍛冶屋の炉の光、

もう二度と会えない母が縫い物をしている傍らで見上げた火の粉の舞い。


いくつもの記憶が、彼女の胸を暖め、

そして同時に急速に冷やしていった。

どれも事後の記憶に過ぎない。

熱が急に出て来て、急に冷めていくように、

一時的にどうでもよくなってしまうのは時間の問題であった。


がたん。


やがて、列車はゆっくりと動き出した。


最初はほんのわずかな前後の揺れだけだったが、

それが確かな前進のリズムへと変わっていく。


耳に届くのは車輪とレールの摩擦の金属音、

連結器の微かな軋み、車内の話声、

そして遠くで鳴ったかのように聞こえてくる汽笛。


ゲルダは掌を膝の上に置き、深く息を吸った。


肺に入る空気はどこか金属の冷たさを帯びているが、

それでも暖かさが胸に満ちたような気がした。


蒸気の白い息は窓ガラスに淡く曇りを残し、

車輪は規則的なリズムで鉄路を叩いていた。


ようやく家に帰ることが出来る。

その安心がじんわりと胸に広がり、

ゲルダルートはほっと息をつこうとした、その瞬間だった。


「......えっ?」


向かい側の座席に、いつのまにか人影があった。


先ほどまで、そこには誰もいなかったはずだ。

ゲルダルートはきょとんと目を瞬かせる。

そして、すぐに胸の奥がざわりと震えた。


男がいた。


いや、その人物では無いのかもしれない。


黒いコートとも軍服ともつかぬ重厚な服をまとい、

雪のように白いマフラーを緩く首に巻いている。


その人物は、短く整えられた白銀の髪を持ち、

その透き通った青緑の瞳はどこか遠い場所を見つめているようだった。

静かな湖面のような、わずかに翳りを帯びた表情。


それは正に、


            「紳士」。


ゲルダルートが戸惑いのまま固まっていると、

その人物はゆっくりと視線を彼女に向けた。


その瞳は、今までずっとここにいたことを

当然とするかのような様子を醸し出していた。


まるで最初から座っていたと示すかのように。


それから、意味深な言葉を最初に呟いて見せる。


「君、家に帰りたいんだろう?」


と。

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