第203話 鬼の嫁入り
「菊池修吾殿。我が娘、紅葉をあなたの妻にしなさい」
その爆弾発言に、
「はあああああああああああああああああ!?」
叫びを上げたのは、紅葉だった。
大声だった。
俺の隣で声上げようとしたっぽい水面ちゃんたちが固まっていた。それくらいの大声だった。
「ちょ、ちょっとお母さま何言ってんの!?」
「何って……」
楓さんは少し考え込み、
「母親として娘の恋のキューピッド役を」
「いらんわっ!」
あくまで冷静な母親に対して火山のように憤慨する娘。
仲が良いのか悪いのか。
「だ、だいたい……あいつには決まったカップリングがもういくつかあるのよっ!」
「カップリングですか」
「そうよ、キチ×チユとかキチ×ユナとかが鉄板ね、あとそこにキチ×ミナ含めた三つが最有力なのよ、そこに私が割り込むなんて……」
なんか知らない単語が聞こえて来た。
「でもキチ×ササカップリングも最近キテるわよね。お姉様がたから人気で……いやそうじゃなくて!」
なんだろう、背筋がぞわっとした。
そして楓さんは真剣な目で紅葉を見据える。
「……それがありなら、菊池×鬼武もありではないかしら?」
「……御慧眼ですわお母さま」
「お前ら何を言ってるんだ!?」
思わず叫んでしまった。
何を言っているんだこいつらは。
「……と、ともかく。修吾は高名な高位探索者なのよ。この馬鹿本人は気づいてないけどむっこうモテるのよ!」
「お前は俺が金目当てで告白されたあげく裏で「やっぱないわ」と言われてた事実知ってて言ってんのか」
「……え、まじで?」
「マジだよ。ああモテてるよ金や知名度目当ての女どもにな!」
言わせんな、涙が出て来る。
俺の言葉に紅葉は「ごめんなさい……」と謝罪した。いや別にいいんだけどね。モテたくて配信始めたわけじゃないし。
それに比較的まともな女の子たちとの交流もちゃんとある。クセ強い連中ばかりだし色恋沙汰じゃなきて友情だけど。
「それなら余計にうちの娘は良物件だと思いますが。少なくとも実家が太いので金目当てというのは無いとわかるでしょう」
「だからお母さま、そもそも重婚ですってば!」
いや重婚も何も俺は結婚してねえぞ。
娘はいるけど。
というか紅葉は俺を買いかぶりすぎだろう、そんなモテモテ大明神みたいに言うなよ。
いや評価が高いのは素直に嬉しいけど。
「八年前。ダンジョン法によって高位探索者は重婚可能と決まりましたね。つまり紅葉、あなたは入れるのです、キチクハーレムに」
「お母さま……!」
何だよキチクハーレムって。このおばさん古風美人に見えてネットに毒され過ぎじゃねえの。
つか今更だけどどんな法律だよ。
ダンジョン法は性急に立案された法律だから所々何これな無茶なのも入ってるのだ。
混乱に乗じてアホ政治家が調子乗ったとしか考えられねえ。
何とか言ってやってくれ千百合!
俺はそう千百合のほうを見る。
「いいんじゃない? 有力者にはお妾さんとか普通じゃん」
「しまったこいつ古い時代の妖怪だった!」
歴史的に考えると一夫一妻は比較的新しい考えなのは確かだが。
ええいなら一番良識的な水面ちゃんに望みを託す!
反論どうぞ!
「……お、おらも別にいいんじゃないかなって……そ、そういう一夫多妻も……じ、時代の流れ?」
目を逸らしながら言う水面ちゃん。
こっちからも裏切られたた!
もはやここに敵しかいねえのか!
鬼武を見る。そこには「諦めてください」と言いたげな鬼武の笑顔があった。くそったれ四面楚歌だ!
「……まあ、そうはいっても貴方はまだ17歳、紅葉は15歳。法律を持ち出すならば、結婚できない年齢なのも事実。
……ここは許嫁ということでお互い妥協しましょう」
しましょう? でもてませんか? でもなく断定口調だった。
なんか話のゴールがずらされて気がする。何の話してたんだっけ。
「紅葉。あと一年。女が結婚出来る16までに菊池殿の心を射止めて、妻の座に入り込みなさい」
「お母さま、今は結婚は男女ともに18歳です」
「……そうだったわね。ではあと三年で、見事彼の妻となるのです。いいですね」
「お母さま……」
……いやだから俺の意志を無視すんじゃねえよ。
完全に決定ごととして話勧めてるなこの母娘……。
「まあ、いいんじゃない? あの火角家の娘と許嫁ってことは身内も同然、水虎家への牽制にはなるでしょ」
千百合が耳打ちする。
まあ、確かにその通りなんだが……。
……許嫁、婚約者か。
ようするに口約束だけだ。それならまあ、なんとでもなるだろう。
後に「火角紅葉、お前とは婚約破棄だ!」と言えばいいわけだし。
いやそれは流石に悪役っぽいな俺。ないわ。
「……まあ、後の事は後で考えればいいか」
そう、すぐに政略結婚させられるわけじゃない。
今の状況を切り抜けるには最適解なのかもしれない。
……しかしなんだろう。
何か、とてつもない地雷を踏み抜いてしまったような気がした。
◇
そんなこんなで、俺達の長野旅行は終わった。
あの後、とにかく水虎家に対抗するための処置であることを再確認し、そして片付けやらなにやらを終えて一泊休み、そして帰路についた。
帰りの道中、やたら水面ちゃんが拳を握って気合いを入れているのが気になったが、まあ彼女もダンジョン攻略をなしとげた事で心境の変化もあったのだろう。
ともかく、水虎家対策として火角家をひとまず味方につけることは出来た。
これが奴らへの牽制になればいいんだが。
俺はああいう連中と事を構えるつもりはなく、平和にのんびりとダンジョン探索と配信をしていたいだけだからな。
そう、平和が一番である。
「た、たのもーっ!」
そう思いのんびりしていたころ、マヨイガに訪問者が現れた。
そう、訪問者。
正面からマヨイガに来れるものは、迷い込んだ者かマヨイガダンジョンをクリアしたもの、そしてマヨイガが許可した者だけだ。
そしてその訪問者は……。
「……紅葉?」
そう、俺の暫定婚約者の火角紅葉である。
名目だけの婚約者の彼女は、信州長野にいるはずだが……。
「なんで遠野にいるんだ? 忘れ物か?」
「ち、違うわよっ。そ、その……お母さまが、許嫁なら傍で仕えなさいって……というわけで、遠野の中学に転入したのよ」
「……なんだその行動力」
俺は呆れる。なんだ楓さんの強引さは。
「というわけで、すみませんが紅葉様をマヨイガに住まわせていただければ」
傍らにいる鬼武が済まなさそうに言う。
「住まわせてって……そこらに部屋借りればいいだろ、金持ちなんだから」
「金持ちですので、岩手の不動産屋に手を回して紅葉様が物件を借りれないようにされています」
「金持ちの横暴が来た!」
何やってんだよあの人は。
「菊池殿が断った場合、紅葉様は浮浪者となります。なおホテルにも手を回しておりますので」
「それが娘にする仕打ちなの!?」
「それがうちのお母さまなのよ……」
紅葉がため息をつく。
苦労してんだな。
しかしどうしたものか……。
「いいじゃない、マヨイガに部屋はたくさんあるんだし」
千百合が廊下からやってきて言う。
「マヨイガが普通に戸を開けたってことは、オッケーなんでしょ」
「そういうもんかね」
「そういうものだよ。それに紅葉ちゃんの存在はこう……かんふる剤? ってやつらなるかもだしね」
「何のだよ」
「さあ?」
千百合はとぼけて見せる。
まあいいけどさ。
「さっすが千百合ちゃん、話がわかる!」
そして紅葉は目をきらきらさせて千百合の手を取る。
「前はこう雰囲気的に言えなかったけど、めっちゃファンです! ゲーム攻略配信も見てますっ!」
「あ、うん、ありがと……」
「あとでサインくださいねっ! 同じひとつ屋根の下で過ごせるなんて感激!」
「お前キャラ違うくない?」
「前の時はいっぱいいっぱいだったのよ、攫われてそして助けられたと思ったら助けてくれたのは偽物だったしで」
「いやその時は本当にごめん」
「それはもういいのよ、こないだも助けてくれたし感謝してるし。とっとにかく、あれよ」
そして紅葉は一歩下がり、廊下に腰を下ろし、手をついた。
「火角紅葉、本日嫁入りに参りました。よろしくお願いいたします、旦那様」
……ん?
形だけの許嫁だったはずだよな?
えっと……まあ言い間違いか聞き違いなのだろう。
どんどはれ。
……どんどはれ、だよな?
第十章 鬼女紅葉と鬼哭里ダンジョン編
~完~
第十一章へ続く
そして本日よりコミックノヴァにおいてあやかしダンジョン配信記、ついに連載開始でございます!
皆さま是非ともよろしくお願いいたしますよ!
https://www.123hon.com/nova/web-comic/ayakashi_d/




