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夜行さん  作者: 原月 藍奈
人喰いの屋敷編
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決戦 4

再び主人公の陽視点です

 私はエスカレーターを駆けあがる。すぐにシスティーナ礼拝堂の天井画を再現したホールが見える。が、今の私にはゆっくりと鑑賞している場合はない。

 地下三階には山本さんの姿は見えない。私はスピードを落とすことなく、地下二階まで駆け上がる。


「山本さん! どこにいますか! 返事をして下さい!」


 そう大声で叫ぶものの、返事どころか物音一つ聞こえない。黒い靄も見当たらない。完全に見失ってしまった。


 私はギリッと歯を喰いしばって、ここでやっと後ろを振り返る。――夜行さんの姿は見えない。


 まだ下の階にいるのかも……。


 このまま一人で山本さんを探すべきか。夜行さんと合流すべきか。


「……――」


 ちょっと悩んだが、私は真っすぐに前を向いた。


 このまま先を急ごう。


 退治屋は人命第一。山本さんの身の安全を一番に考えないと。それに――――。夜行さんは私より何倍も強い。そりゃあ父さんには敵わないけれど。それでも夜行さんの強さを信じているから。そんな簡単に殺られたりしない…………はず。

 とにかく。夜行さんのことも考えるならとっとと山本さんを探し出して、人喰いの屋敷を倒さないと。


 私は一部屋、一部屋、慎重に美術館をまわっていく。今いる場所、地下二階はルネサンス・バロック時代の美術品があるスペースだ。ちなみに最初にいた地下三階は古代・中世の作品が置かれている。

 美術に詳しくない私にはほとんどが知らない作品ばかりだが、知っている作品もある。入り口近くにある『ヴィーナスの誕生』には見覚えがある。裸の女性がホタテ貝の上に立っている有名な絵だ。


 私は思わず足を止めてしまう。だがすぐに首を強く横に振って早足で、慎重に、先を進んでいく。


 次に足を止めてしまったのはダヴィンチの『最後の晩餐』だ。イエス・キリストの処刑前夜に、使徒十二人と食事をしている絵だ。『最後の晩餐』はユダがキリストを裏切ると予言した時の情景が描かれている……という。


 『最後の晩餐』は二つ、対面するように飾られてある。原画の修正前と修正後でわざわざ二つ陶板を作り飾ったようだ。


「『最後の晩餐』は今まで何度も修正されているんですよ」

「!?」


 突然声がかかり、私は勢いよく刀を相手に向ける。――と、そこには。


「わわっ!!! 日髙さんっ。急にびっくりするじゃないですか」


 尻もちをついている荒井先生がいる。


「荒井先生どうしてここに!?」


 私は刀をおさめて、荒井先生に手を伸ばす。荒井先生は「いやぁ~」と苦笑いしながら私の手を借りて立ち上がった。


「私は美術の先生ですから。よくこの美術館に来るんですよ。特に先生、という立場上、夜に訪れることが多いんです」

「……? よくこの美術館に来るんですか?」

「ええ。何かおかしい、ですかね」

「いえ……」


 美術の先生だから美術館によく来るのは普通のことかもしれないけれど。大塚国際美術館に何度も? 人喰いの屋敷がいるのに?

 もしかして人喰いの屋敷は喰う人間を選んでいる? そうじゃなきゃ、大塚国際美術館はとっくに封鎖されている、か……。


 私は荒井先生の腕を強く掴む。


「ひ、ひ、ひ、日髙さん!?」

「先生。ここから出ましょう」

「きゅ、きゅ、きゅ……急にどうしたんですか」

「この美術館には妖怪が居るんです。それもとてつもない大物が!」


 私は荒井先生の腕を掴んで元来た道に戻ろうとする。だが荒井先生は「ちょっと待って下さい」と動こうとしない。


「よ、妖怪は恐いですけど。でも。私、ほぼ毎日のようにこの美術館に来ていますが。特に変わった様子は」

「今までそうだったかもしれませんが。今回もそうとは限らないですから」

「でも……」


 ホラーが苦手な荒井先生にしては珍しく歯切れが悪い。

 荒井先生は一度目を瞑った。かと思ったら「それじゃあ一作品だけ見てもいいでしょうか」と目を開く。その瞳はキラキラと輝いていた。


「ゔ……」


 荒井先生の瞳には見覚えがあった。――野田君が私に向ける瞳と同じ。好きなものに対する探究心、好奇心。好きなものに対する関心のある瞳だ。


「荒井先生。もしかして。美術オタクだったり……」

「オタクっていうほどのものじゃないんですけどね。日髙さんを見ていたらどうしようもなく、ある作品を見たくなりまして。その作品を見たら。見たらすぐに帰りますから!」

「…………」


 私は深くため息を吐く。


 野田君もそうだけど。こういう人達って、私がどう言っても納得しないんだよなぁ。


 私は渋々と頷いた。


「ただし! 危険だと感じたらすぐに外に出てもらいますからね。チャチャッと見て、チャチャッと帰りますから!」

「ええ、ええ。もちろんですとも。それじゃあこのまま地下一階まで上がりましょう」


 そう言って先生は私の前を歩こうとする。


「荒井先生、私が先を歩きますから」

「ああ! そうですよね」


 先生は心底楽しそうに私の後ろにまわる。


 妖怪がいなければ美術館巡りを楽しんでもらいたかったのに。なんなら夜行さんと一緒に先生に着いていって、絵画の解説を聞くのも楽しかったんだろうな。


 そう思いながら、私は一番近くにあるエレベーターまで先生を誘導した。


ここまで読んでくださってありがとうございます!レビュー・コメントいただけたらめちゃくちゃ嬉しいです。辛辣なコメントでもウェルカム!


ここで荒井先生の登場です。そりゃあ美術の先生ですもの。美術館にいてほしいじゃないですか!

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