決戦前夜 2
再び主人公の陽視点です。
コンコンコン、と物音がして私は飛び起きた。すぐさま布団の横にあった刀を持つ。部屋の柱に掛けてある時計は二時過ぎ。深夜だ。
再びコンコンコンと音が鳴る。どうやら音は――。私はカーテンでしめられた大きな窓を見つめる。
この窓からだ――。
一気に体に緊張が走る。深夜だということもそうだが、窓の奥から妖怪の気配がする。何より。妖怪が近づかないと気配に気付けなかったということ。
即ち、それだけ強い妖怪。
私はグッと刀を握る。その瞬間、ぴーちゃんが「ぴい!」と窓に向かって飛んでいきカーテンの端を加える。
「ぴーちゃん!」と制止の声をかけるが、ぴーちゃんは構わず思いきりカーテンを引いた。
窓の向こう側にいたのは赤い顔と高い鼻、特徴的な修験者の服装。――――天狗だ。天狗の姿は白い翼が真っ赤になるくらい傷だらけだった。
「っ!!!」
私は退治屋という立場も忘れて、急いで窓を開ける。
「ちょっと! 大丈夫!?」
「……っ」
天狗はゼェゼェと肩で息をしながらほぼ倒れる様に部屋になだれ込んで来た。私は天狗を抱きかかえるようにして支える。両手があっという間に真っ赤に染まる。
どうしよう……。こんなにひどい怪我……。
一瞬脳裏に山童の最後が浮かぶ。それを振り払うように私は首を振った。
父さんは…………呼べない。なら――。
「ぴーちゃん。夜行さんを呼んできて!!! お願い!!!」
私の声にぴーちゃんは翼を羽ばたかせる。だが、ぴーちゃんが飛び立つ前に天狗が私の腕を掴む。
「言いたい、こと、がっ」
「今はそんなこと言っている場合じゃないでしょう!? とにかく怪我を」
「大丈夫、ですからっ」
「…………」
私は無言でぴーちゃんに頷く。ぴーちゃんはすぐさま私の意図を察して猛スピードで窓から夜の空へ飛んでいった。
私はぴーちゃんから天狗に目を移す。天狗はゼェゼェと息を切らしながらも唾を飲みこんで口を開いた。
「い、行っては……いけ、ない。…………美術、館」
「美術館? それって大塚国際美術館のこと?」
私の問いかけに天狗は静かに頷く。そして掠れた声だがはっきりと妖怪の名を口に出した――。
「……人喰いの、屋敷っ」
「!? それって!?」
私の問いに答える事は無く、天狗は再び肩で息をする。
この怪我……。大塚国際美術館が……『人喰いの屋敷』が天狗に負わせた……。それなのに。
「天狗。どうして。夜行さんじゃなくて私のところに来たの……」
だって夜行さんの方がきちんと怪我に対して対処できたはずだし。夜行さんは妖怪で、私は退治屋。私だけじゃなく退治屋の父さんもいるこの家に来るなんて。そんな危険を冒してまで……。どうして。
天狗は息を切らしながら「それは」とわずかに口角を上げた。
「あなたの、存在は。私にとっても。娘のようなもの……ですから」
ここまで読んでくださってありがとうございました。
いよいよ物語の軸に触れられてホッとしております。次々回あたりでまた戦闘になるので。今から書くのが楽しみです。




