決戦前夜 1
初の天狗視点です
陽さんと常連の山本さんが帰られてから徳島の夜を飛ぶ。首無し馬ほど速くはないがそれなりの速度で飛べる。
今日行くのは大塚国際美術館だ。
夜行さんたちがただ遊びにいくだけだと分かってはいますが。何か危険があっても困りますし。『人喰いの屋敷』の情報も兼ねて下見に。
明かりもなく車が通っていない道から、鳴門市に近づくほど徐々に電気が増えていく。夜なのに人の気配――。三好市と違って鳴門市は比較的に都会だ。
しばらく海に向かって飛んでいるとかなり大きな敷地と山の中に段をつくって建てられたコンクリートの建物が見えた。この建物こそ大塚国際美術館だ。大塚国際美術館は建物のほとんどが山の中にあり、地下三階から地上の二階まで展示物で埋めつくされている。
これを全て見るのはかなり難しそうですが。
夜行さんに必死についていく陽さんの姿が今から想像できて思わず苦笑いをこぼしてしまう。
私はチケットカウンターの門を素早く低空飛行ですり抜ける。その先にある長いエスカレーターの上空を飛ぶとシスティーナ礼拝堂の天井画を再現したホールが現れた。
思わず「ほぅ」と声が出てしまう。
天井一面に装飾絵画が所狭しと広がっている。圧巻――……。その一言に限る。
私は思わず立ち止まってしまった。
いやいや。立ち止まっている場合ではない。
気を引き締めて妖怪の気配を探る。
今のところ特に妖怪の気配もなさそうですし。問題はなさそうですが……。
そうは言っても私はひとまずはぐるっと地下三階を見回り、再びエスカレーターの上空を飛んで地下二階へ上がる。だが――。
「!!!」
二階に上がった途端、辺りが異様な空気に包まれる。一気に緊張感が高まる。
この空気。妖怪? いや。妖怪と似て非なる存在……? もしかしてこれが噂の新しい妖怪、ですか。
私はその異様な空気が濃い場所に慎重に近づいていく。『サン・ロマーノの戦い』等の展示物を通り過ぎて行くと『最後の晩餐』が飾ってある展示室に行き着いた。
『最後の晩餐』は展示室に対面するように二枚飾ってある。1995年5月に原画の修復が入り、美術館の工夫で修復前と後のものと比較できるようになっていた。
異様な空気を出しているのは……修復後の方、ですか。
ギロリと鋭い目つきで絵を見る。異様な空気はどんどんと濃くなっていく。
一体、何が……。
私は『最後の晩餐』を探るべく一度床に降り立つ。そして一歩踏み出そうとする。が。
「!!!」
――動かない!!!
体を捻り足を上げようとするもまるで動かない。
マズい! すでに相手の術中にハマってしまっている。
なんとか上半身は動く。私は羽団扇を取り出して『最後の晩餐』に強風を叩きつけた。だが効果はない。そのうちに『最後の晩餐』から黒い影がぬっと出てくる。影は私の足を掴み、絵に引きずり込もうとしてくる。
「っ!!!」
羽団扇で黒い影を攻撃するも効果はない。それどころか……。
「いッ!!!!!!」
黒い影は形を変え、鋭い棘のようなものがついた形に変わった。棘に形を変えた影は足に絡みつき、深く皮膚を突き刺す。
それでも足を自由にしようと抵抗するも影は次々と増殖していき上半身に絡みつく。羽団扇が使えない状況に追い込まれた。
「ぐっ!!!」
棘のせいで全身から血が垂れてくる。
そうこうしているうちに体は絵に近づいていき――。そして――――。絵ではなく壁全体から鋭い牙が出てきた。
まさか。『最後の晩餐』が妖怪本体なのではなく。こいつの正体は…………。
私は最後の力を振り絞って羽団扇を力強く握る。
……だとしたら。ここで消えるわけにはいきません!!!
私は手首を動かし自分自身に羽団扇を向ける。
この場所を出て情報を伝える。後は最悪どうなっても構わない……。
ギッと強く歯を食いしばる。そして羽団扇に一気に力を込めた。
風よ――。古の存在に力を貸し下さい――。
ブワッとどこからともなく風が羽団扇に集ってくる。
「刃風!!!」
その風を一気に放出するように自身に向けた。
「っ!!!!!」
自身で起こした風で皮膚が裂ける。だが黒い影にも渾身の一撃は効いたようで体の拘束が緩む。
すかさず私は地面を蹴って上空に上がった。そこから地下にある出口へと猛スピードで飛ぶ。
早く。早く。早く。このことを知らせないと!
いつも読んでくださってありがとうございます。感想、レビュー等もよろしくお願いします。
大塚国際美術館行ってみたいんですよねー。あと鳴門市は渦潮が見られるので。
なんにしても一度徳島には行ってみたいです。




