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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第六章 最終章 春の訪れ
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6 平和な日々

 ヴィオリアが無事に王都から帰ってきて1週間、城中どころか、城下町にまで「若夫人様ご懐妊」のニュースが席巻し、再びお祝いムードの中、城下町の端にある小さな協会では、神父様と二人の若者が静かに結婚式を執り行っていた。二人とも小綺麗な格好をして、神父様のお言葉のもと、神に永遠なる愛を誓いあった。


「こんなんでよかったのか?俺、一応魔法師団だったから、金はあるよ」


「いいの。私はこの誓いを噛みしめていたいのよ。二人でマーペリアのために生きましょうね」


「ああ、これからもよろしくな」


 翌日、執事に断りを入れ、使用人館の夫婦部屋に移った。



 さあ、この5ヶ月後、ヴィオリアがこれを知ったものだから、もう大変!


「どうして教えてくれなかったの!」

「私がそんなに冷たい女だと思っていたの?」

「ずっとお姉さんのように思っていたのに!」

「こんな寂しいことないわぁ!」

 と、大きなお腹を抱えたヴィオリアが、妊婦の不安定さも加えて、『ワーンワーン』と大泣きしたものだから、ヘレンはもちろんのこと、カザシュタントも、それこそ、城中が大慌て。


 結局、城の食堂室で、小さな式をやり直し、改めて、みんなの前で愛を誓ったバンジャとヘレンであった。

 これは、少し先の話。これより、少し前には…


〰️ 〰️ 〰️



 魔法士たちの2ヶ月研修が終わり、来月には、新人兵士研修が始まるという初夏。なんの遮りもない芝生には、夏を感じさせる日差しが降り注ぐ。


 マーペリア辺境伯城玄関前には、芝生の方へと赤い絨毯が伸びている。その先には舞台がつくられ、絨毯の東側には、いくつものテーブルと椅子がならんでいた。


 舞台の前には、長椅子がいくつも並べられており、そこには、着飾った貴族夫妻や軍の役職者夫妻などが座っている。その後ろには、私服であったり軍服であったりはするものの兵士たちが大勢立っている。さらにその後ろには、城下町の領民たちが、たくさん集まっていた。


 拍手とともに、城の玄関から出てきたのは、モスグリーンの軍服を着たダニエルと、レモン色のふわふわなドレスを着たアンジェラだった。二人は腕を組み、赤い絨毯の上を歩いてくる。


 舞台の上には署名台が用意されている。二人は舞台にあがり、署名台の前まで進んだ。


 フレデリックの進行で、ダニエルとアンジェラの『人前結婚式』が執り行われた。この地の者ではない二人、しかし、これからこの地で生きていく二人。二人にとって、この地の人たちに証人になってもらうことは、しっくりくる結婚式のスタイルであった。アンジェラではなく、ダニエルが泣いていたのは、ご愛嬌。


 二人の誓いの口づけをすると、会場中に歓声が響き渡り、魔法士たちは、祝いの祝砲をこれでもかと打ち上げた。そんな魔法を初めて見た子供たちは、大興奮であった。



 舞台前の長椅子は片付けられ、そこはダンススペースとなった。舞台の脇の楽団たちは、すでに音楽を奏でている。

 今日は特別に、城正門が開いており、ダンススペースは、領民も兵士も利用ができる。正門を出た芝生では、城下町の飲食店の店主らが、出店を出している。商魂逞しい。さながらお祭りだ。


 長椅子に座っていたお客様たちは、テーブルと椅子へと移り、立食パーティーが始まる。今日の主役に思い思いに話かけ、お祝いの言葉を紡ぐ。

 こうして落ち着いた頃、いつもの6人でテーブルについていた。


フレデリック:「ダニー、お前が泣いてどうすんだよ」


ヴィオリア:「確かにダニーさんが泣いたら、アンのご両親は泣けなくなっちゃうかもね。ふふふ」


アンジェラ:「気にしないでダニー、わたくし、嬉しかったから、ね」


ダニエル:「ありがとう、アンジェ。俺も嬉しくて…」

 ダニエルは、また泣きそうである。


カザシュタント:「ダニーは、ずっとこの日を待っていたもんな」


セシル:「ええ、新しいお家を毎日、ニコニコしながら見上げて。それから、お仕事に行ってるんですよ」


ダニエル:「え!セシルさん見てたの?」


フレデリック:「うちは、向かいなんだから、丸見えだって。

それにしても、ここに初めて来てからもう2年経つんだな」


カザシュタント:「あの時は、まさか俺の見合いだとは思ってなかったよな。ハハ」


ヴィオリア:「え??そうなの?私たち、お見合いなの??」


ダニエル:「本人が自覚してないなら、恋愛だろ?」


フレデリック:「うわぁ、ダニーには、なんか恋愛って言われたくないな」


セシル:「ほんとにパパは意地悪ね。あなたはお友達を大事にするのよ」

 まだ、首も座らないかわいい寝顔の息子にセシルは声をかけた。


フレデリック:「こいつは、いつか僕と戦う運命な気がするよ」

 フレデリックが自分とそっくりの息子の頬をぷにぃと押した。「ぶぇーーん!!」

「もう!」セシルは、フレデリックを睨み、息子をあやす。すぐに泣き止みすやすやと寝始めた。


アンジェラ:「本当に可愛らしいですわね」


ヴィオリア:「アンもきっとすぐよ」


アンジェラ:「そうかしら?ふふふ」

 アンジェラより、ダニエルが真っ赤だ。


アンジェラ:「ヴィオは、体調はどう?」


ヴィオリア:「やっとご飯が美味しくなってきたのよ。食べ過ぎないように気をつけているわ」


セシル:「ヴィオは、エミールおねぇさまにも太ったって言われていたもんね。普段動いているから、太り易いのかもね。気をつけてね」


カザシュタント:「少しぐらい太ってもいいぞ。俺がいくらでも鍛えるから」


ダニエル:「それ、なんか違うし」


フレデリック:「カザンさんは、意識なく惚気るからなぁ」


ヴィオリア:「アン、新しいおうちはどう?」


アンジェラ:「かわいい家具まであって、とっても過ごしやすいですわ。いろいろとありがとうございます。明日からは、ダニーのご両親に客室を使ってもらうつもりですのよ」


フレデリック:「そっかぁ。今夜は二人だけなんだね」


セシル:「もう!フラン!」


カザシュタント:「城には部屋が空いてるんだ。アンのご両親も、ダニーのご両親も城がいいだろう。おやじさんたちも楽しそうだ」

 カザシュタントの視線を追うと、三組の夫婦がまるで自分たちと同じように、和やかに話している。


カザシュタント:「俺は、あの方たちよりずっと年をとっても、こうしてこの6人で笑っていたいと思っているよ」

 カザシュタントの言葉をみんなが聞き入る。


カザシュタント:「俺はここに来て、ヴィーに出会えて、幸せだって思ってる」

 カザシュタントが、テーブルの上のヴィオリアの手を握った。


カザシュタント:「だけど、俺をここに運んでくれたのは、ダニーとフランだと、ちゃんとわかっているんだ。だから、二人が俺と同じ地で、幸せになってくれたことが嬉しい」

 ダニーは、下を向いてしまった。アンジェラが、ハンカチを差し出す。


フレデリック:「カザンさん、やめてくださいよ。カザンさんはまだ辺境伯にもなってないんですからね。僕たちの苦労はこれからなんですよ。

ダニーもしっかりしろよ。今日で苦労が終わるわけじゃないんだぞ」


ダニエル:「でも、俺とお前なら、カザンさんのためにその苦労を越えられるだろ」


フレデリック:「っっ!ヘタレなのにっ!」

 横を向いてしまったフレデリックの頭をセシルは、ナデナデしてあげた。


ヴィオリア:「そろそろ主役は踊ってきた方がいいわ」


カザシュタント:「そうだな。俺たちも、小さなレディーたちのお相手に行こう!」

 4人が立ち上がり、歩いていくのをヴィオリアとセシルは、見送った。


ヴィオリア:「幸せね。私たち」


セシル:「そうね。でも、きっともっとこれからよ。だって、ヴィオももうすぐお母さんでしょ?お母さんの分の幸せもあるのよ」

 セシルは、息子を優しくなでた。ヴィオリアも、やっと膨らみだした自分のお腹をなでた。


ヴィオリア:「きっとそうね。もっともっと幸せになれるわね」


〰️ 〰️ 〰️


 マーペリア辺境伯城の前の芝生に優しい春の光が輝いている。そこには、8人もの小さな子供たちの声が響く。

 テントの中のテーブルでは、3人の淑女たちが、笑顔で子供たちを見守っていた。


 少し離れた建物からは、勇猛な男たちの声が聞こえる。マーペリア辺境伯領は、そんな男たちのお陰で、今日も平和である。


~マーペリア辺境伯領軍奮闘記 fin~

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。


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