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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第五章 領地の冬
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2 パイソン狩り

 新人たちも仕事に慣れた頃、バイソン狩りの季節になる。これも毎年恒例で、城下町の人たちは、楽しみに待っている。


 王都とマーペリア領を結ぶ街道の東にはガーランド王国一のレンバ山脈がある。マーペリア領とトリベール領の境界の一部にトリマ山脈がある。レンバ山脈からの川は、マーペリア領を抜けて、トリベール領で、トリマ山脈からの川と合流し、トリベールを抜けて、隣の領も抜けて海へと流れる。

 

 これらの山脈の森の浅層から中層には、魔獣はほぼ居らず、町や村に出てくることは少ない。その分、野生動物たちがたくさん生息している。

 バイソンは、牛のような体で、厳つい肩、厳つい顔、角を持っていて、狂暴だ。増えすぎるのも問題がある動物だ。冬間近になると、群れをなして、レンバ山脈からトリマ山脈へと移動する。毎年、その時期を狙って、捕獲部隊が第4砦に待機しているのだ。水場の近くの村の猟師から、水場に現れたと情報が入り次第、向かうのだ。今年はこの部隊に、カザシュタントとダニエルが加わっている。今年の担当は3番隊と9番隊だ。


 水場に現れたという情報に、翌日の朝、日の出ともに馬車と馬で、水場に向かう。オスを10頭、できれば、メスも4頭狩りたい。それを見越して、馬車7台を用意した。

 昼前についた水場には、子供バイソンも入れて50頭ほどの群れだった。まずは狙いは、オス。オスは、肩が盛り上がり特徴的だ。魔法士が、アイスランスで5頭のオスを動けなくさせた。逃げるバイソンを馬で兵士の方へと追い込む。魔法士たちは、土魔法や氷魔法で壁を作り、追い込みを手伝う。子供バイソンを上手くよけながら、メスバイソンに槍を刺す。転げたところに、魔法士がウィンドウカッターで完全に動きを止めた。後ろから来たオスに向かって、兵士が槍を投げる。それを避けて視界がずれたところに、別の兵士が剣で足を狙う。倒れたところを、新人たちで、首に槍をさして絶命させる。4度の追い込みで、予定数を狩ったので、あとは見逃す。トリベール領でも、猟師が何体か狩ると聞いているので、このくらいにしておく。


「最初に5頭狩れたからな、今日は楽々だったな。ハハハ!さすが魔法士だっ!」

9番隊隊長イーレウルが豪快に笑う。


「ギー隊長、3番隊積み終わりました」


「おぉよ。ウル!のんびりすんな。戻って解体が待ってるぞ」


「はいはいっと。こっちもいいかぁ?」


「「「おぉーす!」」」

 隊長の雰囲気が隊の雰囲気になるのか、3番隊と9番隊では、ずいぶんと違う。


「団長、積み終わりました」

 ギー隊長がカザシュタントに報告にきた。


「それでは、戻るぞ。空いてるところに乗り、乗れない者は馬の後ろだ」


 最後尾に、ダニエルとギー隊長を配置し、4番砦へと戻った。


 4番砦に戻り、解体を始める。血抜きをして半身にする。内蔵を取り出して、今夜の料理は、バイソンの心臓焼き肉だ。独特の臭みと独特の歯ごたえがたまらない。酒盛りをしたいところだが、今日のところは、一杯だけと決められている。

 カザシュタントとダニエルも、初めての味に驚きを隠せない。


イレーウル:「これは、討伐当番か砦当番しか食えない珍味なんですよ。うまいでしょう?」


ギー:「だから、バイソン討伐も持ち回りなんです。みんながやりたがるから。ハハハ」


ダニエル:「わかるっす!今日、楽しかっすからねっ!カザンさん!」


カザシュタント:「ああ、追い込み狩りなど初めてだったからな。これも美味い!」


イレーウル:「ハハハ!団長殿は毎年食えるんです。羨ましいですよ。気に入ってもらえてよかったなぁ!」

 『バンバン』イレーウルがギーの肩を叩いている。ギーは、怒り顔だ。確かに音だけでも痛そうだった。



〰️ 〰️ 〰️


 朝、カザシュタントたちの出発とともに、城へ向かった伝達馬は、次の日の午前中に城へと伝わった。翌日の昼過ぎには、バイソンが城に届くだろう。明日は午後からバイソン祭だ。城前芝生には、炭火コンロが10台もセットされ、厨房では、サラダとソース作りが始まる。メイドと使用人はテーブルと椅子をならべていく。


 城下町にも、明日の午後のバイソン祭は、通達されて、飲食店の店主らが、城正門前の芝生に、炭火コンロを用意し始める。飲食店は、飲み物やサラダ、パンなどは売り物として認められる。もちろん、バイソン肉を無料で配ることが義務だ。


〰️ 〰️ 〰️


 バイソン狩りをした翌日には、4番砦町に1頭半、3番砦町に2頭、2番砦町に1頭、通る村々にも少しずつ分配していく。2番砦に泊まり、村々に分配しながら昼少し前に、防衛壁正門へ到着した。1番隊の半数の兵士は、バイソンが1頭乗せられた馬車を正門で引き受け、城から西にある1番砦へと出発した。

 正門から入ると、領民に大歓声で迎えられた。馬車は城の正門から入り、芝生に敷かれたシーツの上に並べられる。

 驚いたことにバイソンは半解凍だった。


「これは、どうしたのだ?!」

 辺境伯は、見たことのない状態にびっくりした。


「4番砦町の飲食店の店主が、新鮮に肉を保つ方法を教えてくれたのです。4番砦町は、港に近いですからね。氷の中に魚が入って届いたそうなんですよ。

なので、魔法士たちに氷漬けにしてもらいました。でも、それだと焼けないので、今朝からは、氷にしてません」

 カザシュタントは、4番砦町でのことをみんなに聞こえるように説明した。


「これなら、国境砦にも届けられるわね!」

 ヴィオリアの意見に、早速1番隊の残り組が編成され、馬車と馬とで、国境砦にも運ばれていった。

 

 残ったバイソンは、オスメス合わせて5頭分。バイソンは、頭を落とされ、半身で皮と内臓が処理されている。兵士たちが、次々とさばき、テント内のまな板に待つ料理人へ持っていったり、飲食店の店主たちに配ったりして、あっという間にシーツから消えた。料理人は、塊肉を焼ける大きさにカットして、コンロ前にいる使用人たちへと渡る。

 すぐに、芳ばしい臭いが城前に広がった。兵士たちは、トレーを持ってすでに並んでいた。10のコンロで焼く使用人たちは、小塊肉から、焼けた部分を切り落としていき、目の前の皿に盛っていく。それをメイドが並んでいる兵士に次々と渡していく。受け取った兵士は、その先の飲み物から好きなものと、パンとサラダを選び、好きなところに座っていく。テーブルは足りないので、芝生に座っていることも当たり前だ。みんなに一皿ずつ、回ったところで、辺境伯が舞台に立った。


「今年もうまそうに焼けているなっ!では、いただこう!」


「「「おー!」」」

 こうして、城内の祭は始まる。食べ終わった順から、皿を持って次々と並ぶ。兵士ちの胃袋とバイソンとの戦いのようだ。


 城下町の飲食店店舗の邪魔をしないために、城内の飲み物やパン、サラダなどは、兵士など、城内で働く者しか食べることはできない。でも、鍋などを持ってくれば、家族分の焼き肉は、もらえる。外の飲食店でも、買い物をしなくても、家族分の肉はもらえるが、ソースは店それぞれなので、その店の常連がいるのだ。城内料理人のソースにも、もちろん常連がいて、外より長時間並ぶのだが、城内の肉を求めるのだ。


 バイソンの頭は数日、城正門を出て右側に並べられる。子供たちが、角やら毛の肌触りなどをビクビクしながら触っていくのも風物詩である。


 その後、角が高く売れるので、商業ギルドに買い取ってもらうことになっている。

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