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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第五章 領地の冬
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1 深層部へ

 大陸内でも南に位置するマーペリア領は、年に二度ほど雪がふるが、積もることはほぼない。なので、冬であっても、魔獣討伐は、行われる。夏の新人研修とは違い、深層部の討伐だ。

 

 今日最東部第4番砦から討伐に向かうため、昨日からカザシュタントとフレデリックと今回の討伐部隊4番隊と8番隊合わせて30名、魔法士6名が、昨日から泊まっている。ダニエルは、城で留守番だ。


 朝、日の出前に朝食を済ませ、日の出とともに出発する。魔法士たちと新人たちの緊張が伝わる。先輩たちは、彼らの肩を安心させるように叩き、前を歩いていった。


 カザシュタントたちは、深層部討伐は初めてなので、4番隊マチアス軍隊長、8番隊エドモント軍隊長の指示に従う。森は、木々の高さがあり、葉が茂っていて、入って数分で足元が暗くなるほどだった。時々、木の根元に見かけるL字看板は、冒険者が迷子にならないために、領軍が日々、管理して立てているものだ。今日も数本、背に背負っている者が数名いる。わざわざ木の根元に立てたうえ、木に縛りつけている。


「ずいぶん昔の話ですが、冒険者たちの縄張り争いで、この看板が利用されましてね。数名の冒険者が迷子になり、数ヶ月後、死体で見つかりました。それ以来、こうしてロープを切らないと方向を変えられないようにしているんです。ロープの切れた看板は信用しない。この森の暗黙のルールです」

 エドモントが丁寧に教えてくれる。


「討伐だけが、仕事ではないのだな」

 カザシュタントたちは、辺境伯領軍の仕事を学んでいく。


「砦町は、冒険者たちが経済を回してますからね。彼らが安全に森を使ってくれることが必要ですね」

 マチアスが付け加える。些細なことのようだが、領地繁栄に役立っているのだ。


 朽ち果てそうな看板を見つけ、ロープを切り取り除く。新しい看板を矢印を砦の方へ向けて打ち付け、木に縛りつける。ロープの縛り方に特長があり、新人研修で教わる。今日、初討伐の新人が指名されるが、当然、簡単ではない。先輩が一人つき、新人6人が先輩の手元をじっと確認している。カザシュタントたち3人も城で幾度となく練習している。

 新人たちを一人の軍人に任せ、前に進む。少し歩いたあたりで、急に森が開けた。とはいえ、50メートル四方だが。ここで、早めの昼食をとる。火をおこしたり、臭いを拡散させるわけにはいかないので、それぞれサンドイッチを好きなだけ持参している。


 食事を済ませ、再出発する。いくらもしないうちに、先頭をいくエドモントから、手で『静止』の合図が出た。カザシュタントには、まだ何も見えないが、唸り声が聞こえる。エドモントの指示で魔法士たちが前に出て、詠唱を始める。魔法士たちと互い違いにベテラン兵士が剣を持って立っている。新人たちは、後ろで槍を持っている。

 マチアスが右腕を上から下へ下ろすと魔法士たちから、一斉にウィンドウカッターを放つ。視界が広がるとともに、『キャンッ!』という鳴き声。それに反応するように数十頭のレッドウルフが襲いかってきた。魔法士たちと位置を入れ替わった兵士が、レッドウルフを切っていく。レッドウルフは、跳躍力があるのだが、跳躍したところを半詠唱して待ち構えた魔法士のアイスランスが、レッドウルフを襲う。先輩兵士が動けなくしたレッドウルフを、新人たちが槍で確実に仕留めていく。レッドウルフは、群れで行動する。8割方倒し、ほぼすべてに一撃を加えたところで、数頭が森の奥へと消えた。深追いは危険だ。

 すぐに解体を始める。鉱山で取れる魔石ほど大きくはないが、魔獣からも魔石は取れる。兵士一人に新人一人がつき、解体を教える。カザシュタントとフレデリックも教わりながら解体をする。机上で説明を受けたり、冒険者が狩った物を買い取り、解体研修もしたが、実際にやるのとは違う。新人を担当しなかった兵士は、次々と解体していく。

 その間に、魔法士が、空に小さな花火を一発打ち上げる。しばらくすると森にいた冒険者たちが数名集まった。


「エドモントさん、今日は頭数が多いですね。いただいていいんですか?」

 冒険者のリーダーらしき者が、エドモントに声をかける。


「魔石は、軍でもらうぞ。あとは好きにして構わない。残していく分は、燃やすか埋めるかしていってくれよ」

 レッドウルフは、不味く食用には向かない。だが、魔獣の皮は耐久力があり、防具にもカバンやリュックにもなるので、そこそこ高く売れる。危険も侵さずこれだけの頭数がもらえるとなれば、冒険者たちは喜んで処理してくれる。魔石を抜いた物から、冒険者へ渡される。


「これ、皮を剥いだらどうするんですか?」

 魔法士の一人が、質問した。


「穴を掘って埋めるんだ。放っておくと、夜に魔獣たちが食いにきちまうからな」

 マチアスが答える。


「この量の穴を掘るのは大変でしょう。お手伝いしましょう。この辺、みなさん、どいてください」

 みんなが立ち上がり、大きなスペースができた。


「アースクエイク」

 魔法士の詠唱とともに、そのスペースの土が波立っていく。そして、片方に山、片方に穴ができた。


「「「おおー!」」」

 みな、感嘆する。アースクエイクは、初級魔法だが、これを使って一部をゆらし、それを寄せるなど、並の魔力コントロールではない。魔法士をよく見れば、実力者ジルであった。


ジル:「練習してて、これ使えそうかなって」


カザシュタント:「ほう?どう使うんだ?」


ジル:「僕達がこの山の上にいれば、後衛攻撃がしやすくなります。」


ベルトソード:「なるほどな。ジル、帰ったらいろいろ試してみよう」

 ちょっとしたことがプラスになる。よい傾向だ。

 

 近くに川がない場所だったので、水筒の水で軽く手を洗ったら、再出発だ。それから先、魔獣に2度ほど群れに遭遇したが、魔法士たちとの連携もうまくいった。特に魔猿キキの群れとの戦闘では、魔法士のおかげで、木から落とすことが簡単にでき、これにはエドモントやマチアスを含む古株兵士も感心していた。


 森の中間辺りから、回り込むように森の中を歩き、入ったときとは違うところから出て、防衛壁につきあたった。泊まり討伐の時には、ここで夜営をする。簡易な小屋があり、薪と大きな鍋とカマドになりそうな石が収納されていた。ここからさらに10分ほど砦と逆方向へいくと、川があるそうだ。


 今日は日帰りなので、壁に沿って砦へと戻る。森内の看板は3つほど新しくした。古いものはその場で魔法士が灰にした。


 3日後、城内にある会議室で、カザシュタントたち魔獣討伐組幹部とベルトソードと辺境伯が集まり、成果の報告をした。魔法士の活躍にベルトソードは、わかりやすくホッとしていたし、前向きな練習方も検討していた。

 ジルが考えたことは、応用がたくさんできそうで、とても楽しみであった。


 2週間後には、第3砦から同じように1班と6班が魔獣討伐へ向かった。今回はフレデリックが留守番だ。


 こうして、他の砦からも魔獣討伐へと向かい、新人たちと魔法士たちの深層部初討伐は、無事によい成果で終わった。

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