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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第四章 結婚お披露目と任命式
29/41

6 祭最終日

 城下町を一周してきた行軍は、城下町広場で整列する。行軍は、軍団長が変わった時か、戦争に赴く時だけである。戦争のない今、軍団長の代替わりなど、30年に一度だ。領民も、観光客も、広場には人が溢れてかえっている。


 カザシュタントたちの馬には、それぞれ、馬番がつき、万が一に備えている。

 まん中で、馬上からカザシュタントが領民へと口上を行う。


「我、カザシュタント・マーペリアは、歴代の団長に負けぬよう、これからも精進してまいる。

そして、我カザシュタント・マーペリア並びに、我らマーペリア辺境伯軍は、全力を持って、我が領民を守ると誓う」


「敬礼っ!」『『『『『ザッ!』』』』』

 ダニエルの命令で、軍隊全体が動く。

 軍人たちは右手に剣を持ち、剣を立てて右手を右胸に当てる刀礼をした。魔術士たちは、ロッドを左右の手で持ち、自分の真っ正面へと立たせる捧げ槍の礼を、馬上の者たちは、額に右手を斜めにかざす、敬礼をした。

 広場中から拍手と指笛と歓声が響く。


「これからも、我らを信じ、このマーペリア辺境伯領の繁栄に力を貸していただきたい。引き続き、宴を楽しんでくれ」

 カザシュタントが、口上を述べ終わる。


 拍手のなりやまぬ中、フレデリックが軍全体に命令を出す。

「なおれっ!」『『『『『ザッ!』』』』』


 カザシュタントが馬の腹を蹴り、再び行軍が始まる。領民たちは、大きく手を振っている。

 広場前を右手に行き、突き当たりを今度は右手に行けば、城壁の東門へと繋がっている。


 東門から城内へと入り、整列とまでは、いかないが、集まっている。馬上の者たちは、みな、馬番へ馬を渡した。

 カザシュタントが階段を2段あがり、声をかける。

「みんな、ご苦労だった。今日は祭りの最終日だ。酔っ払いすぎないように頼むぞ」

 軍人たちから歓声があがる。


ダニエルが、階段を1段上がった。

「では、解散っ!」

 歓声とともに散り散りになっていく。礼服軍服ではなく、普段着の軍服に着替えた後、祭りを楽しみに出かけることとなる。まだ、昼前だ。ゆっくり楽しめるだろう。


 城前では、先週、恋人と踊れなかった女性たちが待っている。今日、行軍をした軍人たちは、先週の結婚お披露目で、砦勤務により、参加できなかった者たちだ。今日は先週の参加者たちが、砦勤務をしている。

 そうやって、すべての軍人がどちらかの祭に参加できるようになっているのだ。



〰️ 〰️ 〰️



 カザシュタント、フレデリック、ダニエルは先週と同じ軍服に、ヴィオリア、セシル、アンジェラは先週と同じドレスに着替えて、それぞれエスコートで会場へ向かった。ダンス会場へ入ったとたん、大歓声と拍手だ。今日も、1曲目はこの3組で始まり、3組が礼をして、下がるとダンスパーティーが始まった。

 6人はそれぞれ、待っていた観客たちと踊る。ヴィオリアたち既婚者の女性は、子供と思われる男の子たちか女性とだけ踊ることになっている。

 と、思われていたのだが、カザシュタントがふと観客の視線を追えば、カザシュタントほど背が高く、ヴィオリアたちとお揃いのようなドレスを着た女性と踊っていた。女性のはずなのに、完璧なリードだった。そして、その女性は、次にはアンジェラと、その次にはセシルと踊った。セシルと踊っているとき、フレデリックが、急に声をあげた。

「あっ!仕立て屋っ!」


「やぁねぇ、パートナー以外に目を向けるなんて、最低ね」

 エミールの手をとっているセシルがコロコロと笑いだした。


 丁度、曲の合間を縫って、

「仕方ないわね、パートナーチェンジ!」

 エミールは、そういって、フレデリックの手をとり、曲間にも関わらず踊りだし、楽団が慌てて曲を奏でる。フレデリックは、さすがで、その少しずれて始まったはずの曲にいつの間にか、合わせてリードをしている。


「仕立て屋さん、男ですよね?セシルの採寸したんですか?」


「まあ!男だなんて、失礼ねっ!そりゃ、仕立て屋だもの、採寸はして当然でしょっ」

 本当は従業員の女性がしている。


「着替えを手伝ったのは、本当ですか?」


「私のドレスを美しく見せるためよ。当たり前じゃな~い」

 本当は、メイドたちが着せた後、最終チェックをしただけだ。髪型については、細かく指示し、確かに髪は、触った。

 フレデリックは、振り回すようなダイナミックなリードをする。エミールは、余裕で合わせる。




フレデリックは、歩幅を広げ、ダンススペースを大きくまわるように、引っ張っていく。エミールは、涼しい顔でついていく。


「広場で、何を話していたんですかっ!?」


「もちろん、フラン坊やが泣いていた話に決まってるじゃなあ~い?」


「噂の主は、貴女かっ!!」


「やあ〜ねぇ。私とあなたが運命の出会いをしたのは、ほんの数日前でしょう。私も聞いた話よぉ」


「だけど、振りまいているのは、貴女だろっ!」

 フレデリックは、歩幅を広げ、ダンススペースを大きくまわるように、引っ張っていく。エミールは、涼しい顔でついていく。


「それと、セシルに変な言葉を教えるのはやめていただきたいっ!」


「何それ?」


「セシルに『小悪魔ちゃん』ってなあに?と聞かれたっ!」


「あ〜それぇ。だって、私と秘密を持っちゃったのよぉ。小悪魔ちゃんでしょう?」


「貴女と秘密だとぉ!!金輪際、セシルに近づくなっ!」


「この町に住んでる限り無理ねぇ。ホホホ」


 フレデリックが、エミールを2回回すリードをする。エミールは、優雅にまわり、フレデリックの右手とエミールの左手をしっかりと繋ぎ、二人とも両手を大きく広げて、フィニッシュ!そして、曲が終わった。

 いつの間にか、踊っていたのは、フレデリックとエミールおねぇさまだけだった。

 会場から、割れんばかりの拍手喝采、指笛まで。大好評、大絶賛であった。それに応えるように、フレデリックは会場へ騎士の礼を、エミールおねぇさまは、カーテシーをした。エミールおねぇさまは、フレデリックの腕をとり、会場に手を振りながら、ダンススペースから離れる。そして、5人の待っているところへと行った。


「エミールおねぇさま!ステキだったわ!」

「エミールおねぇさま、優雅ですのねぇ」

「エミールおねぇさまみたいにフランと踊れるようになるかしら?」

 女性陣は、大はしゃぎだ。



「セシルちゃん、焼きもちやきの王子様で大変ね。私とは合わないからあげるわ」

 エミールがとっていたフレデリックの腕をセシルに渡す。


「エミールおねぇさまが、ライバルでなくてよかったわ。ふふふ」


「どちらかというと、こちらの方が好みね」

と、カザシュタントの腕をとるものだから、ヴィオリアが慌てて引き離そうとする。が、エミールおねぇさまの腕力に敵うはずもなく、頼りのカザシュタントは、放心状態だ。『ヴィーと踊れるのは、男の子か女性で。この人は女性だけど女性じゃなくて……』真面目なカザシュタントには、理解の範疇を越えていた。

 アンジェラは、口を手で隠しているが、口が塞がらないようだ。ダニエルは、ケタケタと笑っている。フレデリックは渋い顔をしている。セシルは、コロコロと笑っていた。


 セシルは、後程、フレデリックにきちんと説明をして、事なきをえた。


 翌日、アンジェラと両親オディラン子爵夫妻は帰っていった。アンジェラは夕べ泣きはらしたであろう顔をしていた。ヴィオリアとセシルも瞼を腫らしていた。


 後日、領民からの要望で、行軍は5年に一度行うこととなった。これも、領地繁栄のためだ。良い観光業になるらしい。

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