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閑話:クロードの話

 その瞬間を僕は一生忘れないだろう。


 僕はクロード・ヴィスティル。僕には父親がおらず、母親と二人暮らしだった。そんな母は僕の容姿を嫌っていた。


「お前は父親にそっくり」


 母は、僕が成長するにつれて暴力を振るうようになった。そんな母が病気で死んだ。僕は解放された。母の指輪は上等な物だったので、困った時に売り払ってしまおうと大事に取っておいた。


 そんなある日、僕の伯父と名乗る人物が僕を迎えに来た。クラヴィス公爵と名乗ったその男は僕にそっくりだった。男に連れられて、大きな屋敷に住むことになった。男には妻と娘が居た。

 僕は歓迎されていないようだった。男は仕事でなかなか家に帰ってこなかった。男の妻と娘は僕に辛く当たった。と言っても、暴力を振るわれるわけではないので、母と比べれば我慢できた。


 ある日、娘が僕に向かって言った。


「誰もお前の事なんて愛してない」


 そんな事、僕が一番よく知っている。思わず笑ってしまった。それが気に食わなかったのか、娘は母の指輪を外へと投げ捨てた。もともと、生活に困ったら売り払おうと思っていたものだ。惜しくは無かった。


 ある日、男が珍しく家に帰ってきて、男の妻と言い争いを始めた。内容は僕の扱いについての様だった。

言い争いは段々と激しさを増していき、男は傍らの酒瓶を手に取って振り上げた。


 その瞬間、娘が割って入り、酒瓶は娘へ振り下ろされた。


 倒れる娘。頭から流れる血。呆然とする男。娘の名前を呼ぶ女。


「ヘンリエッタ!!ヘンリエッタ!!」


 彼女の名前はヘンリエッタ。なんて美しいのだろう。


 頭から血を流し気絶している彼女に、僕は恋をした。


 すぐにヘンリエッタと母親は屋敷を出て行った。男は僕に言った。


「邪魔者は居なくなった。クロードを正式に養子にできる」

「待ってください。僕は養子になりたくありません」


 だって、この国の法律では養子になって姉弟になると結婚できないことになっている。もちろん、従姉弟同士の結婚は認められている。

 いつかヘンリエッタと結婚する。その日を夢見て僕は成長していった。


 そして運命の日がやって来た。


「アンリ・ムシューです。よろしくお願いいたします」


 そこに居たのは僕と同じく成長したヘンリエッタだった。


 彼女は昔と全く雰囲気が異なっていた。派手な化粧をせず、三つ編みに大きな眼鏡で顔を隠していた。でも、僕には分かる。君はヘンリエッタだ。


 ヘンリエッタは自分がヘンリエッタだと知られたくないようだった。少しでもヘンリエッタに関連する事を言うと、最初は固まって、その後、何事も無かったかのように振舞う。その反応が可愛くて、思わず揶揄ってしまった。

 

 1学期末の勉強会の後、カイムの様子が変わった。夏休みのパーティーの後はクリストファーが変わった。ヘンリエッタが関連していることに僕だけが気付いていた。


 二人が自覚する前に、ヘンリエッタを僕のものにしてしまおう。そう思って行動したら、ヘンリエッタは取り乱してしまった。

 何故、僕がヘンリエッタを恨んでいると思ったのだろう?復讐?何の話か分からない。困った僕は、取りあえず、ヘンリエッタに伝えようと思った。


「こんな所で言うつもりは無かったんだけど、今、言った方が良いね」


「愛しているよ。ヘンリエッタ。僕に愛を教えてくれた人」


 僕の言葉は更に彼女を混乱させたようだった。ヘンリエッタは「嘘。嘘」と呟いて、気を失ってしまった。とっさに、僕は彼女を支えた。


「医務室に運べ」


 そう言って控室に入ってきたのはクリストファーだった。


「あれ、会長。聞いていたんですか?」

「途中からな」

「なんだ。僕とヘンリエッタだけの秘密だったのに」

「・・・気が付いているのが自分だけだと思っていたのか」

「え?」

「いや・・・カイムには言ってやるなよ。あいつは繊細なんだ」

「これ以上、ヘンリエッタの秘密を知る人は要りません」


 クリストファーが気付いていたのは誤算だったな。そう思いながらヘンリエッタを医務室へと運ぶ。


「会長がちょっかいを掛けてきたらどうしようかな」


 この国の王子とはいえ、ヘンリエッタは譲れない。


「でも、まずはヘンリエッタに信じてもらう事からだよね」


 彼女の目が覚めた時、僕が傍にいると落ち着かないだろう。医務室から出るとカイムが居た。


「アンリが倒れたって聞いて・・・」

「緊張が切れたのか気絶しちゃったんだ。今、寝てるよ」

「そうか・・・」

「ねぇ、カイム。ヘンリエッタの事は覚えてる?」

「・・・あの女がどうした」

「ううん。何でもな~い」


 カイムは心の底から憎いと言う声を発した。そうか。ヘンリエッタは、カイムみたいな反応を予測していたのかもしれない。まったく、勘違いも甚だしい。


「愛してるって、しっかりと伝えなきゃ」


僕のヘンリエッタ。美しい人。また、血のように赤い薔薇を贈るから。

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