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呼び出される話

 喫茶店を出た私はセドリック先輩のエスコートでアグネスを観光し、遅くならないようにと宿に帰された。セドリック先輩はどこまでも紳士だった。


 帰りの馬車の中で物思いに耽る。セドリック先輩に告白された。思いがけない告白だった。私はどうすれば良いのだろう。馬車の揺れと悩みで頭が痛くなった私は寮に戻ってベッドにダイブした。


 翌朝、寮の管理人から手紙を渡された。手紙の差出人はクリストファーだった。中身は生徒会室への呼び出し。こんな回りくどい事をしないで、誰かを使って呼出せば良いのに。放課後、私は生徒会室へ向かった。


「失礼します」


 今回は生徒会室にクリストファーしかいなかった。何の用事なのだろう。


「ああアンリ。適当に座って」

「ご用件は?」

「座って」


 仕方なくソファーに腰掛ける。クリストファーが紅茶を前に置いた。


「要件はこれさ。一緒にお茶を飲みながら話したいと思ってね」

「はあ」

「クロードとデートしたんだろう?カイムとは新年会で踊っていたし。俺だけ何もないのは不公平だろう」

「生徒会室を私的に使用して良いのですか?」

「君を王宮に招いても良かったんだけど・・・」

「生徒会室で良かったです」


 ただの留学生が王子に個人的に王宮に呼ばれるなんて、何かありますと言っているようなものだ。


「アグネスはどうだった?」

「賑わっていました」

「カロル公爵子息ともデートしたんだろう?」

「・・・なんで知っているのですか?」

「王子だからと言っておこうかな」


 見張られているのだろうか。ゾッとする。


「簡単にデートにも誘えないなんて、王子と言う立場は不自由だよ」

「でも、お好きでしょう?」

「そう。意外と好きなんだ。アンリなら分かってくれると思ってたよ」


 朗らかに笑うクリスファー。そんな表情は小さい頃から見たこと無かった。


「笑うんですね」

「君の前ではね」

「昔は違いました」

「昔の話さ。昔と今は違う。アンリもそうだろう」

「そう・・・ですね」


 そう。ヘンリエッタとアンリは違う。昔とは違う・・・。


「会長は」

「クリストファー」

「・・・クリストファー様はヘンリエッタがお好きだったのですか?」


 クリストファーは虚を突かれたような顔をした。珍しい。


「そうだな。今思い返してみると好きとは違うな。ヘンリエッタこそ俺の事は好きだった?」

「・・・そうですね。好きと言うよりは、婚約者と言う立場に執着していただけかもしれません」

「ああ。君の周りへの牽制は面白かった。今は婚約者になりたくないのは何故?」

「ヘンリエッタは王妃になることが幸せになることだと思ってました。今は違います。幸せは普通の生活の中にありました」

「そうか。だから君は、アンリは俺に執着しなくなったのか」

「はい」


 冷めてきた紅茶を口に含む。


「参ったな。俺の武器は国母になれるという立場だったのだが」

「それを魅力的に思っている女子は多いですよ」

「アンリが魅力を感じないと意味が無い」

「昔のヘンリエッタなら、その言葉に大喜びしました」

「今のアンリに喜んで欲しかったよ」


 クリストファーも紅茶に口をつける。そして呟いた。


「君の中で、もう答えは出ているんだな」

「・・・そうなのかもしれません」

「その答えは変わらない?」

「・・・そうですね」


 そう。クリストファーと話している内に分かった。私の中で答えは出ているんだ。


「卒業パーティーまで時間がある。まだ答えは言わないでくれ」

「ええ」

「時間を取らせたな」

「お話しできて良かったです」

「俺もだ」


 私は生徒会室を後にした。その姿を物陰から見てる姿など気にもしないで。


 次の日も普通に授業がある。その次の日も、次の日も。卒業パーティーまで刻々と時間は進んでいた。


 そんなある日。またしても寮の管理人から手紙を渡された。差出人は不明。ただ放課後に中庭に来るよう書いてあった。まったく心当たりがない。クロードかカイムだろうか。


「アンリ、今日も図書室?」

「カトレア・・・。いいえ。手紙を貰いまして、中庭に行きます」

「あら?愛の告白かしら?」

「手紙の文字から女性だと思います」

「何かしら?私も行こうか?」

「大丈夫です。行ってきます」


 カトレアの提案を断って、中庭へ向かった。中庭にはまだ誰も居なかった。待っていると一人の女生徒っがこちらに手を振りながら近づいてきた。


「お待たせしたわね。アンリ・ムシューさん」

「確か、3年生の・・・」

「シャルロッテ・アーベルよ。突然呼び出してごめんなさいね」

「いいえ。ご用件は何でしょう?」

「聞きたい事があったの」

「聞きたい事?」

「ええ・・・貴女と会長の関係よ」


 シャルロッテの目から光が消えた気がした。


「関係・・・ですか?生徒会会長として留学生である私を気遣ってくれています」

「本当にそれだけ?」

「はい」


 シャルロッテはいきなり笑い出した。


「嘘嘘嘘。会長は貴女をファーストネームで呼ぶのよ。それだけでは無いでしょ!!」

「生徒会の皆さんが私をファーストネームで呼びますよ」

「会長が呼ぶのよ!!貴女、いったい何なの?この間も会長と二人きりで生徒会室に居たでしょ!?」


 それは、先日お茶をした時の事だろうか。クリストファーと二人でいた事は事実だが、それを話すと、ますます興奮させてしまいそうだ。


「貴女、邪魔なのよ」


 シャルロッテの手には、いつの間にかナイフが握られていた。そして私に向かってナイフを・・・。


 グサッ


「痛・・・」


 ナイフは私の脇腹に刺さった。


「邪魔邪魔邪魔。子爵令嬢ごときが、会長と親しげに・・・私が会長の、王子の・・・」


 シャルロッテの声が段々と遠ざかる。目の前が暗くなっていく。


 ドサッ


 私は倒れた。

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