閑話:カイムの話
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その瞬間、確かに俺は救われたんだ。
俺はカイム・イエイツ。代々騎士を輩出するイエイツ家の長男だ。何の因果か俺の両眼の色は違っていた。しかし、家族は気にすることなく俺を愛してくれた。
そんな俺を取り巻く状況が変わったのは、子供ながら社交界に出るようになってからだった。
「まあ気持ち悪い。目の色が違うなんて魔物ではなくて?すごく太っているし、そうよ肥えた魔物の子なんだわ」
俺を見てそう言ったのは、ヘンリエッタ・クラヴィス公爵令嬢だった。公爵令嬢である彼女に反論することも出来ず、周りの子供たちからも「魔物の子」と蔑まれるようになった。俺は家に引きこもり、剣の修行に明け暮れた。
おかげで引き締まった体になったが、両目の色はどうにもならない。俺は前髪を伸ばし両目が周りから見えないようにした。
学校に入り、俺は会長に誘われ生徒会に入った。生徒たちの中には昔、俺を蔑んだ奴らも居たが、忘れてしまったかのように接してきた。そして当のヘンリエッタ・クラヴィスは学校に居なかった。風の噂で隣国へ行ったと聞いていた。
俺が2年生になった年。その隣国から留学生が来た。生徒会としてサポートする義務がある。それくらいしか思っていなかった。
1学期の期末試験に向けて勉強会を開くことになった。会長の命令で俺は留学生に勉強を教えることになった。しかし、ムシューは優秀なようで俺の力を必要としていないようだった。
ムシューの要望で図書室へ資料を取りに行くことになった。その資料は本棚の上の方にあった。
「俺が取る」
「ありがとうございます」
タイミングと角度が悪かったとしか言えない。ムシューが俺の両目を覗き込んだ。きっと、目の色が違う事に気が付いただろう。生徒会室への帰り道、俺は自虐的に言った。
「気持ち悪いだろ」
彼女の答えはNOだった。その上、実家で飼っている猫の話を始めた。
「会いたいなって思いました」
そう言って微笑む彼女を見ていて、眼の事に拘る自分が可笑しくなってきた。思わず笑うと、ムシューは謝ってきた。
謝る必要なんてないのに。
その時からムシューが気になり始めた。彼女は控えめで頭が良く真面目な生徒であった。
夏休みの最後に開かれた王宮のパーティーで彼女をダンスに誘った。アンリと呼ぶと、少し恥ずかしそうに顔を伏せた。深緑のドレスが良く似合っていた。
「赤なんて着ないで欲しい・・・赤は嫌いだ」
赤はあの女を思いだす。
「私も赤が嫌いです」
アンリはその時、どんな顔をしていたのだろう。
そして今、俺は裏切られた。アンリはヘンリエッタ・クラヴィスだったのだ。
「後悔する・・・か」
その通りだ。俺は後悔している。こんなにも心を寄せていたのに裏切られた。
「心を寄せていた?」
そうか、俺は彼女を・・・。
「愛していたのに・・・!」
愛していたのに、裏切られた。アンリに・・・ヘンリエッタに・・・!!
『ごめんなさい』
泣きながら謝る彼女が目に浮かぶ。
「許さない」
許さない。許さない。許さない。いや、許してなるものか。
その時、カイムの中で愛と憎しみが巧妙に入り混じった。
彼女を愛していた。彼女は永遠に贖罪すべきなのだ。彼女を愛している。彼女は俺に許しを請い続けるべきなのだ。
そう、その命尽き果てるまで・・・。
俺は生徒会室に戻ることにした。鍵は開いていた。中には会長とクロードだけ。ヘンリエッタの姿は無かった。
「あれ?カイム戻って来たの?」
「・・・ヘンリエッタは?」
「出てっちゃった。寮に戻ったんじゃない?」
「そうか・・・」
「ヘンリエッタに何の用?」
「・・・伝えるべきだと思って」
「何を?」
「『お前は永遠に俺のために生きるべきだ』と・・・」
会長がしたり顔で頷く。
「・・・なるほど、カイムもライバルという事か」
「勘違いしないでください会長。俺はヘンリエッタを愛していない。むしろ憎んでいる」
「なら、何故?」
「彼女は俺に贖罪し続けるべきなのです。永遠に・・・その命をとして」
クロードが笑い出した。
「やっぱり。真実、ヘンリエッタを愛しているのは僕だけなんだ!!この愛がヘンリエッタに伝われば僕の勝ちだね」
「いや。立場的には俺が優位だろう」
「王子様だって、真実の愛の前には敗北してもらいます」
「愛なんてどうでも良い。俺は必ず償わせる・・・」
三者三様ではあるが、目的は同じ。ヘンリエッタを手に入れること。生徒会室は異様な雰囲気に包まれていた。
その頃、寮に戻ったヘンリエッタの元には一通の手紙が届けられていた。




