神様にはお供えを
本日2話目
『ホゥホゥホゥ・・・見ろ、戦いが始まった』
声がした。目の前の存在が、面白そうに、指を差す。私は見やる。
気が付いたが、五種類の笑い方をする皆さんは、どうやら中央の場所を囲む山の頂上それぞれにいるらしい。
目の前に一人いるけれど、他の四人は別の山から、中央の場所を見ているようだ。
聖地から、白い柱が立ち昇った。まるで炎みたいに揺らめいている。
時々赤色がパっと混じる。
『血が流れている』と誰かが言った。笑い声が無いと、急に重々しく聞こえる。
『キの一族の方が優勢じゃ』と誰かが言った。
『ワシらも力を与えよう』
『ソの一族に目にもの見せてくれよう』
「ちょっと、ちょっとストップ!」
この神様たちは、ラウル様たちの守り神だって言っているようだ。で、つまり、たぶん、今、お兄様がマズイ気が!
「ハヒフヘホの神様たち! ちょっと、待って、なにか!? 何か知っている事を教えてくださいな!」
『・・・ハヒフヘホ』
『ハヒフヘホ』
『ハヒフヘホ・・・』
『ハヒ・・・』
私は目の前の奇妙な神様につかみかかった。つかめた、よっしゃー! 私はガクガクと揺すった。
『ヒッヒッヒ・・・ヒィイ・・・揺するなぁ!』
『ニの神ぃ! 大丈夫か!?』
『ニノー!?』
「ちょっとちょっと、ごめんなさいね、知ってますよね、何かできること、教えてください!」
ガクガクと揺すりつづける。
『ヒッヒッ・・ヒィイ・・・ な、何かお供え物を持っておるのか!?』
「何!? 供え物!?」
純粋無垢な聖女様が、〝えっ、つまり私!?” なんて、一瞬で覚悟を決めそうになる。止めろ! その人柱発想!
「供え物と言えば、ミカン! 酒! その他、食べ物!」
私は叫んで、馬さんに運んでもらっている荷物を急いであさった。
取り出した食料の一つを神に捧げた。
「神様こちらを! お願い! 呪いを消して!」
『それはなんじゃ、娘』
「湯で戻すと柔らかくてとても美味しいスープでございます!」
『じゃあ湯で戻してくれ』
『ニの神、なんじゃ、おぬしだけ良いもの食いおるか。ワシらにも寄越せ』
『ニノ、ワシらも行くぞ』
「待って! 今ここで湯を沸かすなど悠長なことをしていられません! こちらでご勘弁ください!」
『それはなんじゃ、娘』
「こちらは、ちぎって召し上がっていただきますと、噛むたびに味わいが出てくる干物でございます!」
『わいにもくれぃ』
『わしもじゃぁ』
気が付けば、目の前に五体の異文化な存在が揃っていた。それぞれちょっとずつ違って、カラスに似ていたり、サルに似ていたり、ヘビに似ていたり、とにかく動物チックな特徴を持っている。
神様たちが珍しそうにお供え物を食すのを見つつ、私は魔力の濃い場所を見やって焦った。
白い柱がどんどん大きくなって、天に届きそうだ。
天から何かが降りてくる気配!
「神様神様っ! 空から何か降りてきます! どうしましょう、どうしましょう!」
『主神』
『全ての力。呪いの根源』
短く告げられる言葉に、私は瞬く。
『殺せ』