博之42歳。異世界4か月目。ギルドを見に行きお金を預ける。鑑定の仕組みをみたり負傷した冒険者の話を聞いたり情報収集。
三軒の店が安定してから、博之は改めて帳簿を眺めていた。
「だいたい月に銀貨四枚か」
家賃。
食材。
薪。
エレナたちの給金。
薬代。
教会への寄付。
全部払ったうえで、だいたいそれくらいは残せそうだった。
「一年やったら銀貨五十枚弱か」
そう考えると悪くない。
エレナの根本治療も、絶対に届かない話ではなくなってきた。
ただ。
「この銭、小屋に置いとくの怖いな」
そこで博之は、ソラ、リク、ミサキを連れて冒険者ギルドへ向かった。
石造りの大きな建物。
中に入れば剣や槍を背負った人間が行き交い、壁には依頼書がびっしり貼られている。
「おお……」
「おっちゃん初めてなん?」
「ちゃんと見るんはな」
薬草採取。
荷物運び。
護衛。
魔物討伐。
ダンジョン探索。
「思ってたより仕事いっぱいあるな」
受付で事情を聞いてみた。
「銭を預けたいんですけど」
「できますよ」
「少額でも?」
「もちろんです」
ギルドでは冒険者や商人向けに預金のような仕組みも扱っているらしい。
「ほんなら、これから利益出たらちょっとずつ持ってきます」
「ありがとうございます」
そのまま博之は、壁の依頼について尋ねた。
「薬草採るだけでもできるん?」
「種類によりますね」
「子供でも?」
「安全な場所なら。ただ、採取系のスキルがある方が間違いは減ります」
「やっぱスキルか」
ダンジョンになるともっと厳しい。
肉体強化。
剣術。
盾術。
魔法。
索敵。
何かしらの適性がある方が圧倒的に有利だという。
「そのスキルって、どうやって分かるん?」
「鑑定ですね」
「金貨一枚?」
「一般の鑑定なら、そのくらいです」
「高いなあ」
すると受付の男が少し首を傾げた。
「普通は十五歳前後で一度受けますよ」
「みんな?」
「登録されている住民なら、町や村が税から費用を出す場合が多いです」
「……じゃあこいつらは?」
三人を見る。
受付の男も事情を察したらしい。
「身寄りがなく、住民登録もないなら難しいでしょうね」
「なるほど」
だからこの三人は、自分にどんな能力があるのかすら知らない。
「結局、貧乏やったら才能あるかどうか調べる金もないんか」
博之はぼそっと言った。
さらにギルド内を眺めていると、片足を引きずる男や、片腕を固定した者もいる。
「ああいう人らは?」
「元冒険者ですよ」
「怪我治したら、また働けるん?」
「傷によりますが、可能な人は多いでしょう」
「じゃあなんで治さんの?」
受付の男が苦笑した。
「治療費ですよ」
「ああ……」
「冒険者は基本、自分で稼いで自分で備える仕事ですから」
稼ぐ時は大きい。
その代わり、酒や賭け事で派手に使う者も多い。
大怪我をして収入が止まり、治療費を払えなくなる。
そのまま引退。
日雇い。
最悪の場合は借金。
「なんか、もったいないな」
「何がです?」
「治したらまた稼げるんやろ?」
「まあ……」
「ほんなら治療費、誰かが立て替えたらええやん」
受付の男が博之を見る。
「立て替える?」
「例えば銀貨三十枚治療にかかるとして」
博之は指を折る。
「俺が払う。治ったらダンジョン戻って働いてもらう。そこから毎月ちょっとずつ返してもらう」
「……変わったこと考えますね」
「無理?」
「無理ではありませんよ」
「できるんや」
「契約を作れば。ただ、治療しても以前ほど働けない可能性もあります」
「そらそうか」
「逃げる人もいるでしょうし」
「それもあるな」
博之は腕を組んだ。
「でも十人全部失敗するわけちゃうやろ」
受付の男が少し笑った。
「そんなことをする方は、かなりの変わり者でしょうね」
「その変わり者が目の前におんねんけどな」
ソラたちが笑った。
さらに聞けば、ギルドに一定額を預けて信用ができれば、治療費や装備代を分割で支払う仕組みも
使える場合があるという。
「あ、それええな」
全部現金で出さなくてもいい。
「武器も借りられる?」
「初心者向けなら貸し出しがあります」
「経験者についてもらうとかは?」
「護衛役を雇えばできますよ。本人の取り分は減りますが、安全性は上がります」
リクの目が輝いた。
「おっちゃん、俺、鑑定したい」
「金貨一枚やぞ」
「貯めて!」
「簡単に言うな」
ソラも身を乗り出した。
「俺も!」
「順番や順番」
博之は笑った。
「まず店で金貯める」
金貨一枚。
そこまで貯まったら、三人のうち一人を鑑定する。
何かスキルが見つかれば、安全な仕事から始める。
稼げるようになったら、鑑定代を少しずつ返してもらう。
「その金貨一枚が戻ってきたら、次のやつ見てもらえるやろ」
「ほんまにやってくれるん?」
「貸しやぞ」
「それでも!」
受付の男が呆れたように笑った。
「君たち、かなり恵まれてますよ」
「そうなん?」
「身寄りのない子供に金貨一枚の鑑定費を貸してくれる人なんて、まずいません」
三人が博之を見る。
「おっちゃん、すごいな」
「やめろや」
博之は居心地悪そうに頭をかいた。
「成り行きでこうなってるだけや」
「博之さん自身は鑑定されないんですか?」
受付に聞かれた。
「俺?」
一瞬考える。
四十二歳。
飯屋三軒。
今のところ、生活は回り始めている。
「俺は後でええかな」
「いいんですか?」
「こいつらの方が先長いやろ」
リクが笑う。
「おっちゃんもう歳やもんな」
「お前、飯抜くぞ」
「それはあかん!」
ギルドに笑い声が響いた。
飯屋は回り始めた。
銭も少しずつ残るようになった。
その銭を、次に何へ使うのか。
治療。
教育。
鑑定。
装備。
そして仕事。
「なんか、やれること増えてきたな」
博之はそう呟きながら、最初の銀貨をギルドへ預けた。




