恋ひし者共の勉強会(二)
《……………俺が寝てる間に何があった?》
今まで黙りこくっていた鏡介が目を覚ました。
(長くなるけど聞くか?)
《ああ、聞かせてくれ…お前の歩んできた道を…》
(いや、長くなるから話さん)
鏡介の舌打ちらしき音が聞こえたが、おそらく気のせいだろう。
(はぁ……、超かいつまんで言うと、勉強会することになった)
《どこで?》
(義経の家)
《てめえ大馬鹿野郎かよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!》
鏡介の叫びが谺した。
(うっせえなァ…)
《てめっ…死にてえのか?!義経に俺の体で勉強なんざ教えてみろ……宙舞うぞ、貴様の首》
(怖すぎだろ、てかてめえの首でもあるだろ)
《ああああ!!………あでも、義経に問い詰められるのかぁ……だったら、まぁ…》
(てめえ今すっげえキモい妄想してたろ……でもさぁ、俺さ思ったんよ)
《お?》
(義経あいつさ…結構丸くなったよな)
《え?あーー、確かに……言われてみれば…………いつぐらいからだっけ?》
言えない……
那須与一とカフェデートしてる時に義経が後ろから見てた……なんて。
僕はそっと記憶を胸の奥の排水溝へと押し込み、こう言った。
(忘れちった⭐︎)
《どつくぞ》
しばらく歩いた頃だろうか、
義経がとあるマンションの前に立ち止まり、指を刺した。
「ここだけど…」
「へー、ここが義経の…!」
「言っとくけど、ここ私んちじゃないからね」
突如言い渡された、衝撃の事実!
皆唖然としていた。
「詳しくは泰衡の家…藤原泰衡って子、聞いたことある?」
「え?あー、どっかで聞いたことある気がすんなぁー…」
「なんか東北の方の鉄道会社の娘なんでしょ?1年の頃話題になったよねー」
「そーそーその子、その子の親と私のお父さんが仲よくてねー、今お父さん海外に単身赴任中だからさ、その間藤原さんに面倒見てもらってるんだー」
「「「「へー」」」」
木曾義仲は不意に思い出したように口を開いた。
「………そーいや、俺藤原と話したことねえかも」
「私もないかもなー」
「えー!まじで?」
義経の驚いた顔、多分鏡介なら今頃胸を打たれて失神しているだろう。
「あの子結構いい子だよー、あ…でも……一つ問題が…」
彼女はなんだか急に声色を変えて下を俯いた。
当然皆、興味を示す。
「え、問題?」
「そ、私の姉…源頼朝………厳密にはそれにくっついてる……」
「あーなんか察せたかも」
教経はなんだか思い当たりがあるようだ。
…とは言いつつ、僕もなんとなく察せてきた……
そんな空気を押し開けるように義経が言葉を出した。
「まーまー!こんなとこで立ち話もなんだし…上がってってよ!」
「えーいいの?藤原さんはいいの?」
「うん!友達はいつでも呼んでいいよ!だってさ!前もって連絡してたら」
「その、『前もって連絡』は?」
「え、してないよ?」
その場全員を包み込む沈黙。
アフリカゾウ3頭分の重さの空気がその場に残った。
「………ま、いいっしょ!」
「よっしゃああああああ!!!」
そう言って、義経に先導され、僕らは彼女の家に招かれたのだった。
エレベーターが7階に着き、重々しい音を奏でながらドアが開く。
そのエレベーターのすぐ右隣の部屋が義経の家らしい。
「さーさーここだよぉー………ん?どした?」
「いや…さ、なんか…ね?」
「うん…その……思ってたより、…」
「フツーってか、そんな感じ…」
義経、ブチギレ
「はああああ????そんなこと言わんでや!こちとらお世話になってんだよ!つーか外装で判断すんなし!ドアで何がわかんだよ!靴下のメーカーしかわかんねえっての!」
「ドアにどんな偏見抱いてんだよ」
「ふん!とりあえず開けるね!」
ふくれっ面の義経が鍵穴に鍵を突っ込んでガチャリと回した。
軽快な音の後、静かな音がむわっと逆流してきた。
その中にあったのは…
まさしくモダン風の壁が拵えられていて、色々な観葉植物が植えられている部屋だった…
すげぇ……ここが……!
「あ、間違えた」
「「「「あぁ?!」」」」
「こっちだこっちー」
義経のドジっ子が出てしまったようである。
さあさて、気を取り直して…
「ここだよー!」
ガチャリ
義経はさっきの部屋のも一つ右隣にあった部屋を開けた。
その部屋はさっきと打って変わって異常に薄暗く、さながら廃墟のようであった。
真ん中には背を向けた椅子のみが堂々と置かれており、その椅子に跨るような形で、男が座っているのだ。
男が言う。
『ヤァ、迷える少年少女、皆は宇宙を知っているかい?ここで言う宇宙とは、銀河とかそう言うのではない。この森羅万象の理、神の証明の類のものだ。其れは誰にも知り得ない。知られる事は無い。然し、私はそれを知って居る。そして少年少女にはそれを知る権利がある。君たちは神の子だからだ!神の胎内で燻り、神の子宮の中で胎動する神子よ…私と共に来れば、君たち神の子は初めてその身に受肉し、真の意味で人間になれるのです!君たちは選ばれし神の御子。共に涅槃へ至りましょう。さぁ!さぁ!さぁ!耳を澄ましてみてください!貴方たちの!真のお母様が呼んで───』
ピシャリ
「………」
「…………」
「おぉーっと!間違えたぁ!こっちが、正真正銘!私がお世話になっている家どぅぁ!」
ガチャリ
義経が開いたのは最初入場したエレベーターの左隣の部屋のドアである。
そこにあったのは……
またもや薄暗い廊下が続いていた。
「入っていいよー」
義経の声に連れられ、僕達はその廊下を突き進む。
廊下を出たら広いLDK空間が広がっていた。
しかし、依然として薄暗いままだ。
そして一つ異変がある。
ダイニング空間にぽつんと、起動されたパソコンが置いてあるのだ。
しかもノートパソコンではなく、大きい方のだ。
ディスプレイは勿論、本体も剥き出しのまま放置されており、
ほんわかとしたログイン画面の青い光が向かいの壁に照っている。
そのログイン画面で機種はWindowsだとわかる。
ただ、キーボードやマウスはどこにも無いのである。
どこか不気味なその空間を、義経は壁沿いに歩き出した。
「よ、義経…?」
「えーっと、ちょっと待ってねー」
しばらく歩いた後、義経は立ち止まり、そのすぐ隣にある壁をぐん!と押した。
なんと言うことか、その壁は音を立てて開き始めたのだ。
「ま、まさか…この奥が…?」
「義経の…本当の家…?」
皆々がその奥を覗き込む、そこには………
最初に見た部屋と同じ部屋が……!
「ここが一応私の住んでる家だよーー!」
「「「「最初から入っとけやああああああああ!!!!!!」」」」
皆の言葉がこだました。
それはさておき、まずは家の人へのご挨拶だ!
「え〜っと、源さん、じゃなくて……藤原さんだったよな?」
「うん、藤原基衡さん、『中野っつぁん』って呼んでみて!フツーにキレられる」
「ほぉ〜気ぃつけるわ」
「ちな『中野ちゅわん』なら怒られなかった」
「なんでそれで呼ぼうと思ってたんだよ…ほんでなんで実行したんだよ」
談笑しながらそこを進むと、いかにも大部屋に繋がってそうなドアが鎮座していた。
「多分この奥かな」
「うわーっ緊張するなぁーどんな人なんだろー、義経の養父さん」
それには同感だ。
行ったいいどんな人なのか…想像もつかない……
そんな妄想想像を突き破るように、義経がドアを開ける!
「ただいまー!」
その時、僕達の光彩に映ったのは……
ヨルシカを熱唱している髭面の屈強なおっさんだったのだ!!
それならまだいい……ただし、めちゃくちゃ下手だったのだ!
おっさん特有のシブい声で無理矢理高い音程を出そうとするもんだから、音は外れる、リズムは狂う。
丁度その曲がサビに差し掛かって、少ししたところで、そのおっさんが僕らの存在に気がついた。
おっさんは少々赤面し、
「…義経、えーと…この子達は?」
「私の友達!なんか勉強会するみたいでさー、ファミレスとかだと迷惑になっちゃうから、ここですることになったんだ」
おっさんは少々溜息をつき、
「そのー、なんだ……とりあえず、みんな!義経と仲良くしてくれてありがとう、私は彼女の養父の藤原基衡だ」
基衡さん…その娘が泰衡、と言うのなら…やはり藤原三代か……
なかなかに優しそうな人でよかった。
僕は心の中で安堵した。
それはそうと、早速勉強だ!
特に何も怒らなければいいが……
巴「今度一緒にカラオケ行きませんか?」
基「ぜってぇヤダ!」




