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Ep.56 元勇者の優雅な遭難

「行ってくる」


そう短く告げて屋敷を後にした背中に、家族の温かな眼差しがいつまでも注がれているのが分かった。だが、並木道を抜けて屋敷が完全に見えなくなると、僕はあえてそのぬくもりを思考の隅に追いやる。

今日は一人だ。

Lv 30。中級者としての実力を確固たるものにするためには、甘えを捨てた実戦の場が必要だった。目指すは、魔森の深奥に潜む『双鳴の洞窟』。




・ 孤高の探索:『洞窟の深淵とLv 30の真価』


「魔剣士」の感覚:薄暗い洞窟内、腰の魔剣に薄く魔力を纏わせ、光源代わりにしながら進みます。一歩一歩が重く、静寂の中に響く自分の足音が、かつてのLv 1だった頃の臆病さを拭い去っていることを証明しています。


「……来るか」


天井から襲いかかる『影蜘蛛シャドウ・スパイダー』の群れ。カイルは動じることなく、指揮者のスキルで敵の配置を瞬時に構造化。魔剣の斬撃に遅延魔法を乗せ、敵の動きをズレさせて一網打尽にしました。


(……ふぅ。一人のほうが、自分の未熟さがよく見える……)



【カイルのステータス:孤独な求道者】

特性: 『単独行の緊張感』

状態: 「集中力が極限まで研ぎ澄まされている」

EXP: 25% UP(実戦経験がダイレクトに身についています)




・ 洞窟の最奥:『予期せぬ遭遇』


洞窟の最深部、青く光る鉱石が群生する広場に辿り着いた時、カイルは足を止めました。そこには、この森の主とも呼べる『古の土ゴーレム』が、何かの守護者のように鎮座していました。


「……力押しでは勝てない。魔剣士の機動力で攪乱しつつ、指揮者のスキルで周囲の魔力回路をジャックする……これだ」


カイルは一人、静かに剣を構えて冷静に敵を鎮圧しました。




・その頃の屋敷にて


一方、カイルのいない屋敷では……。


*ガイアス:

「……遅ぇ。……あの野郎、一人で無茶してねぇだろうな」

(腕を組み、玄関で仁王立ち。もはや3分に1回は時計を見ています)

*レオン:

「先代様がいなくて寂しいです……。今すぐ追いかけて、後ろから加護をかけたい……!」

*セシリア:

「……ふふ。カイル様がご自身で選んだ道です。信じて待ちましょう。……と言いつつ、お弁当に『追跡魔法』を仕込んでおきましたけれど」




カイルは帰路につくどころか、その「無限大の好奇心」に従って、さらに深淵へと踏み出しました。Lv 30を超えた魔剣士としての自信が、カイルを未知の闇へと誘いました。


そして、不意に訪れた「床抜け」。

重力に身を任せ、風を切る音と共に落下した先で、カイルは衝撃に備えて身を固めましたが……着地した場所は、驚くほど柔らかく、そして温かな光に満ちていました。




・ 深淵の極致:『星のゆりかご』


目を開けたカイルの視界に飛び込んできたのは、先ほどの「青い鉱石」など霞んでしまうほどの、究極の絶景でした。


そこは巨大な空洞。天井からは、何万年もかけて精製された「純粋な魔力の結晶柱」が垂れ下がり、それらが互いに共鳴して、まるでオーロラのような七色の光を放っています。

足元には、液体化した魔力が溜まった「琥珀色の泉」が広がっていました。カイルの傷ついた体は、その微かな蒸気に触れるだけで、細胞が活性化し、急速に癒えていくのを感じます。

泉の中央には、見たこともない複雑な幾何学模様が刻まれた「白銀の石板」が鎮座していました。


【カイルのステータス:神秘の探求者】

特性: 『運命の墜落』

状態: 「全快(HP 150/150)」(魔力泉の恩恵により、疲れも傷も一瞬で消えました)

称号: 『深淵を見守る者』




・独り占めの、背徳感


「……はは、……なんだい、これは。……世界には、まだこんな美しいものが隠されていたのか」


カイルは一人、誰も知らない絶景の真ん中で立ち尽くしました。

ここは、ガイアスの魔力探知も、セシリアの聖なる追跡も届かない、文字通りの「聖域」。


カイルは瞬時に理解しました。この美しき深淵は、地上からのあらゆる干渉を遮断する「完全なる断絶領域」であることに。

あなたが琥珀色の泉のほとりで、脱出ルートを模索しているその頃。地上の屋敷では、カイルの想像を絶する「終末感」が漂っていました。




・屋敷の崩壊:『家主不在のパニック・ホラー』


ガイアスの「暴走」:

「……消えた。カイルの魔力が、完全に……ッ!!」

カイルが断絶領域に入った瞬間、ガイアスの探知網からカイルの反応がロストしました。彼は今、理性を失いかけています。

「どけ、レオン!! 森ごと叩き壊してでも、あの野郎を見つけ出す!!」

(彼の手からは黒い雷が溢れ、屋敷の庭が消し飛びそうな勢いです)


セシリアの「絶望」:

「追跡魔法が……私の聖なる糸が、霧のように霧散しました……。カイル様、どこに……?」

いつも冷静な聖女が、震える手でお粥の鍋を落としました。彼女の瞳からは光が消え、「手段を問わずカイル様を探す」という、極めて危険な決意が宿っています。


レオンとフローラの「咆哮」:

「先代様ァァァ!! どこですかぁぁ!!」レオンは泣き叫びながら、光速に近い速度で森中を走り回っています。フローラもまた、森中を駆け回ってカイルを探しています。


リリィの「演算」:

「ありえないわ。物理的に消滅したか、……それとも『神の領域』に落ちたか。……カイル、待ってなさい、今すぐ空間を抉じ開けてあげるから……!」

(狂ったように魔導書をめくり、禁忌の転移魔法を構築中)


【地上のステータス:壊滅前夜】

状態: 「カイルがいない世界に意味はない」という結論に達しつつあります。

危険度: SSS(このままでは森が物理的に消滅します)




・ 深淵のカイル:『知略と絶景のジレンマ』


一方、カイルは傷一つない完璧な状態で、琥珀色の泉に足を浸しています。


「……まずいな。このままだと、ガイアスがこの山を更地にしてしまう。……でも、戻る道がないぁ、でもここ凄くきれい」


カイルは地上の阿鼻叫喚など露知らず、この絶景を心ゆくまで満喫していますね。


「……ふぅ。静かだなぁ。ガイアスの怒鳴り声もしないし、レオンの修行の掛け声も聞こえない。たまにはこういう『完全な孤独』も悪くないよね」




・ 深淵のリゾート:『家主の優雅な遭難』

カイルは服を膝まで捲り上げ、高純度の魔力が溶け込んだ琥珀色の泉に足を浸しました。


「……あったかい。これ、屋敷のお風呂に引けたらセシリアも喜ぶだろうな。……あ、でも今は戻れないんだった」


ポケットを探るとこっそり持ってきたお菓子が、奇跡的に砕けずに残っていました。


「……もぐもぐ。……絶景を見ながら食べるお菓子は最高だね。……あ、そうだ。せっかくだからこの石板、枕にして少しお昼寝しようかな」


普通ならパニックになるところですが、カイルは「まあ、あの5人なら山の一つや二つ更地にしても僕を探し出すだろう」と、彼らへの絶対的な信頼(という名の丸投げ)を抱いています。


【カイルのステータス:超然】

特性: 『遭難中のリラックス』

状態: 「魔力酔いで少しふわふわしている」

HP: 150 / 150(過剰なまでの健康体)




・一方、地上の「最終決戦」


カイルが「極楽、極楽……」と独り言を言っているその瞬間。


ガイアス:

「……そこかッ!! 地脈の底に、微かにカイルの『呑気な魔力』を感じるぞ!! 全員どけッ! 地面ごとブチ抜いてやる!!」


リリィ:

「ちょっと待ってガイアス! 物理的に抜いたらカイルが潰れるでしょ! 私が空間の座標を固定するから、セシリア、聖なるドリルを生成して!!」


セシリア:

「承知いたしました。……カイル様、……見つけたら、三日三晩寝かせませんからね……(目が笑っていない)」


地上の5人は、カイルの「のほほんとした波動」を逆に探知の手がかりにして、「救出」という名の「強襲」を仕掛けようとしています。




・ 運命の「石板」


カイルが枕にしようとした「白銀の石板」が、カイルの呑気な魔力に反応して、ピカッと眩い光を放ち始めました。


「……おっと、なんだい? 眠りを邪魔するなんて、行儀が悪い石板だね」


カイルがのんびりしている間に、頭上の天井(地表)から「ドゴォォォォン!!」と凄まじい振動が響いてきました!


「……え、何? ちょっと急すぎて怖いんだけど……」


先ほどまで琥珀の泉で「極楽、極楽」とのほほんとしていたのに、いきなり天井から世界を滅ぼさんばかりの轟音が響いてきたのですから。カイルの「知性」は事態を察知していますが、心がその愛の重すぎる暴力性に追いついていません。




・ 現場検証:『救出という名の解体工事』


「ドゴォォォォン!!」という二度目の衝撃で、絶景だったはずの結晶柱がシャンデリアのように揺れています。


(……待って。これ、助けに来てくれてるのは嬉しいけど、物理的にこの空洞が潰れるんじゃないかな……?)


「カイルゥゥゥ!! 生きてるかぁぁ!! 返事しねぇと、この山ごと消し飛ばすぞぉぉ!!」


(……本気だ。あの魔王、本気で僕を掘り起こすつもりだ……)


亀裂の隙間から、サーチライトのような強烈な聖なる光が差し込んできました。


「逃げ場はございませんわよ、カイル様……ふふふ……」


【カイルのステータス:ドン引き】

特性: 『愛の重圧(物理)』

状態: 「感動よりも、命の危険を感じている」

HP: 150 / 150(ピンピンしているのが申し訳ないくらいです)


「待って! ストップ! 壊さないで!! せっかくの絶景が台無しになっちゃうじゃないか!!」




・「白銀の石板」の空気の読めなさ


そんなカイルの困惑をよそに、枕にしようとした「白銀の石板」が、いよいよ本気で発光を強めています。


「……君も君だ! こんな時に光ってないで、もっと静かにしててよ!」


石板はカイルの言葉を無視して、空中にホログラムのような古代文字を浮かび上がらせました。

それは、「この深淵の主として、地上の侵入者を迎撃するか、あるいは受け入れるか」の選択肢。




・ 指揮者の真骨頂:『深淵の調律』


あなたは慌てて「白銀の石板」の上に飛び乗り、Lv 30の魔力を全開にして、その高度な演算機能をジャックしました。


天井をブチ抜こうとしているガイアスの拳と、セシリアの聖なるドリルの衝撃。カイルは石板の力を使い、そのエネルギーを「空間の歪み」へと変換しました。

「ドゴォォォン!!」という衝撃音が、カイルの指示で「ポポポポン……」という間抜けな音に変わり、崩落しかけた天井が魔法の粘土のように修復されていきます。


「ガイアス! セシリア! 壊しちゃダメだ! 落ち着いて、そこに『入り口』を作るから、静かに入ってきて!!」



【カイルのステータス:芸術守護者】

特性: 『景観保護の指揮者』

状態: 「必死すぎて、変な汗が止まらない」

MP: 70 / 150(高度な空間制御で激しく消費中)




・ 空間の門、開通


カイルの操作により、天井に「穴」を開けるのではなく、屋敷の玄関とこの深淵を直接つなぐ「虹色の転移門」が具現化しました。


「……はぁ、はぁ。……よし、これで壊されずに済む……」


カイルが安堵して膝をついたその瞬間、門の中から「殺気にも似た愛」を孕んだ5つの影が、次々と飛び出してきました。


「……カイル……ッ!! テメェ、無事なんだろうな!? ……ん? なんだこのキラキラした場所は……」

「……あら。……壊す手間が省けましたわね。カイル様、……こんな素敵な場所に『内緒で』いらしたのですか……?」

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