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Ep.54 夢見の主催者

屋敷の中庭で、カイルはぼんやりと空を見上げていた。

春の風が吹き抜け、花弁が舞い、どこか胸がざわつく。

大きくて暖かい屋敷に住みながら、魔物を倒し、仲間と笑い合う日々――

そのすべてが愛おしいのに、何かが足りない気がしていた。


「……そうだ。僕たちの“今”を、もっと特別な形に残したい」


ふと、そんな衝動が胸の奥から湧き上がった。

ガイアスの豪快な笑い声。

セシリアの優しい微笑み。

レオンの忠誠心に満ちた眼差し。

リリィの悪戯っぽい笑み。

フローラの無邪気なはしゃぎ声。


この屋敷は、ただの拠点じゃない。

僕たちが“家族”として暮らす場所だ。


「だったら……みんなで、もっと華やかな時間を作ってもいいんじゃないか?」


胸が高鳴る。

気づけば僕は、屋敷の廊下を駆け抜け、自室の机に向かっていた。


「よし……決めた。次の宴は、この屋敷を“社交界”に変えてやる!」


こうして、カイルの突拍子もない計画――

『家族全員を貴族の正装で着飾り、壮麗な宴を開く』

という無謀な挑戦が幕を開けた。




・不器用な創造主の七日間


カイルは持ち前の知力をフル回転させ、王宮の記憶を頼りに緻密な改装図面を引き、光の屈折まで計算した魔法の構築を一人でこなす。しかし、問題は「手先」だった。


「うう……この細い糸が、どうしても上手く結べない……」


重厚な絨毯を一人で敷き詰めようとして足をもつれさせ、シャンデリアのクリスタルを磨きすぎて指先は絆創膏だらけ。ガイアスに怪しまれそうになると「見ちゃダメだよ!」と、計画を隠すために必死で屋敷中を駆け回った。


リリィを「記録石」で買収し、密かに仲間の衣装を仕立てさせる。自分自身の服は二の次で、仲間のドレスや礼装の色使い、生地の質に全神経を注いだ。自分の不器用さを、膨大な時間と愛情でカバーしようとしたのだ。


しかし、現実はLv 1の少年。重い絨毯を運ぶだけで肩で息をし、シャンデリアを磨く指先は絆創膏だらけ。不器用ゆえに何度も飾り付けをやり直しながらも、「みんなを驚かせたい」という一心で、夜通し魔力を練り続けた。




・幻影の社交界と驚喜の夜


当日、ホールに足を踏み入れた仲間たちは、一様に息を呑み、立ち尽くした。


「……ここは、本当に俺たちの屋敷か……?」


ガイアスが呆然と呟く。カイルがLv 30の限界まで注ぎ込んだ魔力により、天井には無数の結晶が浮遊して星空のような光を放ち、大理石の床には柔らかな魔法の絨毯が敷き詰められていた。


「勇者様、なんて……なんて美しいのでしょう」


セシリアは、カイルが密かに用意した絹のドレスを纏い、感極まったように頬を染めた。リリィもまた、見たこともない贅沢な意匠のドレスに目を輝かせ、「ちょっと、これ夢じゃないわよね!?」と、慌てて記録石を起動して部屋中を撮りまくる。


宴が始まれば、そこは本物の社交界さながらの熱気に包まれた。

立食テーブルには、カイルが図面まで描いてこだわった色鮮やかな料理が並び、不慣れな軍礼装に身を包んだレオンは「先代様、見てください!」と、ダンスを披露しようとして空回りし、みんなの笑いを誘う。

リリィは「ほらガイアス、シャキッとして!」と不機嫌そうな魔王を引っ張り出し、カイルが演出した「幻影のオーケストラ」の調べに乗せて、家族だけの賑やかな舞踏会が続いていった。

カイルは、自分が用意した衣装に身を包み、最高の笑顔を見せる仲間たちを眺めていた。


(……ああ、みんな、僕よりずっと似合ってる。頑張ってよかったな……)


絆創膏だらけの指を隠しながら、カイルは満足感で胸をいっぱいにした。




・夢見の主催者


しかし、数日間の不眠不休と、屋敷全体の魔法維持に使い果たした体力は、限界を迎えていた。

賑やかな笑い声とオーケストラの旋律が、カイルの耳には次第に心地よい子守唄へと変わっていく。

椅子に深く沈み込んだカイルの瞼は、抗いようのない眠気にゆっくりと閉じられていった。




・祝祭の残響


「…………ちっ。……あいつ、……寝やがったか」


ダンスの輪が解けた頃、ガイアスが真っ先に足を止めた。

主役のいない座席。カイルは幸せそうな寝息を立て、完全に夢の中だった。

ガイアスは軍礼装のまま、重厚なマントを脱ぐと、その小さな肩を包み込むようにそっと掛けた。


「……ふふ、カイル様。……こんなに素敵な魔法をかけておきながら、ご自分が一番先に夢の中ですか」


セシリアが歩み寄り、乱れた前髪を慈しむように整える。

リリィは、その静かな時間を壊さないよう、シャッター音を消して記録石に「家族」の姿を刻み続けた。




・静寂の「第二幕」


フローラがカイルの膝に頭を預け、レオンもその寝顔を守るように傍らの椅子に腰を下ろした。


「……明日起きたら、山盛りのご馳走を用意しておいてあげるわ。今のあんたの寝顔、最高に『子供』っぽくて……悪くないわよ」


リリィが小さく囁く。


「……カイル。テメェが目覚めるまで、俺がこの屋敷の門番をしてやる。安心して、眠ってろ」


ガイアスの誓いが、静まり返ったホールに優しく響いた。



【カイルのステータス:完全休息】

状態: 「幸せな寝息を立てて、99レベへの階段を一歩進んでいる」

HP: 26 → 30(一週間奮闘したことによるレベルアップ)

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