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Ep.52 マンゴーは武器になり得るらしい

・砂に埋もれた「宝物」:沈黙の家主


戦いの喧騒が去り、静まり返った波打ち際。カイルは砂浜に散らばった「100個のマンゴー」を、ただじっと、黙って見つめていた。

それはガイアスが、僕たちの危機を察知して、なりふり構わず駆けつけるために投げ出した献身の跡だった。


(……砂まみれだ。あんなに頑固なガイアスが、大切に選んだはずのフルーツを、ゴミのように放り出して僕を助けに来てくれたんだ……)


Lv 22になったカイルの目には、その潰れた実の一つ一つが、不器用な魔王の想いのように見えていた。


「……おい、カイル。何を黙りこくってやがる。ケガでもしたのか? ちっ、マンゴーならまた買いに行きゃあいいだろ、そんなツラすんな」


ガイアスはバツが悪そうに鼻を鳴らし、砂だらけのマンゴーを大きな手で拾い集め始めた。

レオンもリリィも、僕の瞳を見て言葉を失っている。セシリアだけが、僕の心の内を察して、そっと隣に立った。




・ 波音の中の決意


「…………ねぇ、ガイアス」


僕はしゃがみ込み、砂に埋もれた一番大きなマンゴーを手に取った。


「……これ、洗えば、まだ食べられるかな」


ガイアスは手を止めた。


「……あ? ああ、まぁ、中身は無事だろうよ。皮を剥けば、同じだ」


「……よし。決めたよ。このマンゴー、全部僕が剥く。みんなで、砂の味がしなくなるまで、笑って食べ尽くそう」




・ 南国の夕陽:傷だらけの晩餐


僕は剣を料理ナイフに持ち替えた。

豪華なホテルのディナーよりも、一流シェフの料理よりも。

自分を救うために投げ出された、砂まみれのフルーツを家族全員で分かち合うこと。


(……ああ。僕の役割は、戦うことだけじゃない。こうやって、みんなの不器用な優しさを、最高の思い出として形にすることなんだね)


僕がみんなの想いを受け止めようとする決意は、初めての強敵との戦いを経て、さらに深く、温かい色を帯び始めていた。




・ 惨劇のマンゴー剥き:芸術(?)の爆誕


かつてガイアスへの贈り物として「謎の熊のような塊」を彫り上げ、周囲を戦慄させたことがあった。Lv 22となり、戦場では精密な動きを見せるようになったカイルだが、その手先の不器用さは、戦士としての成長とは一切比例していなかった。

僕はガイアスへの感謝を込め、真剣な眼差しでナイフを握った。


「見ていて。最高に綺麗に剥いてあげるから」


サクサク……グチャ……。


(……おかしいな。皮を剥いているはずなのに、なぜか実の大部分が削げ落ちていく。いや、これは必要な工程なんだ、きっと)


数分後、僕の手の上には、マンゴーだったはずの「デコボコで、不気味な形をした黄色の塊」が鎮座していた。


「はい、ガイアス。『戦う魔王とフローラ』をイメージして彫ってみたよ」

「……………………テメェ。これ、食い物か? 呪いの道具じゃねぇだろうな?」


ガイアスはその「黄金の異形」を震える手で受け取った。かつての木彫りの悪夢が蘇ったのか、彼の頬が引きつっている。



・カイルの状況

特性: 『壊滅的な造形センス』

状態: 「自分では傑作だと思っている(瞳が輝いている)」




・ 周囲の沈黙とフォロー


「……す、すごい! カイル様、マンゴーに独特の躍動感を与えていらっしゃる……! さすがです!!」

レオンは無理やり褒めようとして、目が泳いでいる。

「カイル。あんた、戦場であんなに精密な動きができるのに、なんで包丁を持つと手がつけられなくなるのよ……?」


リリィが呆れたように呟く。その横で、Lv 65のフローラは不思議そうにその塊を見つめていた。


「ふふ。ガイアス様、よかったですね。カイル様の愛が、形となって凝縮されていますわ」


セシリアが穏やかに微笑み、逃げ場を塞ぐように告げた。




・ 砂浜の「毒(?)見」


「……さあ、ガイアス。あーんして。……心を込めて剥いたんだから」


カイルは自信満々に、その「マンゴーの成れの果て」をガイアスの口元へ運びました。


(……ふふ。僕はこれだけ真剣に取り組んだんだ。きっと最高の出来栄えに違いない。ガイアス、言葉も出ないほど感動してるみたいだ)


カイルの「一生懸命な不器用さ」は、ある意味で海の怪物よりも破壊的な一撃をガイアスの胃袋と精神に叩き込もうとしていました。

目の前のガイアスは今、かつての宿敵や海の怪物と対峙した時ですら見せたことのない「極限の葛藤」に直面しています。カイルの差し出した「自称:最強の魔王(実態:黄色の不定形な塊)」を前に、彼は身を震わせながら、覚悟を決めたように口を開きました。




・ ガイアスの「決死の試食」:『愛と胃袋の境界線』


ガイアスは目を固く閉じ、カイルの差し出した「それ」を一口で飲み込みました。噛むことを拒絶するかのように。


「……っ、……ゲホッ!! テメェ……カイル……ッ!!」


彼はむせ返り、鼻からマンゴーの果汁を吹き出しそうになりながらも、必死に飲み下しました。顔は真っ赤になり、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいます。


「……大丈夫か、だと!? 死ぬかと思ったわ!! なんでマンゴーを切って、『殺意』が混じってんだよ!! ……だが……ちっ。味だけは、味だけは甘ぇじゃねぇか、クソッ!!」


カイルの真っ直ぐすぎる真心に、魔王の胃袋と心が同時に撃ち抜かれていました。



・ カイル(無自覚な毒殺者?)

特性: 『味覚の破壊神』

状態: 「ガイアスの涙を『感動の涙』だと勘違いしている」

HP: 250 / 250




・ 周囲の「安堵と戦慄」


セシリアが穏やかに微笑みながら、二人の様子を見守っていました。


「……ふふ、ガイアス様、ご無事で何よりです。さあ、カイル様。残りの99個は、私が少し『お手伝い』いたしましょう。このままだと、お祭りの前にガイアス様が倒れてしまいますわ」


現役勇者レオンは、その光景を驚愕の眼差しで見つめていました。


「……す、すごい。カイル様のマンゴー、食べた瞬間にガイアスさんの防御力を貫通しましたよ……! これこそがカイル様の真の底力……!!」


彼は真剣な表情で、手帳に「マンゴーは武器になり得る」と書き留めています。

一方で、フローラは、騒がしくも温かいそのやり取りを、少し離れた場所から静かに見守っていました。不器用ながらも必死に仲間を喜ばせようとするカイルの姿に、彼女は深い信頼と愛おしさを感じているようでした。




・ 砂浜の「和平交渉」


「……え、ガイアス。そんなに美味しかった? じゃあ、もう一口……」

「……待て!! 待てカイル!! 一旦落ち着け!!」


ガイアスは必死にカイルの手を止め、泥だらけになったカイルの頬を、自分の大きな手で少し乱暴に、けれど愛おしそうに拭いました。


・ 現在の状況

ガイアス: 瀕死の重傷(胃袋的)。

カイル: 満面の笑みで、次のマンゴーを手に取ろうとしている。


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