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Ep.45 再起した少年は魔王の隣に立つために

・ 剣を取る決意:『魔王の隣』に立つために


屋敷の広間で、カイルは自分の掌を見つめていた。神の力を使い果たし、正真正銘の人間となった証であるLv 1の身体。


かつて僕が死に至った時、ガイアスはそれを受け入れられず、神の力を使って僕が生きている幻像の世界を創り出してくれた。その優しさは痛いほどに温かかったけれど、僕はそれを拒み、自分の意志で神の力を使い切ってこの世界を「真実」へと書き換えた。


(……いつまでも、皆に背中を預けて守られているだけではいられない)


この不自由で愛おしい「現実」を共に歩むと決めたからこそ、ただ守られるだけの存在ではなく、ガイアスの隣に堂々と立てる自分でありたい。



脳裏をよぎるのは、勇者と呼ばれた頃の自分の姿だ。当時は魔力と剣技を自在に操り、重厚な魔剣を振るって戦場を駆ける「魔剣士」として誰よりも先陣を切っていた。


今のこの細い腕では、かつてのような剛剣を振るうことは叶わない。けれど、あの頃培った術理を今の身体に合わせて再定義すれば、新しい「魔剣士」の形が見つかるはずだ。



カイルが「Lv 1の自分に合う装備」を真剣に探し始めたその瞬間、屋敷の空気が「最強の過保護ネットワーク」によって一変した。




・屋敷での装備選定:家族の防衛線


街の武器屋へ行こうと靴を履き直したカイルの背後から、不穏な影が立ちはだかる。


「……街の武器屋だぁ? テメェ、あんななまくらを握るつもりか。一秒で折れて死にたいなら止めねぇが……俺が打った『魔王の鍛造剣』以外、一分も持たせねぇぞ」


ガイアスはすでに裏庭で伝説級の魔鉱石を叩き始めている。


「カイル様の柔らかなお肌に、市販の防具など刺激が強すぎます。私が一晩かけて、すべての攻撃を弾く魔法外衣を用意いたしましたわ」


セシリアの差し出すシャツには、核爆発にも耐えうる神聖魔力が渦巻いていた。


「防御だけじゃ手ぬるいわ。これ、私が調整した『転移の幻影ミラージュ・ブローチ』よ。致命的な衝撃を感知した瞬間、あんたの座標を一メートル横にずらして回避させる。今のあんたの耐久力なら、これが命綱になるはずよ」


リリィが真剣な面持ちでカイルの胸元に留めたのは、緻密な魔導回路が刻まれた銀のブローチだった。



皆の過保護ぶりに同意しながらカイルの袖をそっと掴んでいたフローラが不安そうに見上げてくる。カイルは彼女の頭を優しく撫で、皆に向き直って言った。


「……ありがとう。でも僕は、今の自分の目で見極めたいんだ。誰かの守護なしで、今の実力に何が必要なのかを」


その真っ直ぐな言葉に、フローラは静かに手を離し、カイルを信じるように力強く頷いた。




・街での邂逅:神の眼と一振りの細身剣


賑やかな商店街で、カイルは自分の脆弱な器を冷徹に見つめていた。店主が勧める「鉄のショートソード」ですら、今の自分の腕力では一振りで肩を痛める重荷でしかない。


(今の僕に必要なのは、力で叩き切る重さじゃない。術式を乗せやすく、最小限の力で鋭く斬り込める『伝導率』と『軽さ』だ)


埃を被ったジャンクコーナーで、カイルの指が一振りの剣に触れた。


『月影のミスリル・ソード』


中振りの片手剣ながら、魔銀を贅沢に用いた刀身は驚くほど軽く、羽のようにしなやかだ。かつて振るった魔剣のような重厚さはないが、今の僕の腕力でも、これなら十全に振り抜くことができる。


併せて手に入れたのは、驚くほど軽い『微風のマント』。正面から打ち合う力がないのなら、当たらなければいい。元神としての目利きが、Lv 1としての最適解を選び抜いた。


店を出たカイルは、人混みに紛れながら背後の路地へ視線を投げた。


「……ガイアス、そこにいるんだろう? 隠れなくていい。この剣を見てくれ。今の僕に、一番合っていると思わないか?」


透明化を解き、気まずそうに現れた大男は、カイルが選んだ「細っちょろい銀の板」を眺め、不器用に鼻を鳴らした。


「……フン。テメェが自分で選んだんなら、文句はねぇよ。……似合ってるぜ、カイル」




・屋敷での修練:魔導の剣と再起の予感

屋敷に戻ると、中庭ではフローラがレオンを相手に、目にも留まらぬ速さで短剣を振るう特訓をしていた。かつて救った少女の成長を眩しく見つめながら、カイルもまた、新調したミスリル剣を手に中庭に立つ。


カイルは、脆弱な器を最大限に活かすための戦い方を見定めていた。

重い剣を振るう体力がないのなら、魔法を補助として使い、最小限の動きで致命傷を与える。


「この剣、僕のLv 1の魔力でも、驚くほど素直に火球ファイアボールの術式が乗るな。リリィ、これなら剣筋に魔法を乗せて、リーチや威力を補うことができそうだ」


「カイル、あんた目利きね! その剣、魔力の通りが良すぎて、魔法使いが触媒に使うレベルよ。今のあんたの『低い出力』を魔法のキレで補うには最高のご馳走ね」


リリィのアドバイスを受け、剣先から小さな火球を放つ練習や、刀身に微かな熱を帯びさせる練習を繰り返す。一発撃つごとに休憩が必要なほどMPは少ないが、その集中力はかつての神の片鱗を感じさせた。


魔法の練習の合間、カイルは剣を鋭く振り抜き、一瞬だけかつての魔剣士としての足運びを試みた。


(今はまだ、剣と魔法を完全に同期させることはできない。でも……必ず追い付いてみせる)


その様子を黙って見守っていたガイアスが、低く笑う。


「……魔法を乗せた剣技、か。お前が勇者だった頃を思い出すな......賢い選択だ。だがカイル、その剣を本当に『魔剣』として扱えるようになったら……俺が直々に実戦形式で叩き込んでやる。覚悟しとけよ」


カイルは静かに高揚していた。守られるだけのLv 1ではない。自らの知略と、この白銀の細身剣を頼りに、再び魔王の隣に立つための歩みは、今始まったばかりだった。




・修練の現在地:独り、林の中で


街で自ら選び抜いた『月影のミスリル・ソード』を手に、カイルは独りで屋敷裏の林に立っていた。

出発の際、リリィやガイアスの過保護な装備を断ってまで、自分の実力を見極めると決めたあの日から、カイルは着実に歩みを進めている。


現在のレベルは5。

神の知略を総動員した独りの修練によって、低いMPを効率よく回す魔力操作を身につけつつあった。


「……はあ、はあ……っ」


目の前で跳ねる低レベルモンスター、『角付きスライム』を相手に、カイルはミスリル剣を触媒に『火球ファイア』を放つ。術式の衝撃でスライムの核を露出させ、そこを狙って鋭い刺突を繰り出す。かつての全能には程遠いが、Lv 1の肉体が少しずつ「戦い」の感覚を覚え始めていた。




・ガイアスの介入:泥臭い真髄


「……相変わらず、危なっかしい戦い方してやがる」


物陰から隠れて見守っていたガイアスが、これ以上は見ていられないとばかりに姿を現した。

カイルの腕に、スライムの体液による微かな痺れや擦り傷がついているのを見つけると、彼は鼻で笑いながらミスリル・ソードをひったくるように手に取った。


「いいか、よく見とけ。テメェが勇者時代に振るっていた洗練された剣じゃあ、今のその貧弱な体は守れねぇ」


ガイアスが放った一撃は、力任せではない。全身のバネを使い、魔力を刃の先端に「置く」ような、極限まで無駄を削ぎ落とした刺突だった。生き延びるために泥を啜りながら磨き上げられた「魔王の技」。


「剣を振るんじゃねぇ。自分の『意志』の延長線上に、刃を届かせるんだよ。それが、魔力を纏う『魔剣士』の基礎だ」


カイルはその光景を網膜に焼き付けた。今の自分に必要なのは、かつての神の全能ではなく、この一撃にすべてを懸ける「意志」なのだと理解した。




・展望:Lv 15への決意


「……わかったよ、ガイアス。君のその、暑苦しいほどの『意志』の乗せ方……僕に教えてくれ」


カイルが愛剣を受け取り直すと、そこには魔王の熱が宿っていた。

敵がさらに強くなれば、魔法を撃つ暇さえなくなるだろう。その時、この軽量なミスリル剣を卒業し、真の魔剣でを手にする必要がある。


カイルは、ガイアスが今も屋敷の奥で自分を想って打ち続けている「真の魔剣」の存在を知っている。


「レベル15。そこが僕の次の転換点だ。その時、君が隠している『あの剣』を、僕に預けてもらうよ」

「……フン。言われなくても、そのつもりだ」


カイルの瞳に、かつての未練ではない、新しい「魔剣士」としての静かな闘志が宿る。守られるだけのLv 1ではない。自らの知略と、仲間が繋いでくれたこの命を懸けて、再び魔王の隣に立つための歩みは、着実に進んでいた。




・孤独な修練と魔力の「質」


一人、廃村の瓦礫の上に腰を下ろし、カイルは新調したミスリル・ソードを膝に置いて目を閉じていた。


「……今までの僕は、Lv 1の少ない魔力をただ『放出』していた。でも、ガイアスが言っていたのは、体内で魔力を圧縮し、刃先の一点に『置く』感覚だ」


カイルは呼吸を整え、体内の細い魔力の糸を、一本の強靭な鋼の線へと編み上げるイメージを繰り返す。

実戦の相手は、物理攻撃の通りにくい『影の粘生体シャドウ・ウーズ』。カイルはミスリル剣を静かに突き出した。


「……『ファイア・ニードル』。拡散させない。ただ一点に、熱を……!」


放たれたのは、鋭く青い火の針。魔力の浪費を最小限に抑えつつ、的確に核を貫いた。独りで全ての経験値を背負い、カイルはLv 8へと急成長を遂げていた。

屋敷の屋根の上で、その気配を感じ取っていたガイアスが独りごちる。


「……フン。神の力に頼ってた頃より、今のあいつの方が、よっぽど『強さ』の真理に近いぜ」




・約束のLv 15、魔剣『残響の白銀』


数日後。独り修行で魔力の「質」を掴んだカイルは、フローラとの連携においても快進撃を見せ、ついに約束のLv 15に到達した。

夕暮れ時。修行を共にしたミスリル・ソードを台座に置き、カイルは屋敷の一角にある鍛冶場に立つガイアスの元へ歩み寄る。


「ガイアス。……約束のレベルになったよ。君が僕のために打ってくれた『あの剣』を、預けてくれないか?」


ガイアスは黙ってカイルを見つめ返し、古布に包まれた一振りの剣を差し出した。

解禁された魔剣『残響の白銀エコー・シルヴァ』。

握った瞬間、全身の魔力が刃先まで一本の線で繋がる感覚が奔る。


「……重い。でも、心地いい重さだ。これなら、僕の意志をそのまま刃に乗せられる」




・基礎の再構築と、突きつけられた現実

しかし、カイルは慢心しなかった。翌朝、彼は魔剣を一度置き、あえて重い「木剣」を手にして中庭に立った。


「……くっ、重いな。神の頃なら羽のように扱えたはずなのに。今の僕の腕では、軸がぶれる」


一振りごとに、筋肉が悲鳴を上げる。ガイアスが「腕で振るんじゃねぇ、大地の反動を腰に伝えろ」と鋭い声を飛ばす。傍らではLv 67のフローラが、カイルの剣筋を避ける練習に付き合い、静かに彼の成長を支えていた。


カイルの「積み上げる」修行は、魔剣を振るうための器を確実に作り上げていたが、同時にそれは、残酷な事実をも浮き彫りにした。



修行の合間、大きな姿見の前に立ち、木剣を握った自分の姿をまじまじと見つめた時、カイルは言葉を失った。

鏡に映っているのは、全能の神でも、天命を背負った勇者でもない。

汗にまみれ、肩を震わせ、必死に一本の木を握りしめている「ただの少年」の姿だった。


(……これが、今の僕なんだ。奇跡も天命もない、一人の人間……)


カイルはその無力さを正視し、震える手で再び木剣を握り直した。その瞳には、かつての栄光への未練ではなく、この弱さからすべてを再構築するという、静かで強固な決意が宿っていた。

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