もう一周、好きなだけ
日曜の午後、植物屋に着いた。
先週のモールとは別の店だった。
遥が調べてきた。
「広い」
遥が入った瞬間、また歩き方が変わった。
いつもの遥だった。
鉢が並んでいた。 床にも、棚にも、天井からも。
遥が視線だけで先に歩いていた。
「これ、先週いた子達だ」
「そうだね」
「でもこの子たちのが元気かも」
遥が鉢を持ち上げた。
まんべんなく見て、また戻した。
僕も眺めた。
欲しいものが増える感じがした。
ガジュマルの前で、遥が止まった。
大きさが三種類あった。
遥が一番小さい鉢を手に取った。
値札を見て戻した。
次に中くらいのを手に取った。
少し長く持っていた。
戻した。
「どれがいい?」
遥が聞いた。
僕に向けた質問だった。
助言を作りかけた。
この大きさなら育てやすい、とか。
部屋の広さによる、とか。
飲み込んだ。
「遥はどれが好き?」
遥が少し間を置いた。
「迷うけど、これが一番好きかも」
「好きなら気が合いそうだね」
遥は何も言わなかった。
中くらいのをもう一度手に取った。
少し経って、また戻した。
表情が、少し硬かった。
棚を見ているようで、焦点が合っていなかった。
「もう一周見よ」
遥が振り返った。
「ゆっくりでいいよ、僕も迷ってる」
それだけ言って、先に歩いた。
遥がついてきた。
別の棚を見た。
モンステラがあった。
サボテンと多肉植物があった。
遥が小さな多肉植物の前で少し笑った。
「これ、かわいい」
「名前なんですか」
「エケベリア。育てやすいって聞いたことある」
「詳しいですね」
「そんなこともないんだけどね」
遥が少し笑った。
肩が、さっきより落ちていた。
もう一度ガジュマルの棚に戻った。
遥が中くらいのを手に取った。
今度は、すぐに戻さなかった。
「これにする」
小さな声だった。
でも、はっきりしていた。
「いいね」
それだけ言った。
遥がレジに向かった。
その背中が、少し軽かった。
店を出ると、遥が鉢を両手で抱えていた。
「重くないですか」
「大丈夫、自分で選んだから」
でも、声の温度が少し違った。
駅までの道、遥が鉢を見ながら歩いた。
「枯らさないようにしないと」
「そうだね」
「飾ったら写真送るね」
遥が少し笑った。
僕は何も言わなかった。
それで良かった。
改札の前で、遥が言った。
「今日、ありがとう」
「楽しかったよ」本心だ。
「良かった」
遥が改札を通った。
振り返らなかった。
僕はその背中を見ていた。
鉢を抱えた遥が、人混みの中に消えた。
胸の奥で、また何かが動いた。
今回は、息を止めなかった。 胸の奥が、ちゃんと温かかった。




