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第101話 酒は飲んでも呑まれるな

 学生会の控え室に戻り、グッタリと椅子にもたれて考え込む。

 ティラノサウルス、いや古代獣か、強かったな。

 そして、観客は喜んでいるが忘れてはならない。

 今回は多くの者が殺された。

 ラクリマが企図した被害よりは少ないだろう。それでも死者が出たのだ。甚大な被害だ。

 それにラクリマ。一体何者なんだろう。

 かつてダンジョンで遭遇した男と同様に仮面を被っていた。仲間と考えるのが妥当だろう。

 なぜ王国を攻撃するのか?

 そして・・・、あのティラノサウルスを出現させた魔法陣。

 俺が闘技台を見たときに感じた魔力。あれは魔法陣が描かれていたから。

 だとすると、学院の設備にいつ誰が魔法陣を仕込んだのか。

 わからないことが多すぎる。


「ユーキ」


 エドが笑いを堪えながら俺を見ている。


「考え込んでるところ悪いんだけどさあ、その頭どうにかした方がいいよ」


 え?俺は頭に手をやった。

 何だこのチリチリ・・・。

 ストレージから鏡を出して自分の顔を見る。


「あっ!」


 煤だらけの顔の上に見事なチリチリヘア。

 ティラノサウルスの炎にやられたようだ。

 慌てて髪の毛に治癒魔術をかけるが、変化がない。

 なんで?

 あ、このチリチリの部分ってまさか死亡判定か?勘弁して欲しい・・・。


 会長が学生会のメンバーを引き連れて部屋に入ってきた。


「エド先輩!ユーキ!ありがとうございます!ん?どうしたユーキ、何をしょげている?英雄だろう」

「いや、この頭が・・・」

「・・・随分愉快な頭になったな」


 メンバーたちが笑いを堪えている。いいよ、いっそ笑ってくれ。

 あ、そうだ。


「会長、服を脱いで下さい。右腕の治癒をします」

「しかし俺の右腕はもう」

「大丈夫です、さあさっさと済ませましょう」


 会長は、不思議そうな顔だが、他のメンバーが手伝って上半身を脱がせた。

 俺は、途中で会長から預かっていた右腕をストレージから出す。


「エド、手伝ってくれる?」

「了解」


 エドが右腕を受け取り、会長の肩口の切り取られた部分に当てがう。


「この辺でいいか?」

「うん、大丈夫」


 右腕は俺のストレージで状態維持されていたからまだ大丈夫だ。

 よし、一気に治癒魔術をかける。

 白い光が会長の肩口を包み込む。

 光が腕全体に広がっていく。

 右腕の一部が壊死していたかな?

 それでも腕全体を再生するよりはずっと魔力量は少なくて済む。

 除菌もだ。

 オエッ!

 また例の不快感。これ何とかならないかな。

 師匠のように滅菌の方法だと多分吐き気はこないような気がする。練習しよう。


 数秒が経過して光が収まった。

 そこには綺麗に繋がった右腕があった。

 呆然と自分の右腕を見つめる会長。

 周囲のメンバーも声もない。


「動かしてみて下さい」

「あ、ああ」


 恐る恐る右腕を動かす。曲げ伸ばし、ぐるぐる回す、グーパーを繰り返す。


「どこか違和感は?」

「・・・いや、まったくない。これまで通りだ・・・」

「何かあったら言って下さい。すぐ治しますから」


 メンバーたちはまるで魔法でも見たかのように目を丸くしていた。いや、魔法か。


「ユーキ、これは一体・・・」

「僕の治癒魔術です。かなり適性が高いようで」

「適性って・・・、そんなレベルじゃないだろう。斬られた腕をつなげるなんて聞いたこともない」

「ブライソン。ユーキは欠損した腕でも再生できるぞ」

「エド先輩・・・。ユーキ、本当か?」

「まあ、大概のことはできますね」


 メンバーたちが騒めく。


 会長が俺の手を取った。


「ユーキありがとう。何と礼を言えばよいか」

「そんな大したことじゃありません。礼なんて不要です」

「ユーキ!この俺、ブライソン・マクニーリーは、生涯の友情と信頼をお前に誓う!俺は生涯お前を裏切らない!何があろうとお前を信じ、お前と共にある!お前の危機には俺のすべてをかけてお前を助ける!」

「そんな・・・」

「これは貴族としての俺の誓いだ!」


 エドが俺を見て軽く頷く。

 そうか、これは貴族として受けるべきものなのだ。


「ありがとうございます。ユーキ・シェフィールド、会長の誓いを謹んでお受けします。そして私もまた、会長に対し生涯の信頼を誓います」

「ありがとうユーキ!」


 会長の握る手に力がこもる。目には強い光。

 この人もまた、生まれながらの真の、そして誠実な貴族なんだな。


 それから会長に事件の顛末を聞いた。

 陛下は結局最後まで俺たちと古代獣の戦いをご覧になっていたようだ。

 表彰式と閉会式は中止。

 フレッドさんとカインさんは、陛下とともに王城に行った。王城で詳細な報告を聞くらしい。


 今回の件で死者は、決勝戦で殺された学生が1名、グラウンドで殺された衛兵が16名、そしてラクリマがロイヤルボックスに陛下を狙って転移した際に殺された近衛騎士が5名、魔術師が3名、合計25名となった。

 ロイヤルボックス内では、結局フレッドさんが乗り出してラクリマを退けたらしい。

 近衛の面目丸潰れだな。

 ラクリマが化けていたアッサムという学生の行方は不明。

 これから詳細な検証が行われる。

 俺とエドには陛下から褒賞が出るだろうと会長が言うが、そんなものいらん。

 来場していた観客は、事件にも関わらず、皆んな大興奮で帰って行ったらしい。まあ、魔獣との戦闘なんて見る機会ないもんね。それがあんな巨大な魔獣ならなおさらだ。


 この後俺たちは、打ち上げのために予約していた王都のちょっと高級な居酒屋に繰り出した。

 もちろんエドも一緒に。

 疲れてはいたが腹も減っていたし、若干興奮が収まっていなかったからね。

 そこで俺は久しぶりに痛飲し、倒れて記憶を失くしてしまった。

 16歳の身体は随分酒に弱くなったようだ。

 気づいたら寮のベッドで朝を迎えていた。



 午前5時。

 どんなに酒に酔っても、身体は習慣に従って機能してくれるらしい。

 それにしても頭がガンガン痛い。二日酔いなんていつぶりだよ。

 治癒魔術って二日酔いにも効くのか?

 あ、スッキリした。これは大発見だ!

 昨日はどうなったんだっけ?居酒屋で大騒ぎしながら飲んでいたのは覚えているが、途中から記憶がまったくない。不味いな。酔っているところを仮面の男に襲われでもしたら。若返った身体に慣れたつもりだったけど、もう一度自分の身体をチェックしておく必要があるね。


 顔を洗い、着替えてから朝のトレーニングに出る。

 学院の制服のまま寝ていたよ。最悪の気分だ。


「トーダ、俺、昨日の夜酔っ払って何してたか知ってる?」

「知らん、ワイも酒飲んで寝てもうたからな」

「トーダも飲んだの?」

「飲んだで。ユーキが美味そうにしとったけん」

「式神でも酔うのか。あ、そうだ。トーダ、昨日はありがとう」

「ああ、あのデカいのまあまあ強かったな。せやけどユーキもあれくらい一人で倒せんとあかんで」

「そうだよね。ねえ、清明さんなら昨日のヤツ倒せた?」

「あんくらい簡単やろ。心配すな。ハルも子供の頃は弱かったけん。ユーキもこれからや」

「俺の今の力って清明さんの何歳くらい?」

「10歳くらいちゃうか?知らんけど」


 10歳!本当に子供じゃないか!ショックだ・・・。


 トレーニングを終えてシャワーを浴び、鏡を見るとチリチリ頭が目に入る。

 早めに床屋さん行かなきゃ。

 朝食を摂りに食堂に行くと、ケビンがニヤニヤしながら近寄ってきた。


「おはようユーキ。昨日はどうだった?」

「え?何が?」

「惚けるなよ。楽しんだんだろう?」

「だから何の話だよ。悪いけど俺、昨日酔っ払って何も覚えてないんだ。俺何したの?」

「マジか・・・。ならいいや、気にしないで」

「いや気になるから!ホント俺昨日何したの?」

「あ、ああ、まあ、ほら。何て言うか、殿下、じゃなくてスティングさんやイアンたちと、なんて言うの?女性のお店?なんか楽しむ所?盛り上がって行ってたよね」

「女性のお店?」


 何の店だ?まさか・・・。俺そんな所に行っちゃったの?

 顔が青ざめる。

 自慢じゃないが、俺は女性経験は元の世界でハニートラップの訓練をさせられたときしかない。なので、この世界に来て若返ったからには、今度こそ普通に好きになった女性と、と思ってたのに・・・。しかも記憶がないなんて!最悪にもほどがある。


「あ、イアンが来たよ。昨日のこと聞いてみれば?」


 ケビンが示す方を見るとイアンが眠そうな目をこすりながらこちらにやって来る。

 俺はイアンに駆け寄った。


「イアン!僕は昨日どうなったんだ?何も覚えてないんだ!」

「ああ、ユーキか。君、昨日は大変だったんだぞ」

「何かやってしまった?」

「いや、やったと言うかやってないと言うか。せっかくお薦めの店に連れて行ったのにさ、君、女の子と二人になったらずっと寝てたらしいよ」

「は?」

「意外と酒に弱いんだな。何もしないでずっと寝てたって、女の子がすごい怒ってたぞ」

「・・・」

「帰りは僕とスティングさんでおぶって帰ってきたんだからな。あとでスティングさんに謝っておけよ」


 ヤバい!俺は酔っ払ってこの国の王子にお世話させたのか。

 それはともかく、今の話なら俺の第二期純潔は守られたらしい。ホッとした。

 しばらくお酒は慎もう・・・。


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