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魔女の恋  作者: 柚希
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魔女の魔法

 定期的に薬を求めてくる少女の薬を、いくつかの瓶へ小分けして詰めます。いつでも渡せるように袋へ入れると、もう日暮れになっていました。

 詰めた袋に入れた薬は、あまり日持ちしません。誰にも渡らずにまた捨てることになっても、魔女は作り続けます。魔女はこれしか、できることがないから。

 道具をしまい、薬は暗所へ置きました。一息ついて、夕飯の支度をしながら突然訪れた青年を思い出します。

 魔女の記憶の中に、彼はいません。

 しかし彼は、魔女を知っているようでした。

 誰にも教えていない調合法を本当に知っているのでしょうか。

 魔女は首をふりました。知るはずがありません。魔女は誰にも教えた覚えがないのですから、門外不出の調合法です。

 彼は何処で覚えたのでしょう?

 魔女は首を傾げて、夕飯をテーブルに並べました。

 薬草茶、香草を使った茎の煮物、それから木の実です。すべて森で採ったものばかりです。

 森から出られなくなって数年。出られない理由はもう覚えていません。

 人は来なくなっても森に住まう動物は魔女に優しく、魔女は退屈しません。



 窓の外を眺めると、雨が降りだしていました。

「いけない」

 外で乾燥させている薬草に雨がかかってしまいます。薬草がある軒下へ向かうと、薬草の平たい篭を重ねて、雨のかからない狭い倉庫へ移動させている青年の姿がありました。強く降る雨に構わず、魔女が家から出てきていることも気がついていません。

 倉庫の鍵は魔女が持っています。倉庫へ薬草を入れることは出来ません。薬草は雨が凌げる倉庫の軒下に積み上げられていっていました。

 雨の向きが変わってしまえば、濡れてしまいます。

 魔女が倉庫の入口を開けると、篭を運んできた青年が声をあげました。


「ごめん。勝手に」


 気まずい顔をする青年に魔女はお礼を言いました。

 青年が雨に気がついて、薬草を動かしてくれたおかげで、薬草に雨があまりかかっていなかったのです。

 雨は強く、地面を叩きます。

 のんびりしていられません。二人で薬草を倉庫へ入れていきます。

 全て避難させ終えると降りしきる雨の中、青年は魔女から遠ざかっていきます。

 この雨の中、森へ入っていこうとするのです。

 雨の日の森は晴れの日よりも歩きにくく、地面はぬかるんで、視界は悪いのです。

 魔女は青年を引き留めました。冷たい雨にあたって風邪をひかれては困ります。

 青年に暖炉の前で座ってもらい、暖かい薬草茶を作り始めます。

「懐かしい。また飲めるなんて、夢みたいだ」

 薬草茶を飲んだ青年は笑みをうかべ、飲みほしてしまいました。魔女は青年に薬草茶を作った覚えがありません。

 けれど、青年は魔女のことを覚えています。魔女は首をかしげました。

「このお茶だけは、どうしても教えてもらえなかったんだ」

 困った笑みを向ける青年に、魔女は断りました。薬草茶はどんなに頼まれても教えられません。

 薬草茶は魔女の気分でブレンドされたもの。まったく同じお茶はないのです。

 断り文句を考える魔女に、小さくも長いぐぅという音が聞こえました。

「貴方、お腹すいているの?」

 恥ずかしがる青年に、魔女は残った夕飯を出しました。青年は懐かしいといいながら、ペロリと食べてしまいます。

 質素な夕飯を美味しいと絶賛する青年。久しぶりに言われたような感覚がして魔女は心がほんのり温まりました。


 青年は雨に当たりすぎて、その夜に熱を出しました。

 幸い、魔女は熱下げの薬を調合したばかりでした。粉薬を青年に飲ませ、熱が下がるまで看病しました。青年が雨に当たってしまったのは魔女のせいなのだと、思っていたからです。


 青年の熱が下がり、体調が元に戻ると、魔女は青年を家から追い出そうとしました。家族でもない人と暮らしたことがないのです。

 どうしていいか判らないのです。いつもの自分じゃいられないのが、怖いのです。


 青年は寂しい顔をして出ていきました。魔女の気持ちを汲んで、出ていったのです。



 青年が出ていった家は静かで、家の中は大きく感じました。声が聞こえない。賑やかさのない家に、魔女は寂しくなったのです。


 魔女は青年を追いかけました。魔女の魔法がかかった境界線で立ち往生している青年を見つけました。

魔女はそこが魔法の境界線だと知りません。

「あの家で、一緒に住みませんか?」

青年の答えは、はい、でした。


 魔女は青年と暮らすことにしました。

 森から出られない魔女に、青年はとても優しいのです。薬を求めて村人が誰も来ない家で、青年は魔女を手伝います。


 魔女は青年の優しさに次第に心惹かれていることに気がつきました。

 この気持ちは気のせいと知らないふりをします。

 気がついてしまったら、青年と暮らせない。そんな気がしたのです。


 魔女の変化を青年は気づいていました。

 以前のように、魔女に振り向いてほしかったのです。その為ならなんだってやりました。

 ただ、魔女は青年を薬の調合する時だけ、近づかせませんでした。

 なくした記憶がそうさせているのかもしれません。

 青年が魔女に近づいた理由は、魔女の調合法を盗みとることでした。今は違います。魔女がなくした記憶を取り戻して、迷路と化した森を元の森に戻したいのです。

 森が戻れば魔女の元へ薬を求めて村人が来ます。

 青年は、青年が来る前に戻したいのです。これが、魔女にした仕返しの罪滅ぼしでした。


 魔女が青年に惹かれているのは、すぐにわかりました。けれど、隠そうとする魔女に、青年は強くでられません。

 魔女が以前のように、一歩踏み出してくれる機会を待つしかありません。


 青年が魔女の家を探していた理由を思い出したのです。


 “あのね、物語の中で悪い魔法使いの魔法を解くカギは、愛する人からのキスなんだよ”


 魔女の家を探す前に、魔女の家に来ていた少女がはにかみながら青年に教えてくれました。

 青年は、魔女がただ一度だけ使える魔法があることを知っていました。


 拒もうとする魔女の逃げ道をなくして、強引に青年は魔女にキスをしました。

 抵抗をしなくなった魔女に一度だけでは止まらず、もう一度、強くキスをすると、魔女の身体に変化がおきます。


 身体を白い光が包み、なにかが剥がれ落ちるように、白い光が魔女にかけられている魔法というベールを剥がしていきます。

 それは家の外でも起きていました。



 魔女の瞳が開いたとき。魔女は青年の名前を、呟きました。それはとても不思議そうに。


「私、魔法を使ったのに、どうして」


 戸惑う魔女に、青年は抱きつきます。

 魔女の記憶が戻ったのです。


「君がとても好きだよ。もう、離れたりしないから、一緒にいよう」


 驚く魔女に青年は愛を囁きました。

 やっと、言える喜びに涙が溢れてきます。

 魔女は戸惑いながら、青年の愛を受け止めます。青年に魔女も愛を囁きました。



 森と魔女にかかった魔法が解けた日から、魔女の住む森に、村人が入るようになりました。魔女の家の前に、薬を求めて長い列ができます。


 列の中に、青年に魔法の解き方を教えてくれた少女がいました。

 青年は少女にお礼を言いました。少女も青年にお礼を言いました。

「悪い魔法は解けたね」

 少女の喜びに青年は笑顔で答えます。

「君のおかげだよ」




 魔女の隣には寄り添うように、優しい青年がいます。

 森の小さな一軒家で、今も二人は仲睦まじく、暮らしています。

ここまで稚拙な文を読んで頂きありがとうございました。

魔女の恋はこれにておわりです。

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