思いがけない出来事
宿に着くと浮かない顔のカイと妙にスッキリした顔のルースミアが既に待っていた。
随分早かったみたいだけど、あまり情報得られなかったかな?
まぁ部屋に戻って話を聞こう。
「どうだった?」
「はい、申し訳有りません。
有益と言える情報は得られませんでした。
分かった事はスレイド様の人柄と貴族のような上流階級の方達とお会いになっていると言う話は一切ありませんでした」
うん、アルトリウスが言ってたのと同じだね。
しかし気になるのはルースミアだ。
「カイ、何かあった?でしょ」
「サハラ、我が暴れたせいだ。許せ」
はい⁉︎
暴れたってまさかドラゴンになった…はないな。
それなら今頃街は大騒ぎじゃ済まない。
「暴れたってどういう事?」
「うむ、我に喧嘩を売ってきた愚かな輩を叩きのめした。
案ずるな。殺してはいない」
えーっと…?
「情報屋のところへ行くためにスラム街へ向かったのですが、そこで私の不注意でスラムの方々を怒らせて「カイよ、違うだろう。
我がスラムで余計な事を口走ったため住人を怒らせたのだ」
なるほど、情報屋はスラム街にいたのか。
スラム街って言えば情報収集とイベント発生で使われやすい場所だけど、まさにそうなったわけね。
「サハラ様申し訳ございません」
「いや、別にいいんじゃない?
スラム街ってそんなとこでしょ。
それに大事にならなかっただけ良かったよ」
スラム街ってやっぱ怖いとこだね。
心配すべきは、これで多少なれルースミアとカイが目をつけられた可能性があるってところか。
「カイ、シーフギルドってやっぱりスラム街にあるのかな?」
「噂ですがスラム街と繁華街にあると言うのは耳にした事があります」
場合によっては街を出ないと狙われかねないな。
一応、悪い噂の無いスレイドの依頼を受けるのも手か。
「近々この街を出ると思う。
行き先は分からないけど、もしルースミアが殴ったのがシーフギルドの連中だったら目をつけられかねないからね」
カイが申し訳なさそうな顔をしている。
ルースミア?気にしてる様子は…無いね。
「まぁ目をつけられたらだから、気にしないでいいよ。
それよりもそろそろ酒場のほうへ行こう」
食堂兼酒場のほうへ3人で向かうと、チラホラとだけど客がいる。
レイチェルが席に着いた俺たちに気がつくと小走りに向かってきた。
「あーー!
サハラ、ねぇねぇ聞いたわ。
アルトリウスと模擬戦して勝ったんだってね。
圧勝?強いのね」
カイはそれを聞くと口をあんぐりと開けて俺を見ている。
酒場にいる他の客も俺を見てひそひそと話しだした。
もう広まってるのか。
サックリと話題を変えてやる。
「たまたまですよ。
ところでレイチェルさん、聞きたい事があるんですよ」
「ん?聞きたいこと?」
よし!
「実はスレイドさんという方から、護衛のような依頼を受けてくれないかと言われたんですよ。
それで俺も情報収集はしたんですけど、全く情報が得られなかったんです。
そこでレイチェルさんなら何か知らないかなと…」
「知ってるわよ?
ううん、私知らない!
父さま〜母さま〜」
慌ててキッチンへと戻ってしまった。
絶対知ってるな。
「サハラ様今の話…」
「うん、間違いないね」
「それでは本当にアルトリウス様に勝たれたのですね!凄いです!」
そっち⁉︎
そっか、そう言えば俺の報告はしてなかったもんな。
ルースミアもカイも聞いてこないから忘れてたよ。
そこで俺は2人に今日あったことを報告した。
「…という訳なんだ。
ところでカイ、そのソードマスターとかの基準とかってどうなってるの?」
はい、と言って目をキラキラさせたカイが説明する。
武器にはそれぞれ力量を測るだけの技術を持った、グランドマスターが存在していて、その人からおおよその力量を測ってもらうらしい。
おおよそで曖昧ではあるが、一応の目安になるため戦士達は腕を磨いて称号を得る努力をしている。
武器の扱いに熟知すればエキスパートと呼ばれ、達人級になればマスターとなる。
マスターまでは結構な数が存在していて、その上にあたるグランドマスターは、各武器に対して知られているだけで10人程と言われている。
大抵のグランドマスターは国の武器指導者などとして雇われ、そこで認定をしてくれているらしい。
また、エキスパートはマスターが認定できるが、エキスパートは自慢にもならない一人前の戦士といった程度だそうだ。
つまり俺は達人級の剣士2人に一撃も与えられることなく倒していることになるのか。
俺すげぇ。
いやチートすげぇ。
チラとルースミアを見ると何やらずっと黙ったまま考え込んでいた。
そんな話をしていると料理が運ばれてきた。
「お待たせしました」
運んできたのは珍しいことに店主だった。
「お客さん、今晩遅くなっちゃいますが酒場が落ち着いたらちょっと話を聞いてもらえませんかね?」
店主の顔が険しい。
う、さっきのレイチェルの事か?
店主を怒らせるような事は俺してないぞ。
食事を済ませ部屋に戻ろうとした時、ルースミアが俺を呼び止める。
「主、ちょっと顔を貸せ。
カイは部屋に先に戻っていろ」
えええええ!
ルースミアさん、俺なんかしました⁉︎
顔を貸せってどういう事?しかもサハラじゃなくて主だよ。
宿から外に連れ出されるとルースミアは俺に聞いてきた。
「気になる事があっただけだ、別に怯えるな。
杖術と言ったな、元々経験でもあるのか?」
おおお、絞められるんじゃないのか、よかった。実に喜ばしい。
じゃなかった。
「杖術なんて知識として知ってるだけだよ。
俺自身はこの世界に来るまで扱った事もない」
フムとルースミアが顎に手をやる。
「先ほどのカイの話を聞いた我の推測だが、賢人の腕輪で到達出来るのはおそらくマスターまでと思う。
しかし主はそのマスター2人を圧倒した。
となると思いつくのは主に杖術の天才があった、と考えられる」
「単に杖術がこっちでは知られてないからじゃないのかな?」
「それはない。
カイの話の限りでは、仮にもマスターが相手で打ちあう事なく叩きのめすなどあり得ないはずだ。
しかも2人ともだろう?
となると主は杖術のグランドマスターの腕前はあるのかもしれんな」
「でも俺、自分で分かって杖術使ってないよ?」
「そこが賢人の腕輪の力だ。
頭で理解していなくとも体が理解するのだ。
もし頭で理解したのならば、主自身が杖術を身につけていった事になる」
「そうなりたいね。
そうすれば腕輪を失ってもまだ何とかなりそうだからね」
そうだなとルースミアは言うと、そっと俺に口づけをした。
「⁉︎」
「さすが我が見込んだ男よ」
そう言うとルースミアは宿に戻っていった。
「ぬあああああ⁉︎」
俺の声は夜空にこだまする。
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