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星詠みの巫女と幸運の星  作者: 青柳朔
18/18

epilogue


 藍色の空に、すぅっと星が流れる。


 今頃は各地にいる(ほし)()(びと)が星の行く先を見つめていることだろう。

 僕の首から、袋に入ったシャートの星がぶら下がっている。少し重たいけれど、十年も持ち続けていると慣れたものだ。むしろ重みがないと落ちつかないくらいになっている。

「アルコル」

 名前を呼ばれて振り返ると、ラサラスがいた。無精ひげは相変わらずだ。少し白髪が交じり始めたのは苦労が多いせいか、年のせいか。

「今、星が落ちたね。少しすれば星待ち人から連絡が来るだろうから、それまでは待機かな」

「分かっているよ。すっかり慣れたもんだな、おまえも」

 にやりと笑いながらラサラスは答える。シャートの死後、僕は少しずつ行動を始めた。まずは、次代の巫女が成長するまで、どうやって効率的に星を探し、届けるか。一つでも多くの星を届けたかった。帰らずの星なんて、悲しいものを作りたくない。星は帰りたいと願うはずだし、その星を待つ人もいるのだから。

 そして僕は、星待ち人という仕事を提案した。各地の村や町などに待機して、夜通し星を見つめる人。もちろん交代制だ。僕がシャートの星を探したときのように、あちこちからの目撃情報を重ねれば、捜索範囲は絞ることができる。この方法で、巫女なしでもかなりの確率で星を見つけることができるようになった。

「アルコル!」

 星拾い人が集まる塔には不釣り合いな幼さの残る声に、僕は驚いた。母親に連れられた女の子がこちらに駆け寄ってくる――次代の星詠みの巫女だ。今夜から、役目をこなすことになっている。

「こんばんは。ハマル」

「こんばんは! 今日からよろしくお願いします」

 明るく挨拶をするハマルが、シャートの後を継ぐ。ハマルのお母さんがすぐに駆け寄ってきて、僕に頭を下げる。

「すみません、いつまで経っても落ちつきのない子で」

「いえ、そこがハマルの良いところですから」

 かしこまった姿に僕も困惑する。今まで星拾い人と星待ち人をまとめてきたせいか、島民は僕を見るとぺこぺこと頭を下げるのだ。まるで僕が星詠みの巫女になったみたいだ、とときどき苦笑する。

「アルコル、報告が」

「今行くよ」

 ラサラスの声に僕は振り返り、ハマルたちと離れた。

「もう少し報告が増えたら、探し始めていいかもしれないね。方角としては南かな」

 届けられた目撃情報をもとに、島の地図を広げながら範囲を絞る。


「……アルコル、星が」


 ラサラスが少し驚いたように呟いた。視線の先を追うと、僕の胸元から下がっている袋から光が漏れていた。シャートの星が光っている。

 ここ数日、冷たかったはずのシャートの星は、ときどきぬくもりを思い出したかのようにあたたかくなっていた。

「時間が、来たのかな」

 シャートの星に触れて、僕は笑う。

 ハマルは、以前の巫女に比べると力が弱いのだという。実際にさっき落ちた星も、場所が少し曖昧だった。巫女が役目をこなせるようになったら解散するかと思っていた星待ち人は、まだまだ必要らしい。

 星詠みの巫女は、以前よりもずっと人々に近くなった。ハマルの明るい性格のおかげでもあるし、星待ち人によって星詠みの巫女の神聖さが薄れていったということもある。巫女がいなくても、どうにかして星は見つけられる。そういった考えが島に広がってきていた。結果として、星詠みの巫女は塔に閉じこもった存在ではなくなり、ハマルも塔へ通ってくるだけで、生まれた村で生活している。家族と一緒に、暮らせるのだ。

 すっかり変わるには短い時間だ。けれど、少しずつ確かに島は変わってきた。


 とくんと、鼓動のようにシャートの星が揺れた。




 捜索範囲が決まると、僕はこっそりと塔から離れ、星屑草の群生地へやってきた。見送るのなら、やっぱりここが一番だろうと思ったのだ。

 シャートの星は、袋から出すと光が溢れた。あれから十年という長い月日を、共にいてくれた。だいじょうぶ、もう悲しいとは思わない。

 両手でそっと星を包み込んで、空へ掲げる。手のひらから重みが消えていき、夜空に吸い込まれるように星が浮かんだ。ふわり、ふわりと。あの時見た星屑草の種子のように飛んで、徐々に速度をあげて、遠くなっていく。

 遠くなっていくいとしい星へ、さようなら、と小さく呟いた。涙は流れない。僕はただ、空へと還る星の軌跡を見守りながら微笑んだ。


 シャート。君はまた、夜空で輝き出すんだね。


   


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