村の収穫祭準備でみんなと過ごす穏やかな一日。守るべきものが少しずつ増えていく予感がする件
収穫祭の準備が始まった。
村全体が活気づき、クラスメイトや大人たちも総出で広場を飾り付けたり、森から木材を運んだりしている。
俺はセシリアと一緒に、大きな木箱を運ぶ作業を手伝っていた。
「レインくん、重くない? 無理しないでね」
セシリアは汗を拭きながらも、俺の顔を気遣うように何度も声をかけてくる。
その優しさが心地よくて、俺は自然と口元が緩んだ。
「大丈夫だ。セシリアの方こそ足下気をつけろよ」
「大丈夫よ!だってレインくんが私の分まで持ってくれてるんだもの」
彼女は照れながらも嬉しそうに寄り添い、俺の隣を離れようとしない。
作業の合間に水を渡してきたり、休憩を勧めたりと、今日もぐいぐい寄り添ってくる。
少し離れた場所では、アルフレッドたちが木材を運んでいた。
先日の学校の一件以来、奴らとは妙な距離感が生まれていた。
アルフレッドが俺に気づき、軽く会釈のようなものを寄越してきた。
「…………」
俺も軽く頷き返す。
言葉は交わさないが、以前のような敵意は感じられなくなっていた。
♢
昼過ぎ、広場に簡単な食事が出された。
エレナが作った大きな鍋料理をみんなで囲む。
ルークとミアも走り回りながら参加し、村は笑い声で満ちていた。
セシリアは俺の隣に座り、器に取り分けた料理を差し出してきた。
「レインくん、これ食べて。今日の目玉だよ」
一口食べると、優しい味が広がった。
周囲の賑わいと、セシリアの笑顔を見ていると、自然と胸が温かくなる。
この世界には愛がある。夢がある。
俺が生きていた世界では感じられなかった、甘酸っぱい温かさ。
真っ赤なリンゴのように匂い。
ずっとここにいたい。その思いはいつしか強く、大きくなっていた。
(……セシリアだけを守ればいいと思っていたのに。この村の連中も、放っておけなくなってきたな)
♢
夕方近く、作業が一段落した頃、広場で小さな宴が始まった。
焚き火を囲み、歌を歌ったり、軽く酒を酌み交わしたり。
セシリアは俺の腕に軽く寄りかかり、満足そうに目を細めていた。
「レインくんとこうして過ごすの、すごく楽しい……みんなと一緒にいると、毎日が特別だね」
「……ああ。俺も、そう思う」
焚き火の揺らめく光の中で、セシリアの横顔が優しく輝いていた。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに——そう思わずにはいられなかった。
♢
地獄の最下層。
永劫の氷獄の奥で、魔王の声が響いた。
「ヴォルド」
黒い鎧に覆われた巨体が、ゆっくりと跪いた。
三本の角が生えた兜のような頭部を垂れ、背中に巨大な戦斧を携えた悪魔騎士ヴォルド。
「氷の封印が解けた貴様の配下で、誰が尖兵を務めるのか決まったか」
「はっ。我が配下の勇猛果敢な戦士が名乗りを上げました」
黒い影が蠢き、ヴォルドの配下の悪魔たちが動き始めた。




