次の日の歓喜
次に目を醒ますと外が眩しかった。
太陽が随分と高い。
「一体どれだけ寝ていたんだ?」
そういえば、試合の後、何も食べていなかったな。
俺は個室を出て、大広間に向かう。
大広間は酷く騒がしかった。
「あっ、ウエンさん!」とフレアが駆け寄ってきた。
手には新聞を持っていた。
「見てください、一面ですよ! 一面!! 一社だけじゃありません! どこも私たちのことを一面にしています!」
それは良かった。
どうやら、ここでもバゲッドに勝ったらしい。
それにしても…………
「君たち新聞を買い過ぎじゃないかい?」
見る限り何社もの新聞を複数、購入しているようだった。
「みんなが別々で買ってきたんです。気付いたら、こうなっちゃいました」
フレアは嬉しそうに言う。
「見てくれ。各社が伝説とか、三人目の魔術師の誕生とか、ファイターズが全ギルドに宣戦布告したと書いているぞ」
ヘテロも興奮気味だった。
「まったく、どこも芸がないね。もっと他の選手を一面に持って来て欲しいよ」
「安心してくれ。私たちのことも次の面に書いてある。注目しているところは各社で違うけどな。こっちは私のことを次に書いてくれている」
見出しには『変幻自在の陣形で翻弄』と書かれていた。
「こっちは私です!」
ヒューちゃんは自分の記事を見せてくれた。
見出しは『今季の一試合最高スコア更新』となっていた。
続く小見出しには、『火の魔術師スコアランキング最下位のヒューチーヤ覚醒』と書かれていた。
「私のことを扱っているのは一社だけだったよ」
オルフィンは不満そうに言うが、顔は笑っていた。
ギルドメンバーは昨日の戦いで疲れているはずだ。
それなのに熱く昨日の試合のことを語り合っていた。
「なんか、こういうの良いな」と俺が呟くとフレアが不思議そうだった。
「ホークスは勝って当然のギルドだった。だから、勝ってもメンバーは盛り上がらなかったんだよ」
「あまりはしゃぐな、って怒らないんですか?」
フレアが少し遠慮しながら言う。
「どうしてだい? 勝ったんだから、喜ばないとね。みんな、昨日は何も言えなくてすまなかった。俺の無茶に付き合ってくれたこと、心の底から感謝する。俺は君たちを優勝させる。君たちは俺を優勝させてくれ」
「当然です!」とフレアが言った。
他のメンバーもフレアの言葉に続いた。
ダブルアップ戦で勝ったので、1600ポイントしかなかった持ち点は4800ポイントまで増えた。
それでも、まだ五位のギルドにすら三倍以上のポイント差がある。
それにあんな宣言をしたのだから、他のギルドは俺たちを警戒するだろう。
しかし、それでいい。
全ギルドと民衆の注目は『ブレイブファイターズ』に集まる。
民衆が無関心だった最弱のギルドではなくなる。
「フレア、俺は正直、三連覇でギルドリーグはやり切ったと思っていたんだ。バゲッドに戦力外にされた時、何とも思わなかったのは多分、無関心になっていたからだと思う。君はそんな俺に新しい居場所と目的、それに楽しみ方を与えてくれた」
「目的と楽しみ方を提供した覚えはありませんけどね」とフレアは苦笑した。
確かにその通りだ。
「そっか、初めに会った時は優勝なんて望んでいなかったね」
「でも、今は本気で優勝するつもりですからね。ウエンさん、私たちに夢を見せた責任を取ってください」
「微力を尽くすよ。…………それにしてもバゲッドのことはどこにも書いてないね」
「そういえば…………あっ、でも記事は書いてありますよ」
フレアが見せてくれた記事は小さかった。
そこには『バゲッド司令官、体調不良の為、ギルドに辞任を申し入れる』
書かれていた記事はそれだけだった
ことが大きすぎるので、各社が慎重になっているということだろうか?
「まさか、辞任しただけで終わりなんてことないよな? だったら、あの時、殴っておけばよかった」
オルフィンが悔しがっていた。
「あなたは血の気が多いのよ。せっかく勝ったのにあなたが出場停止になったら、誰が風の魔導士部隊を率いるのよ」
中級指揮官が四人、いや、ヒューちゃんに指揮は無理だから、実質、三人だけ。この状況をどうにかしないとな。
試合で中級指揮官の数は重要だ。
中隊や小隊を作れないとどうしても柔軟性がない。
そういえば、昨日の試合でヘテロやオルフィン以外にも良い動きをしていた子たちがいたな。
次の試合までに各部隊の再編を考えないとね。
昨日、手痛い負けを喫したとはいえ『ヒーローホークス』はなお、100,000ポイント近くを持っている。
稼げるポイントには限界がある。
一度の試合で賭けられる上限は一万ポイントだ。
最終戦の『ヒーローホークス』までの4戦、最大効率で稼げるポイントはダブルアップしても94,400ポイント。(4800+9600+20000+20000+20000=74,400)
このままホークスが落ちてくれれば、楽になる。
しかし、バゲッドがいなくなって、ホークスは強くなるかもしれない。
ミュセルがこのまま終わるとは思えない。
ホークスが復活したら、最終戦でもダブルアップ戦を仕掛けないと勝てないかもしれない。
とても厳しい戦いが続く。
一つだけ、天運が味方しているとすれば、残りの五戦が下位のギルドからになっていることだろう。
全ての試合で昨日の宣言通り、ダブルアップ戦が行える。
しかし、各ギルドは昨日の試合のデータを確認して、こちらの長所を潰せる地形、布陣を敷いてくるだろう。
「ウエンさん、どうして笑っているんですか?」
「一勝したとはいえ、残りのは僅か五戦。中々、優勝までの道のりは厳しいと思ってね」
「えっと、その場合は難しい顔になりませんか?」
フレアは苦笑する。
「だからこそ、面白いんだよ。劣勢こそ、一番楽しむべきだ。…………さて、みんな、今日は休憩だけど、明日からは次の『ブルーウェーブパイレーツ』戦の準備に取り掛かるよ。今回は先に宣言しておくけど、またポイント全賭けのダブルアップだ」
悲鳴や怒号ははなかった。
「やってやる!」「もちろんだ!」「ダブルアップ!」「倍プッシュ!」
活気のある声が聞こえて来た。
さて、本当の伝説を作ろうか。
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