ホークスの司令官の正体
シークはニッコリと笑った。
俺とミュセルが視線を合わせる。
シークがこんな風に笑うのは大抵、相手を虐める時だ。
「最初に質問します。あなたの名前は何ですか?」
「何を言っている、私の名前はバゲッ…………」
「あっ、そういうのはいいですから。本当の名前を教えてください」
本当の名前?
一体どういうことだ?
「さ、さっきから何を言っている?」
バゲッドは明らかに動揺していた。
「私、暇になったので勉強も兼ねて、あなたの出身の大陸のギルドリーグを見に行ったんですよね」
それを聞いたバゲッドは青ざめる。
「レベルが高くて、とても勉強になりましたわ。それに私としても元上司がどんな戦績だったのかが、気になって、調べたのです。凄いですね。二十代半ばで中級指揮官になってからは最優秀選手二回、司令官になってからは三度の優勝、名将と言うべき戦績です」
「そ、そうだろ、その実績があったから、私はこのホークスに誘われたんだ」
「誘われた? 私の記憶だと、売り込んできた気がしますけど? まぁ、それは良いです。では、なぜこんな愚将なんでしょうか?」
シークはさらっと毒を吐いた。
バゲッドの顔が真っ赤になった。
「それはこの大陸のレベルが低いからだ! 基本も知らない連中相手をしなければ、いけない。だから、私のように優秀な人間が負けるんだ!」
それを聞くとシークは腹を抱えて笑い出した。
「な、なんだ!?」
「あなた、面白いですね。コメディアンになった方が良いじゃないんですか?」
「おい、話が進まない。早くしろ」
バゲッドを馬鹿にすることが楽しくなってきていたシークに、ミュセルが釘を差す。
「ごめんなさいね。…………さて、本題と行きましょうか。私はバゲッド司令官の成績の詳細を調べたんですよ。見事な内容でした。名勝負と言われるものも数えきれないほどありました。それで疑問に思ってしまったんです」
バゲッドは額に大粒の汗が光っていた。
「同じ人間がこんなにも変わってしまうのか、と」
なるほどそういうことか。
話が見えて来た。
「私は滞在期間を延長して、調べたんですよ。そして、バゲッド司令官の元ギルドメンバーと会うことが出来ました。で、その人に聞いたんですけど、バゲッド司令官はすでに引退して故郷で家族と静かに暮らしているそうですよ?」
「そ、それこそ出鱈目だ!」とバゲッドと名乗る男が言う。
「まだ認めませんか? アンドリューさん?」
アンドリュー?
その名前を聞いた瞬間、バゲッドの顔が白くなった。
「私、バゲッド司令官の元仲間の人に事情を説明して、直接、バゲッド司令官に会うことが出来たんですよね。で、あなたの采配の特徴や言動、使える魔法を説明したら、アンドリューという男の情報を貰えました」
「なんだと…………?」
「バゲッドさんからあなたのことを良く覚えていましたよ。だって、本物のバゲッドさんが司令官時代にあなたは参謀長をしていたんですよね? 定石を重視して、独創性には欠けるが手堅い作戦立案をしてくれた、とあなたのことを評価していましたよ。ただし、こうも言っていました。奇策には弱く、自分の思い通りにならないことがあると周りのせいにし、定石に固執してしまう。作戦を立案・提案する立場、参謀には適性があるが、自分で判断する立場、中級指揮官や総司令官には向かないだろう、と」
「そ、そんなの出鱈目だ! お前の妄想だ!」
シークは紙の束を取り出す。
そこにはアンドリューが顔を変え、名前や経歴を詐称した証拠やアンドリューの戦績などがまとめられていた。
「まぁ、信憑性には欠けるわよね。だから、私がこれを送った新聞社はどこもまだ公表していないんでしょうね。裏付けがきちんと取れてから、記事にしたいでしょうから」
「新聞社に送っただと?」
「可能な限りの新聞社にこれと同じ内容の文書を送ってあるわ。それが十日ぐらい前だったかしらね。新聞社は裏付けをとって、いつが一番のこの記事を出すのに良いかを考えているんじゃないかしら? 新聞社は困るでしょうね。 ウエンの伝説とあなたの不祥事、明日の一面にどっちを持ってこようか、迷うわよ」
アンドリューは何かを言おうとするが、声が出ないようだった。
眼球が驚くほど不規則に動き、口から泡を吐く。
そして、気絶してしまった。
「あらら、もう少し遊びたかったのに残念」
シークは猟奇的な笑いを浮かべる。
俺とミュセルは苦笑していたが、フレアたちは引いていた。
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