第20話 唯花さん、どうしたらイチャイチャを我慢できますか!?
全校集会で密着しているところを三上会長にバッチリ見られてしまった後のこと。
放課後、教室で俺と優愛は机に突っ伏し、いまだに悶絶していた。
「あ~~っ」
「あ~~っ」
ちなみに俺たちの席は隣同士。
学校公認カップルが並んで悶絶していて、クラスメートたちは休み時間の度に『まあまあ、いいんじゃない?』的に声を掛けてくれたけど、さすがに放課後ともなると、みんな『じゃあお先にー』という感じで帰ってしまった。
もう誰もいなくなってしまったので、さすがにこれ以上、2人で落ち込んでいられない。この先も落ち込んでいたら、きっと教室内にブラックホールができてしまう。
「……優愛。優愛、しっかりして。生きてる?」
「ムリ。わたしのHPはもうゼロよ……」
「そんな如月先輩みたいなこと言ってないで。さあ、なんとか起き上がろう」
そう言い、俺はどうにか机に突っ伏していた状態から復旧する。
ちなみに如月先輩というのは三上会長の彼女さんである。
で、俺が起き上がったのを見て、優愛もどうにか顔を上げた。
「うぅ、このわたしが全校生徒の前で三上会長に注意されるなんて……」
「あ、悶絶ポイント、そこなんだ」
「そうよ。わたし、今年中に生徒会長になるんだから。こんな失点をしてる場合じゃないわ」
俺たちはまだ一年生だけど、優愛はこの一年で生徒会長に昇りつめる、とお父さんと約束している。それが留学を取りやめる条件だったからだ。
ただ、生徒会長を目指してるのは俺も同様なので、優愛の懸念は他人事じゃない。
「なにか対策をしなきゃいけないね」
「そうね……」
優愛は自分の体をかき抱くようにし、思案顔になる。
「正直、今のわたしたち、ちょっと浮かれポンチMAX状態になっちゃってると思う」
「また如月先輩みたいな物言いだけど……うん、異存はない」
チラッと優愛が視線を向けてくる。
「真広といると、わたし……自分が抑えられない」
「俺も……。三上会長の言う通り、生徒会役員になるんだからもうちょっと自重しなきゃいけないのにね……」
「そうよね……」
「うん……」
想いはお互いに同じだ。
朝も母さんに叱られたばかりだし、俺たちはもう少し自重すべきだ。
ただ、こうして同じ想いだと思いながら見つめ合うと……。
「優愛……」
ついつい俺は手を伸ばしてしまった。
「……ん」
嬉しいことに優愛も手を伸ばしてくれた。
隣同士の机の間のちょっとした通路。
そこで俺たちは指先を絡め合う。
それだけのことが舞い上がってしまうくらい嬉しい。
ただ――。
「こ、これがダメなんだよね!?」
「なんでこんなに抑えられないのかしら!?」
ハッと我に返り、俺と優愛はまた反省。
手を繋いだまま、二人一緒に肩を落とす。
うん、やっぱりムリだ。
たぶんこの問題は俺たち2人だけじゃ解決できない。
「……しょうがない。こうなったら最後の手段を使おう」
「最後の手段? 真広、なにか名案でもあるの?」
首をかしげる優愛へ、俺は重々しくうなづく。
「ある」
それは俺が初めて生徒会と関わった、すべての始まりとも言えるもの。
いまだにその詳細はよく分からないけど、この学校の生徒はそこに手紙を送ると、生徒会がなんでも解決してくれるという。
「優愛」
俺は極めて真剣な顔で言う。
「『めやすばこー!』だ!」
………………。
…………。
……。
「にゃーるほど、お困りの状況は理解したのです!」
ところ変わって、ここは生徒会室。
部屋奥には生徒会長の執務机があり、その正面には来客用のソファーが二台、向かい合わせで置いてある。
向かいのソファーで大きくうなづいたのは、長い黒髪がきれいな絶世の美少女。
如月唯花先輩。
優愛もすさまじい美少女だけど、如月先輩はまた別ベクトルで途方もない美少女である。
そんな美少女レベルがカンストした生徒会室で、如月先輩はダンボールで出来たポストのようなものを膝に置いていた。
ポストの前面には勢い重視な字で『めやすばこー!』と書かれている。
用途は目安箱で、ここに投書すると、生徒会がお悩みを解決してくれるというシステムらしい。
なので今回は満を持して、俺と優愛で手紙を入れさせてもらった。
まあ、如月先輩とは普通に顔見知りなので、直接相談すればいいのだけど、今回はちょっと事情があったので、こういう形にさせてもらった。
「会長さんを差し置いてあたしをご指名とは、ゆーちゃんもまーきゅんもお目が高いったらないね!」
如月先輩は嬉しそうに胸を張る。
そうなのだ。
普段は主に解決役は三上会長なのだけど、今日はあえて如月先輩へのお願いとして投書させてもらった。
理由は優愛が三上会長をライバル視しているから。
たぶん、素直に頼りたくはないだろうと思って、こういう形を取らせてもらった。
「安心して。会長さんには『30分は帰って来ちゃダメだからね!』ってお小遣い渡して購買に揚げパン買いにいかせてるから。ゆっくり相談してくれていいよー」
「さすが唯花さん! 三上会長をパシリみたいに使うなんて尊敬します……!」
「ふふーん、でしょでしょ? ゆーちゃんはわかってるねー。愛い奴め~」
瞳をキラキラさせる、優愛。
さらに胸を張ってふんぞり返る、如月先輩。
ちなみに優愛は如月先輩に心酔している。
家族以外で初めて優愛に『なんかよく分からないけど、この人すごい! なんかよく分からないけど!』と思わせたのが如月先輩らしい。
確かにあの三上会長をパシリ扱いできるとことか、よく分からないけどとにかくすごい。
「それで如月先輩、相談の件なんですが……」
「ん、分かってるよー。つまりゆーちゃんとまーきゅんは――」
にこっと笑って言い切る、如月先輩。
「24時間イチャイチャしたくて我慢できなくなっちゃってる、ってことだよねー?」
「「う……っ」」
そうなのだけど、他人様からあらためて言葉にされると、かなり来るものがあった。確かにこれは浮かれポンチMAXだ……。
「うんうん、わかるわかる。あたしたちもそういう時期あったし」
「唯花さんたちもですか?」
「そうそう。若い頃っていうのはそういうもんなんだよ」
「そっかぁ、そういうものなんですね……」
如月先輩の言葉に素直に感嘆する、優愛。
……ん、いやでもちょっと待って。
三上会長と如月先輩こそ、いつもイチャイチャしてるような気がするんだけど……あれ? ひょっとして相談する相手、間違えた?
と、俺によぎった一抹の不安をよそに優愛が勢いよく身を乗り出す。
「唯花さん、どうしたらイチャイチャを我慢できますか!?」
その切実な問いかけに如月先輩は大仰にうなづいた。
「よろしおす。教えてしんぜましょー」
次の瞬間、キリッとした顔で堂々と宣言。
「ずばり! 我慢とかしない!」
「我慢とか!?」
「しない!?」
これには優愛だけでなく、俺も度肝を抜かれた。
後輩たちが驚くなか、如月先輩は黒髪をかき上げて颯爽と立ち上がる。
「逆に考えるのです、ゆーちゃん&まーきゅん。『イチャイチャしちゃってもいいさ』って考えるのです!」
「で、でも唯花さん……っ」
「それなんの解決にもなってない気が……」
「もちろんのこと!」
俺のツッコミ兼指摘を華麗にスルーし、如月先輩はこれまた颯爽とポーズをつける。
「いきなり気持ちを変えるのが難しいってことは先刻承知。とくに乙女なゆーちゃんは恥ずかしがっちゃうことも多いかもしれない。でも安心して? そんな乙女たちのために生徒会室には伝説の装備があるの」
伝説の装備……?
俺と優愛は意味が分からず目を瞬く。
すると如月先輩はやおらソファーの下に手を差し入れた。
え、と思った矢先、取り出されたのは『ゆいか箱』とマジックで書かれた、大きなダンボール箱だった。
優愛が大きく目を見開く。
「え、なんですかその箱? 生徒会室にそんな箱があるなんて、わたし知らなかったんですけど……?」
「くくく、ゆえに伝説の装備なのだよ、ゆーちゃん」
なんか嫌な予感がした。
よく分からないけど、とにかく嫌な予感がした。
しかし止める間もなく、如月先輩が勢いよく何かを取り出した。
「じゃじゃーんっ!」
それは――。
ぴこぴこしているネコ耳。
くるんっと弧を描いたネコしっぽ。
大きな鈴がついたチョーカー。
そして、びっくりするぐらい大きな肉球の手袋。
ネコになれる、コスプレグッズだった。
完全に理解の外側過ぎて、俺と優愛は開いた口が塞がらない。
しかし如月先輩はまったく意に介さず、ドヤ顔で恐るべき指令を下してきた。
「さあ、ゆーちゃん! これを装備して、まーきゅんにらぶらぶアタックするのです!」
「「ええーっ!?」」
このネコのコスプレを……優愛が装備する!?
え、それで解決するの?
しないよね?
するビジョンが見えないし!
ダメだ、意味が分からない!
助けて三上会長ーっ!
俺は心のなかで悲鳴を上げた。
しかしこういう時の如月先輩は止められない。
「ま、真広……」
「優愛……」
俺たちは顔を引きつらせ、
「さあさあ、どうぞー! お着替えの時間だよー!」
ニッコニコな如月先輩にひたすら戦慄した。
次回更新:明日
次話タイトル:『第21話 ネコミミ優愛にゃんは甘えたい』




