403 王都のギルド
「このあたりが、カロルス様のお家でしょ? うわーこうして見ると、王都って本当に広いね!」
「ホントだね~! どこから見に行こうか~? あ、でもまずギルド行かなきゃいけないかな~」
オレたちはベッドでゴロゴロしつつ、額を突き合わせて、王都の案内図を眺めていた。こうして見ると、やっぱり買い物は黄色の街だね! 冒険者ギルドも黄色の街にあるので、明日はひとまず黄色の街でギルド周辺の散策だ!
「ねえ、オレ、お城も見に行きたいなあ!」
「でも、俺たちだけで行けねえだろ? 俺だってあんま近くで見た覚えはねえなあ」
お城は白の街の一番奥にあるので、平民がおいそれとは行きづらいそう。もちろん、行けないわけではないのだけど、門番のいる、白の街の門をくぐって行くのは心理的なハードルが高いらしい。
「僕も見に行きたいな~! 白の街にいるんだから、この機会に行きたいね~!」
「カロルス様たちと一緒に行ったらどうかな? それならきっと、近くで見ても怒られないよ」
『むしろ城の中まで招かれてしまいそうね~』
それはマズイ! お城の中は見てみたいけれど、何か粗相があったら打ち首! なんてことになりそうだもの。カロルス様たちと行くのはやめておこうかな。
まずはギルドでしょ、あとは周辺のこのお店は行きたい、お昼ご飯は……なんて考えていると、ゆさゆさと体を揺すられた。ハッと顔を上げて、自分が案内図の上に突っ伏していたことに気がついた。
「あれ……オレ寝てた?」
「いつも通りだな! ほら、ベッドなんだからそのまま寝ちまえよ」
ぼふっと顔に押しつけられた枕を抱え、二人の間でころりと横になった。二人はまだ熱心に案内図を覗き込んで楽しそうだ。
「ユータ、疲れてるんだよ~、寝た方がいいよ~」
一人だけ寝るのはつまらないと一生懸命目を擦っていると、オレの半分になった目を見てラキが苦笑し、ぽんぽんと胸元を叩いた。柔らかなベッドは、ラキの動きに伴ってオレの体を揺らした。
「あー、でも確かに疲れたよな! ずっと馬車だったしさ!」
どさっ! と反転して天井を向いたタクトが、頭の後ろで手を組んで、ニッと笑った。間近で沈み込んだマットレスに、オレの体が少し跳ねた。どんなに揺れても動じず閉じていくまぶたに、オレは必死で眠くない体を装っていた。
「そう……だねぇ、馬車でね、お馬さんの耳が……白黒なのはいい、と思うよ」
「……ユータ、もうなに言ってるか分かんないよ~」
爆笑するタクトと、オレに布団をかけて寝かしつけようとするラキ。二人を遠くの方に感じながら、もう一度何か言ったはずだけど、それはもうオレ自身にも聞こえなかった。
「っはよー!」
ばあんと勢いよく開いた扉の音に、寝ぼけ眼で飛び上がった。
何事かと思う間もなく、間近にどすんとなにかが落ちて、オレの体がぽーんと跳ね上がった。
「うわあっ?!」
ひっくり返ってベッドから放り出され、思わず目をつむった。
床に落ちる前にガクンと空中で掴まえられ、足がぶらんぶらんと揺れる。そっと目を開けると、タクトがにかっと笑った。
「よ、起きた?」
「お、起きた? じゃないよー!! 心臓に悪い!!」
ドッドッと早鐘を打つ胸を押さえて、詰めていた息を吐くと、目をぱちぱちさせた。無理矢理覚醒させられた頭が、なんだかふらふらする。
「だって、お前中々起きないだろ! もったいねえぞ!」
「起きるよ! 次は普通に起こして!」
下ろしてもらうと、むすっとへの字口で寝間着を直した。
「自分で起きるつもりはないんだ~?」
後ろでラキがくすくすと笑った。どうやらタクトと一緒に入って来ていたらしい。
ち、違うよ、起きるつもりは、もちろんあるよ! でも、きっと自分で起きるより、タクトたちの方が早いから、効率がいいでしょう?
『自分で、ってあなた、自分では起きないでしょ?』
――ラピスが起こしてあげるの!
『主ぃ! 俺様に任せるんだな!』
最も起きない組が高らかに名乗りを上げたのを見て、やれやれと苦笑した。
『やれやれじゃないのよ……』
『スオー、起こす?』
えーと、できたらモモに起こしてもらう方が良いかな! 蘇芳はねえ……案外起こし方が乱暴なんだよね。
寝起きの頭はほやほやと頼りなく、オレはベッドへ腰掛け、まずはほうっと一息つく。
「ほらほら! ユータ早くしろって」
今度は急かすタクトにシェイクされそうになって、慌てて寝間着を脱ぎ始めた。
セデス兄さんのお古の寝間着は、当初あんなに裾を折って着ていたのに、今やひとつも折らずに着られる。ちょっといい気分で着替えて振り返ると、タクトが小さな寝間着に袖を通していた。びっくりするくらい短い袖と小さな身頃で、片袖も通せていない。……何その小さな寝間着。
「ちっちぇえ~~! お前、この間まで俺と同じくらいだったのにな!」
なんで小さくなったんだ? と言わんばかりの無垢な瞳に、思わずラキにしがみついた。
「ラキ~~!! タクトが! タクトがぁ~!!」
どうしてこの世界の人はこんなに成長が早いの?! やっぱり、危険が多いからだろうか。多分、この世界の平均成長曲線は、ぐっと左に寄っている。
「――でも、成長が早くたって、ゴールが同じなら一緒だから!」
ぐっと拳を握って顔を上げたオレに、ラキが何の話? と呆れた顔をした。
『――でも、平均身長の最高到達点もずっと上の気がするわよ』
……それは大丈夫、だって同じものを食べてるし、オレだって日本と同じってことはないよ、きっと。
一通りカロルス様やエリーシャ様に挨拶すると、まだ昇り始めたばかりのお日様の元へ飛び出した。
「いちいち馬車に乗るの面倒だな!」
「乗らなかったらもっと面倒だよ~」
「今日ギルドでシロのお披露目したら、次からシロに乗って行けるんじゃない?」
ひとまず馬車はオレたちだけだったので、おにぎりを頬ばりながら窓に張り付いていた。貴族ばかりの街で、冒険者の格好をしているのも気が引けると思ったけれど、貴族が冒険者に依頼をすることも多いので、さほど珍しい光景でもなさそうだ。
「冒険者ギルド、やっぱり大きいのかな?」
「大きいぜ! 俺も外しか見たことねえけど、でっかかったと思う! なんか怖かったんだよな、あの頃は」
あの頃って言うけど、タクトだってほんの2,3年前の話で――うん、紛れもなく幼児だもんな。オレの感覚とは全く違うはずだ。
再び昨日の広場に到着すると、てくてくとギルドへと向かった。
どうしてか、段々早足になってしまうのを止められない。
「おい、なんで走るんだよ!」
「タクトこそ!」
「そんな急がなくても~」
結局、ギルドについた頃には息を切らす羽目になっていた。
「ふう、ここだよね!」
「そうだね~、どうして走ってきたの~」
ぐいぐい引っ張ってきたラキが、オレたちに恨めしげな視線をやった。
「よっしゃ! 行くぜ!」
ハイカリクのギルドの3倍はありそうなギルドは、縦にも大きくて、多分二階以上あるんだろう。それとも、この大きな扉は大きな従魔も通れるようにっていう配慮だろうか。
普通の子どもには開けられないだろう分厚く巨大な扉に手を掛けると、軋む音と共に、カランカランと結構派手な音が鳴った。
そっと覗き込んだオレの上からタクトが覗き、その上からラキが覗いた。お団子のように連なった3人の頭が、きょろきょろと周囲を見回した。
「うわあ……」
「広いな!」
「結構きれいなんだ~!」
ギルドの中は、想像とちょっと違った。臭くてむさくて酒場の親戚みたいな雰囲気を想像していたのだけど、やっぱり王都だからだろうか、洗練された、とまではいかないけれど、意外と整頓されて物が少なく、こざっぱりしていた。1階は通常のギルド、中二階になった部分にはカフェかバーのようなお店があった。
「入らないの?」
くすくすと笑う声に飛び上がって振り返ると、小柄な女の子が腰に手を当て首を傾げていた。
早い所では今日から4巻が店頭に並んでると思います!
もしPOPを見かけたら教えて下さいね!
そうそう、ツギクルさんで面白いプレゼント企画されているのでぜひご覧下さい!戸部先生のイラストがお好きな方はぜひ!
ちょっとバタバタしてますので更新不定期になると思います…!すみません!!
せめて、と閑話の方を更新してたりしますので合わせてご覧下さい!
 






 https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
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