404 いつかの兄妹
「あ、ごめんなさい」
明らかに邪魔になっているオレたちは、慌てて扉から離れた。
「ギルドに用事? 怖いかな? 一緒に……」
日本で言えば中学生くらいだろうか? 背が低いので子どもだと思ったけれど、もう十分な淑女のようだ。彼女はクスクス笑いながらオレたちを見て、ハッと目を見張った。
「え? まさか……?」
ジッと注がれる視線は、どうもオレに向いているような。そう思って首を傾げると、どうも既視感がある気がしてくる。あれ? 会ったことあるかな? 見覚えがあるようなないような……?
「ユータ、ちゃん……? うそ……でも全然変わってないもの、間違いないわ! どうして王都に?!」
きゃあ、と頬を紅潮させた彼女が、オレの手を取ってしゃがみ込んだ。首を傾げるオレに、もどかしげに詰め寄る。
「ミーナ! 覚えてない? ありがとう、ありがとうね! お兄ちゃん、元気だよ! 声が――話せるようになったんだよ!! 碌にお礼も言えなくて――!!」
ミーナと名乗った彼女は、ぼろぼろと泣き出してオレを抱きしめた。
『ユータ、あの子の匂いだよ! 子どもがいっぱい攫われた時。ルーが助けに来てくれた時の!』
困惑したオレは、シロの助け船に目を見張った。もしかして、ミックの妹のミーナ? どうして王都に?
オレを抱いて泣くミーナをなだめすかして、みんなでギルドの椅子に座ると、落ち着きを取り戻したミーナは、少し恥ずかしそうにごめんね、と笑った。
「――それでね、ギルドの手配で王都の親戚の所へ来たのよ。ちゃんと働いてるんだから! お兄ちゃんなんて凄いのよ! あれから、すごくすごく頑張ったの。もう死んじゃうんじゃないかってくらい頑張ったの」
ミーナは誇らしげに胸を張った。ミーナも、頑張ったのだろう。あの時はまだ子どもだったのに、漂う雰囲気が大人に変わりつつある彼女を見て、目を細めた。
そっか、良かった。二人をヤクス村に招待しようと思っていたのに、子どもたちはそれぞれ身寄りを見つけて引き取られていったようで、残ったのは数名だった。
「それで、ユータちゃんはどうしたの? どうして王都にいるの? 私、幻を見たかと思っちゃった」
「オレはカロルス様たちの用事で来たんだよ。二人はオレの冒険者仲間なんだ! オレも頑張ってるんだよ!」
「そうなの! そりゃあそうよね、ユータちゃんめちゃくちゃだったもの、きっと有名になるわ」
ミーナは眩しそうに笑った。笑うミーナをじっと見つめて、ふわりと微笑む。あの時のことを思い出しても笑えるんだね。良かった、と安心すると同時に、この世界の子どもはなんて強いんだろうと思った。
「それで、ミーナさんは何か用事~?」
「あ、いけない。私はお使いできたのよ。ちょっと待ってね、文字は……大丈夫ね?」
俄に慌てだしたミーナは、懐から取り出した紙に何か書き付けると、オレに渡した。
「今日はゆっくりできないけど、必ず訪ねてきてね、必ず、必ずよ?! お兄ちゃんに会わなきゃだめよ?」
肩までの髪を翻してカウンターで用事をすませると、ミーナはもう一度絶対来てねと念を押してギルドから出ていった。
「ユータ、王都にも知り合いがいるんだね~」
「オレもビックリしたよ! こんなとこで会うなんて」
ミックは、どうしてるだろうか。やせっぽっちの軽い体を思い出して、少し胸が痛んだ。ミーナみたいに、健康的な体になっているだろうか。
「さ、俺たちも用事すませようぜ!」
「うん!」
扉に揺れる大きなベルを見つめて、少し感慨にふけっていたオレは、大きく頷いて椅子から飛び降りた。
ミーナは素敵な女性になっていたから、ミックもきっと素敵に成長しているよね。もしかしたら、大きくなったオレを見て誰か分からないかもしれない。そう思ってくすっと笑った。
『え、でもさっきの姉さん、主見て全然変わってないって――』
チュー助の小さな呟きは、聞こえなかったことにした。
「うーん、あんまり大きな額にならなかったね」
「素材の買い取りだけだもの、十分だけどね~」
「やっぱ討伐だな! 見たことねえ魔物とかもきっといるんだぜ!」
道中での成果を精算してきたけれど、思ったほどいいお値段にはならなかった。そりゃあ、毎日王都に来る人たちがいるんだから、方々から道中の素材って集まるもんね。
「無駄使いしてたらすぐになくなっちゃいそうだね」
なんせ、通りを埋め尽くすお店には、魅力的な物がありすぎる。
「そうだね~、カロルス様たちには本当に感謝しなきゃ~!」
「宿代大きいもんな! 安いとこに泊まったら、俺らきっと毎日トラブルだぜ!」
稼げば稼ぐほど、悪い輩には目を付けられるもの、こんな小さな成りでは悪者ホイホイになってしまうだろう。
――何回か派手にやっつけたらいいの! 街が半分消えるくらいやれば、たぶんもう来なくなるの。
良い方法があるよ、と言わんばかりのラピスを、引きつった顔で撫でた。絶対やめてね? オレ、人間社会に住めなくなっちゃうから。
ギルドでは、こっちでしばらく活動する旨を申請しておいた。各地を移動する冒険者は、こうやって活動拠点での申請を行うらしい。オレたちはまだまだだけど、そうするとギルドからの依頼や命令なんかも出されるそうだ。
『ぼく、もう出てもいいの?』
シロや召喚獣のことも申請済みなので、これからは街中をシロと一緒に歩くことも可能なはずだ。
「いきなりはビックリすると思うから、もうちょっと様子見てからにしようか」
「ビックリはお前だけどな!」
タクトがにやっと笑った。申請するとき、やっぱりオレが一番驚かれる。まず幼いってこと、そして登録職業の多さだ。ものすごく不審な顔をされるけれど、ちゃんとハイカリクで登録されているので一応受理してもらうことができた。証拠は、これから見せていけばいいもんね!
「タクトだって、魔法剣で驚かれるよ!」
「当ったり前だろ! 俺は有名になるんだからな!」
タクトはふふんと胸を張った。今回もラキに止められて、召喚士と記載するのは諦めたようだ。エビビ、タクトの役にはたってるけど、他人の役にはたたないもんね……。
「じゃあ、次行くよ~!」
ギルドでの用事をすませたら、生き生きするラキの先導で通りを歩いた。今日は観光する日って決めたから、依頼を受けるのはまた今度だ。だけど、ギルドまで距離があるから、朝一の依頼争奪戦に参加するには随分と早起きが必要だろうなぁ。全く起きるつもりもなく、オレはふわりとあくびした。
「ほら見て~きれいだね~! こんな所に無駄な装飾があるよ~! すごいね、装飾がなくても使用に問題ないのに、敢えてこんな美しい模様があるんだよ~? それってヒトがヒトである証拠だと思わない~?」
……ラキ、ちょっと恥ずかしい。一人でマシンガントークを繰り出すラキを引っ張って、オレたちは赤い顔をした。
オレたちにとっては、ただのきれいな町並みも、加工師にとれば様々な技術がふんだんに盛り込まれた最先端の展示物になるらしい。だけど、時に伸び上がって塀をなで回し、時にしゃがみ込んで側溝を覗き込む姿は、ただの変な人だ。
「素材の店行っていいからよ……それやめようぜ……」
「ほんと~?!」
膝を払って立ち上がったラキが、にっこりと笑った。これは長くなりそうだ……オレたちはこっそりとため息をついて、意気揚々と歩き出すラキを追いかけた。
もふしら4巻、電子書籍も同時発売だったのですが、Amazonさんのkindleストア、ライトノベルランキングで1位になった瞬間があったらしく……?そんな瞬間があったなら見たかった…(そんなランキングがあることも知らず…)






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/