317 プレゼント
「その、俺マリーちゃんにプレゼントなんて持ってきてみま……」
「いりません」
ガクゥ……
崩れ落ちた哀れなアッゼさん……取り付く島もないとはこのことだ。マリーさんはきっとドラゴンクラスの強敵だね。
「お、おいおい……せめて受け取ってやれよ。あんな目に合いつつ、何度も会いに来る根性はすげえと思うぞ。軽そうなのは見た目だけじゃねえか」
うるうるした瞳で、バッと振り返ったアッゼさん。
「か、カロルスぅ~お前っていいやつじゃん!俺、ちょっと見直しちゃったぜ」
「その言動もねえ、軽そうなのがいけないのじゃないかしら……」
呆れ気味のエリーシャ様が、やれやれと紅茶を手にとった。突っ立ったままだったオレは、アッゼさんにもソファーを勧めて隣へ腰かける。
「ねえ、プレゼントって何?見せて!」
「お、おう……ほらよ」
何気なく収納魔法を使うのは、さすが魔族ってとこだろうか。空間から取り出されたきれいな箱は、思ったより大きくて重かった。
「……重っ…。これ、何?」
プレゼントって言うからにはアクセサリーかなって思ったんだけど。
「まあ……開けてみてのお楽しみってな」
アッゼさんは片肘をついて、ちょっぴりやけっぱち気味にへらっと笑った。せっかく用意したんだもの、渡したいよね。
直接渡したかったろうけど、マリーさんは意地っ張りみたいだから……。
ぽん、とソファーから飛び降りると、両手で大きな箱を差し出した。
「マリーさん、プレゼントだって!うれしいね!どーぞ、開けてみて?」
「まあ!」
にこーっと満面の笑みで差し出すと、マリーさんがでれっと笑み崩れて受け取ってくれた。
「……はっ?!」
ふふふ……今頃我に返ってももう遅い!プレゼントはちゃんとその手の中にある。
してやったりとソファーに戻ったオレに、アッゼさんが渾身の『グッジョブ!!』を見せた。
「ねえねえ、開けてみて!」
「ユータ様ったら……もう、仕方ないですねぇ」
ぱたぱたと足を揺らして、期待に満ちた視線を送るオレに、マリーさんは苦笑して箱を開いた。
「うわぁ……僕もたいがいアウトって言われるけど、それはないんじゃないかな……」
「いや、まあ……あいつにはいいんじゃねえか?」
マリーさんがひょいっと箱から取り出したものに、オレはぽかんと口を開けた。
「……まあ……これは」
「その、マリーちゃんあの時もつけてたろ?それ、いいんじゃねえかと思ってさ」
鈍く光るそれは、ずっしりと重そうで。あしらわれた宝石は、決して装飾のためではないとよくわかった。
オレは、思わずそわそわする隣の男を凝視した。あのさ、あれが意中の女性へのプレゼントで合ってるの?
「あら、マリーに似合いそうじゃない!もらっておきなさい、いいものじゃないの」
「エリーシャ様……」
当のマリーさんは、ちょっぴり上気した頬で困った顔をした。どう見ても『プレゼントが思ったより嬉しいもので投げ捨てられなくて困っている』様子だ。
「へへ、結構攻撃力高いんだぜ?魔石には俺直々の増幅効果入ってるからさ、ヒトには真似できねえシロモノってわけ。間違っても俺に使わないでくれな?マジで死ぬから」
オレはどこか少しだけ進展した風の二人を交互に見やった。そして納得できない気分で、大切そうに抱えられたガントレットを見つめた。
いいの?マリーさんそれでいいの?すごく強そうなガントレットだけど……それで喜んじゃっていいんだ。
「ふう……お似合いの二人ということで、いいんじゃないでしょうか」
執事さんが、なんだか疲れた様子でため息をついた。
「いやー、ちび……ユータだっけ?助かったぜ!お前にでっかい借りができちまったな」
あの後、マリーさんはちょっぴり悔しそうな顔をしつつ、いそいそと退室してしまった。
オレはそろそろ学校に帰ろうかな、なんて思っていたんだけど、隣からの『俺を置いていくなよ?!』圧力がすごかったので、ひとまずアッゼさんを連れて厨房にやってきた。
「でも、アッゼさん次来た時にあれ使われちゃったら危ないんじゃないの?」
「……使わないでくれるといいなぁ。割とマジで」
まあ今だってガントレットつけて戦闘してはいないんだから、大丈夫だと思うけど。
―ラピスなら、もらったら使いたくなるの!
…………大丈夫だといいね。
話しながらも作業は止めずに、手早くクッキー生地を完成させた。カカオが見つからないので、何とかっていう芋の粉らしい茶色いパウダーを混ぜ込んだ生地と、プレーン生地を作ったら、いろんな形を組み合わせながら棒状にまとめる。
「それでお前、何作ってんだ?器用だな」
「オレ、帰ろうと思ってたのにアッゼさんが引き留めるから……今作ってるのは普通のクッキーだよ」
「当たり前じゃねえ?!お前、狼の群れにウサギさん放り込んで立ち去ろうとするわけ?!」
ウサギさんとはなかなか図々しいんじゃないの?アッゼさんだっておそらくAランク程度の実力者だと思うのだけど。
よし、うまくできてくれますように!最後に、棒状にひとまとめにした生地をキンと冷やして、固くする。
「……何気なく魔法使うのな……お前、将来怖えぇな」
「あ、アッゼさん魔族って魔法が得意なんでしょ?オレにも教えてほしいな」
言いつつ目は離さず慎重に、まっすぐ包丁を入れると、1センチ程度の厚さの輪切りにする。どれどれ……。
輪切りの生地をつまみあげると、アッゼさんもひょいと背をかがめて、オレの手元をのぞき込んだ。
「おおお?!なんだそれ?!すっげーな!!」
すぐそばであげられた大声に、耳がキーンとなった。でも、知らずに見ると確かに面白いよね!大はしゃぎするアッゼさんに苦笑しつつ、トントンと残りの生地も輪切りにして鉄板に並べた。鉄板の上にはにこっと笑ったお顔がいっぱいだ。クッキー生地を組み合わせて、金太郎あめみたいにして作るんだよ。
「はい、あとは焼くだけ!」
窯の調整は管狐と料理人さんにお任せして、オレはエプロンを脱いだ。
「アッゼさんは魔族の国に帰るの?」
「んー俺は転移でちゃっと帰れるからな。今はせっかくだからこっちにいるぜ!マリーちゃんのガードがちょっと緩んだ、今がチャンスだろ?!」
「アッゼさんの転移は遠くまで行けるんだね」
スモークさんが短距離転移なのは、純粋な魔族じゃないからなのかな?でも、人間にも転移できる人はいるって話だったなあ。
「当たり前よ、アッゼ様の転移は一級品だぜ?」
ニッ!と得意げに笑った顔は、どうやら魔族の中でも上級クラスであることをうかがわせた。
「オレもね、転移できるんだけど、アッゼさんみたいに瞬間的にはできないの」
「はあ?!お前、転移もできんの?!できりゃ十分じゃねえか……」
生意気!とオレの両頬をつぶした手を除けて、さらに聞いてみる。
「どうやったらそんな風にできるか教えて!」
「どうって言われてもなぁ……できるやつはできるし、できねえ奴はどんだけやってもできねえよ。パッとやってシュッとする感じで――」
……だめだ。カロルス様に輪をかけて説明できない人だ。ただ、話を聞いていると、どうやらこの瞬間的な転移は生まれ持っての才能がいるらしい。魔族は魔法と非常に相性が良くて、そういったいろんな「魔」の素質をもった人がいるそうな。
「お前だってそうだろが。『魔』の素質アリアリじゃねえ?魔族って言われたって信じられるぜ!すげえ魔力量だろ?もしかしてその目、透かして見たら紫なんじゃねえ?」
なるほど、黒い瞳も薄めれば紫に見えないことも……でも、魔族さんの紫の瞳は、瞳孔が縦になってるけどね。
「きゅう!」
「あ、できたみたい」
管狐部隊の焼き担当班は優秀だ。オレは、ふよっと飛んできたウリスにお礼を言って立ち上がった。
「……俺はその管狐にツッコミを入れた方がいいか?」
アッゼさんにどこか納得いかないジットリ目を向けられながら、よいしょと窯を開けた。
アッゼ:管狐がいるんだけど……フツーにペットですって雰囲気でいるんですけど。
モモ:ゆうたは相手が同種の人間じゃなければばれてもいいって思ってるわよね……
いよいよ明日!漫画版の2話目が公開されますよ!!
カロルス様が素敵なので!見てください!!好きー!!






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