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210 ユータの作戦

ユータ、暗躍する(笑)

『えーと、だからそのー、主は完璧な作戦のもと、囮として潜入を開始したわけでー。』

ラピスのしっぽを抱きしめながら、チュー助はしどろもどろに事情を説明する。何せ目の前には一番怖い人…。その冷たいグレーの瞳は、目を合わせるだけで息の根が止まってしまいそうな光を宿している。

「…だから、その場所を言いなさいと言っているのです。闇ギルドは丁寧にすり潰したつもりですが…悪人そのものを消し去ることはできませんね…」

あなたの方がよっぽど悪人ぽい、とチュー助は思う。口に出さなかったのは成長の証だろうか。

「きゅきゅ!」

『ラピスもそれは言えないって…今は。だってユータがそう望んでるんだから…って』

「いくらユータがそれを望んでも…あいつはまだ子どもだ。以前あんな辛い目にあったんだぞ?…またそんな思いをさせるなど…やはり見過ごせん」

「きゅうきゅ!」

『え…それ俺様が言うの?』

「きゅっ!」

『…えっと…ラピスだってイヤだけどガマンしてる!だからちゃんとガマンして待つの!ユータのやりたいことを邪魔するのは、許さないの!…ってラピスが!ラピスが!!』

ますます小さくなるチュー助。

「話は聞かせて貰ったわ!」

ばーんと扉を開いたのは、エリーシャとマリー。

「げ…まだまとまってねえのに…ややこしいのが…」

「何よ!自分たちだけで進めようったってそうはいかないわ!」

「いや、お前らがまたぶっ倒れる(か、暴走する)んじゃないかと思ってある程度まとめてから話そうと…」

「ちょっと、みんなで何騒いでるの~?」

セデスも駆けつけ、結局、これで館の主要メンバーは全員執務室に集合となった。

「はあ…仕方ねえ。端的に言うとだな、ハイカリクで最近また子どもの誘拐が多数発生していて、たまたまユータがそれを知っちまったんだ。でも手掛かりがないらしくてな…あの野郎、こともあろうに勝手に囮になりやがったんだ!」

「ええー!!前に同じ街で攫われたのに…どうしてそんなことができるの…。ユータ、あんな見た目なのに肝っ玉だけは人一倍すわってるよね…でもさ、ユータ転移できるようになったんだから、確かに囮役としては誰より適任だよね…シールドも使えるし、そんじょそこらの悪人ごときなら大丈夫じゃないの?」

心配半分、呆れ半分のセデス。

「しかし…まだあんな幼子だぞ?」

「ユータちゃんは、確かにまだあんなに小さくて可愛くてキレイで優しくて素直で愛らしくて食べちゃいたいくらいだけれど、既に冒険者として活動もしているのよ?私たちも冒険者になるのは認めて、お祝いしてあげたじゃない?それなのに、私たちが心配だからって行動を縛るのは、間違ってるのじゃないかしら…?」

マリー以外の全員がエリーシャを二度見する。え?どういうこと?これ、エリーシャ??

普段のエリーシャとは別人の台詞に、呆気にとられる中で、マリーも進み出る。

「そうです…あまりに心配で心配で心配で、脳が焼き切れてはらわたがねじ切れて周囲を更地にしたくなりますけど、いつまでも私たちが助けようとするのは、ユータ様の信頼を裏切ることになります。私たちを信頼して、きちんと報告してくださったのに、今手を出してしまえば、ユータ様は今後は秘密裏に事を進めようとされるでしょう。」

ばばっ!と今度はエリーシャ以外の全員の視線が驚愕に満ちてマリーを見つめた。一体…何が起こったというのか…。二人は、まるで悟りきった聖母のように静かな表情で、皆を見返した。

「(ど…どういうことだ…?一体何が…?)」

「(分かりません…!催眠にかけられた形跡もありませんし…)」

「(心配のしすぎでおかしくなっちゃったのかな?!)」

こそこそと円陣になって話す3人。どう考えても普段の言動とかけ離れて…いや前半の台詞は普段通りだったかもしれないが…。



オレが酒場に行ったのは朝で、そこからお昼寝したから…今は昼前ぐらいだろうか?ガタゴト揺れる馬車は、一定の速度で進み続けている。

『この馬車はどこまで行くの?』

『わからない。1日1回のごはんが3回分だから…そのぐらい遠く。』

うーん、少なくともヤクス村よりずっと遠く…ロクサレン方面ならそれだけ進むと海に突き当たるから、オレの知っている土地ではなさそうだ。それにしても1日1食はお腹空くな…食糧は収納にいっぱいあるから困らないけど…ただ、ミックにどこまでオレのことをバラしていいものか悩ましい。もし、『紋付き』だったら命令に逆らえないだろうし。

『ねえ、ミックはどうしてここで働いてるの?』

『好きでいるんじゃない、俺も捕まったんだ。』

『じゃあ、ここから出たい?』

『当たり前だ!逃げられるんならとっくにそうしてる!…でも…妹が…』

妹…?あまり言いたくなさそうだったけど、ここは聞いておかないといけない。


どうやらミックは妹と一緒に攫われて、妹だけ価値ありとして組織内に連れて行かれたそうだ…。ミックは価値なしと判断されたものの、妹の無事を確かめたくて…あわよくば助け出したい一心で下働きをしているだけで、紋付きではないようだ。組織内に連れて行かれるってことは、人身売買の類いではないのかな…闇ギルドみたいな組織の構成員にされるのだろうか?

『その、価値ってなあに?』

『多分…魔力、だと思う。俺にはなかったけど、妹は魔力があったんだ。』

魔力…?魔法を使って何か…悪いことをしようとしてるんだろうか?それとも単に魔力もちは価値があるってだけだろうか?価値があると判断されたなら、きっと妹も無事だろう…オレが潜入しなきゃいけない理由が、また増えたね。


ガコン、ガタン…

馬のいななきと共に、馬車が止まって前へ転がっていきそうになった。

『あ…たぶん、食事の時間』

扉の前で、目に見えてそわそわし出したミック。そりゃあお腹すいてるだろうな、食べ盛りの時期に1日1食、きっと粗末な食事なんだろうし…。案の定、鍵のかかった扉が少し開いて押しつけられた食事は、少量の保存食。

オレの方にも投げ込まれたそれは、いつか見た、固めた雑穀みたいなもの。ミックは必死にかじりついているけど、そうそう歯が立つものではない。

彼が紋付きでないなら、とりあえずは収納袋ってことにして、一緒にごはんを食べよう。料理はできないから、たいしたものはないんだけど…。収納袋として言い訳出来るよう、オレの収納にはいろんなサイズの袋が入れてある。ポケットに入るくらいのサイズを選んで出しておいた。


『ミック、ナイショだよ…これ、一緒に食べよう。』

『!!』

ミックは、ひったくるようにオレの手からサンドウィッチを奪うと、部屋の隅まで行って油断なく頬ばりはじめた。動物めいたそのしぐさに、オレの胸がずきりとする。

『大丈夫、まだあるよ。一緒に食べようね。』

そっとミックに近づくと、少し距離を開けて座り込んだ。やせっぽっちのミックのために、大きなサンドウィッチを5つほど出して、にっこり笑った。


『お前…なんでこんな食べ物を…?どうやって…』

『おなかいっぱい?オレ収納袋持ってるの。また一緒に食べようね。』

どうしても今食わないと、と思ったのか、大きなサンドウィッチを3つ食べて苦しそうなミック。それでも視線はサンドウィッチに向いている。

『大丈夫、オレの収納袋は腐らないから、また後で出せばいいからね。』

ミックはそれこそ、天使でも見るかのような瞳でオレを見た。ねえ、ここを出たら美味しいものたくさん食べようね。君は働けるんだから、ヤクス村に住めば良いよ。妹と一緒にお弁当持って、湖に遊びに行こうね。

腹がくちくなって、幸せそうにうとうとしだしたミックをそっと横たえる。随分と軽い体…ミックが攫われてからどのくらい経ったのだろう?何もないのでせめてとズタ袋をかけてあげた。


「じゃあ、ラピス少しの間お願い。すぐに戻ってくるようにするから、何か変化があったら教えてね」

「きゅ!」

言い置いてふわっと転移した先は、ロクサレン家。執務室は避けて、エリーシャ様のお部屋へ。

「あらっユータちゃーん!帰ってたのね!」

「そうなの、でもね、ナイショのお話があって…えっと…マリーさーん。」

ぎゅうっとされつつ、あくまで小さな声でマリーさんの名前を呟く。

ばんっ!

「ユータ様っ!お呼びですか!?」

嬉々として現われたマリーさん。しいっと唇に手を当てて静かに、と伝え、そっと扉を閉めると、真剣な顔で二人の手を取った。

「あのね、二人を信じて先にお話ししようと思って…まだ、カロルス様たちに言ってないから、静かに聞いてね?」


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