211 アジトへ
―ユータ、さすがなの。うまくいきそうなの。
ラピスは戸惑う面々を見つめて安堵した。その後ろではチュー助がホッとして座り込んでいる。
「お、お前…どうしたんだよ?何があったんだ?!」
「別に、何もないわよ?真にユータちゃんのためになるのは何かってことに目覚めただけよ。」
すました顔でのたまうエリーシャに、疑惑の視線が集まる。
「…そう言えば、ユータが攫われたのっていつ?昨日、ユータ来てなかった?マリーさんが神速で廊下を駆け抜けていった気がするけど。」
ぎくり…。
「も、もう…仕方ないわね。そう、昨日ユータちゃんが私たちの所にこっそり来てたのよ。後でみんなにも伝えるけど、私たちが心配するだろうからって、先に、直接、私たちだけに、伝えに来てくれたのよ!」
言いたくてたまらなかったエリーシャは、得意げに胸を張った。
「そうです!私たちを信頼して、任されたのです。このようにすぐ転移で帰ることができるので心配いらないと」
マリーは嬉しげに自身を抱きしめた。
「(そういうことかよ…あの野郎~!知恵をつけやがって!)」
「(先手をとられてしまいましたね…さすがはユータ様です…)」
「(でもまあ、確かにユータはもう冒険者として認められてるし、実力もあるんだから、無闇に手を出すばっかりじゃなくて、ある程度の見守りも必要じゃない?危険に対する察知能力も鍛えなきゃ危ないよ。転移があれば大抵のことからは逃げられると思うし)」
何にせよ、最も反対するであろう二人が賛成している以上、下手に動くことはできないだろう。必要な時に動けるよう準備だけは怠らず、ロクサレンは『待ち』の姿勢をとることとなった。
カロルス様たちは、なんとか手を出さずに見守ってくれる方針をとってくれるようだ。戻ってきたラピスたちの報告を聞いて、ホッと一息ついた。なんとかエリーシャ様たちを説得できて良かった…。勝手なことをして心配かけるけど、今回はオレが行くのが一番確実だもの…ごめんね。
それにしても、今はどのあたりなんだろう?二日目の朝、どうやら街道を外れて進み出したらしく、馬車は激しく揺れる。ラピスに尋ねても草木ばかりでめぼしいものはないようだ。
『ここから、ずっとガタガタする。……明日には、着く…』
『アジトはどんな所なの?』
『わからない…俺、アジトに入ったことないから。でも…入ったら出てこられない…俺、どうしたら…お前も、妹も助けたいのに。』
悔しそうに俯いたミックは、関節が白くなるほど拳を握りしめていた。
『…大丈夫、あのね…実はオレ、わざと捕まったの。他の子を助けたくて…だから、心配しないで!オレ、小さいけどちゃんと冒険者なんだよ!オレが潜入するために、自分でアジトに行くんだから、ミックは気にしないで!』
ミックは大きく目を見開いて、馬鹿なことを言うなと…苦しげに微笑んだ。
3日目の午後、特に変わらない道程の中で、ミックが俯く時間がどんどん長くなってきた。思い悩む彼が、下手な行動をしないよう、もう少し安心させないと危険かも知れない。
『ねえミック、そんなに考え込まないで?オレね、本当に大丈夫なんだ。結構戦えるし、強い召喚獣がいるんだよ。見せてあげる…ビックリしないでね?…シロ。』
『こんにちは!ぼく、シロだよ!』
「!!?」
声なき悲鳴をあげて尻餅をついたミックが、壁際まで後ずさった。
『すごいでしょう?オレ、この子と、シールドを張れる召喚獣がいるんだ。強い魔法を使う子もいるし、ね?大丈夫でしょ?』
『ユータはぼくが守るから大丈夫!ミックの匂いも覚えたよ!助けにくるからね!』
ミックの見開いた目からは、次々と涙の粒が溢れてきた。
『そんなこと…そんなこと言うなよ!お…お前が…戻ってくるかもって…助けがくるかもって…思っちまうじゃないか!』
『…うん、助けは来るよ。ちゃんと、待ってて?…あのね、オレの冒険者パーティは、「希望の光」って言うんだよ。オレはこんなちっちゃな光だけど、ちゃんと大きな希望を連れてくるからね。』
オレが助けるとは言えない。でも、例えオレが失敗しても、カロルス様やギルドの人達に伝えるからね…彼らは失敗しないよ、助けは必ず来るから、大丈夫。
オレはしばらくの間、ミックの頭をぎゅっと抱き込んで、背中を撫でていた。
ガタン、と馬車が止まった。
ミックの背中が、ビクッと震える。
『大丈夫、オレ、行ってくるよ。』
間近に彼の揺れる瞳を捉えて、オレはにっこりと笑った。
扉の近くに立って振り返ると、どうすることもできず、への字口をするミックに手を振る。ガチャリ、と開錠の音と共に眩しい光が差し込んで、オレは思わず目を閉じた。
途端に馬車から引っ張り出され、ちらりと男の姿を認めたかと思うと、あっという間に頭に袋をかぶせられて後ろ手に縛られていた。すごい早業…ゴツイ人だったけど、案外ラッピングとか得意なのかもしれない。
「ほう…確かにAだ。いいだろう、1匹で許してやろう。」
ぐいっとオレの胸元に何か押し当てると、男はそう言った。
―ユータを魔道具で調べたの。それで偉そうな人が馬車の人に何か渡したら、喜んでどこか行ったの。
どこかへ行ってまた人攫いをされたら困る。ラピス部隊を見張りにつけて、ギルドの人に捕まえて貰おう。A判定…もしかして魔力を調べる魔道具とかあるのだろうか?街でも何か道具を使ってオレに目を付けたのかな?
「気持ち悪りぃぐらい大人しいガキだ…弱ってんのか?」
男はブツブツ言いながらオレの首根っこを掴むと、引きずるようにどこかへ連れて行く。
―周りは何もないの。草と木と岩。建物もないの。
建物がない…?さすがに不思議に思っていたら、急に周囲が暗くなってひんやりした。そして、どんどんと下っていく。
―洞窟の入り口が隠してあったの。ダンジョンじゃないけど…どんどん地下に行くの。
ダンジョンと普通の洞窟は何が違うんだろう?不思議に思いつつ、男に身を任せる形で楽ちんに進んでいたら、突然ぽいっと手を離された。
『乱暴ね!』
モモがシールドで柔らかく受け止めてくれたけど、痛がるふりをしておこう。
「ここまで来れば逃げられねえだろ。とっとと歩け!」
かぶせられていた袋がバサッと外されて、大きく深呼吸する。冷たくしっとりした空気が、随分淀んでいるように感じた。周囲はおそらく天然の洞窟なのだろう、真っ暗な中、灯りは男の持つ魔道具だけ。こんな足場の悪い所を、縛られたまま歩けなんてヒドイ話だ。少なくとも他の子にとっては…。
「くそっ…待ちやがれ!」
「はやく!」
ふふん、ささやかな仕返しだよ!図体の大きな男は、決して広くないゴツゴツした岩だらけの道を、汗みずくになって追ってくる。逃げてるわけじゃないと示すために、時々立ち止まっては待ってあげなくちゃいけない。
「この野郎が…勝手に行くんじゃねえ!」
殴りつけようとする手を、足を取られた風にしてかわす。
「だって、とっととあるけって言った」
ぷいっと前を向くと、再びひょいひょいと岩場を乗り越えていく。灯りの魔道具の範囲は結構狭い。あっという間にオレの姿を見失って、必死になって追ってくる男。
しばらく進むと、洞窟の雰囲気が変わった。
『ここからは人工的に掘り進めたのね…こんな規模の隠蔽と作業をするなんて…随分な組織じゃないの?ユータ、そろそろ助けを呼びましょう。』
「うん…準備もいるし、ここに来るまでに大分時間かかるもんね。でも…組織の規模とか、ここの設備を確認しないと、助けに来た人達が危ないよ」
人工的な洞窟と言うべきか、トンネルと言うべきか…狭い通路を歩いて行くと、頑丈そうなドアがあった。後ろ手にドアを押したり引いたりしてみたけど、当然ながら鍵がかかっているようだ。
「…誰だ?」
オレがガチャガチャしているのに気付いて、ドアの向こう側から声がした。ここは、ピザの配達でーすとかやりたいけど、きっと笑ってくれないだろう。
「おれ、ゆーた。こども。」
「はあ?何ふざけてやがる…」
ギギ、と開いた扉からは、これまたいかつい男が顔を覗かせた。
「……」
「……」
オレのはるか頭上に向いていた視線が、不思議そうにして、ふと足下のオレに気付いた。ビクッとした男が、驚愕の面持ちでじーっとオレを見つめる。きょとんとしたオレも、じーっと見つめる。
「はあっはあっ!くっそ!!この、野郎がっ!!」
後ろから顎を上げた男が追いついてきた。
「このっ…!!てめ…驚かせんじゃねえよ!!ガキだけなんで先に来てんだよ!!心臓に悪いわ!!」
「はあ、ふう…なに、言って…やがる…」
「こ、こんな暗い中に子どもが一人で黙って立ってんだぞ?!心臓止まるかと思ったわ!!!」
あ、そっか。ここ、真っ暗だったね…後ろ暗いところがありすぎる男には、かなりの恐怖体験だったようだ…存分に怖がったらいいと思う。
ユータの脳裏には、とげとげファッションの半裸モヒカン男が、小指を立ててリボンを結んでいる姿がよぎった…
更新後に追記すみません!
もふしら表紙がついに登場しましたよ!!すっごくかわいいんですー!!
ぜひご覧くださいね~!
https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/







