1074 ユータの役目
高速シロ車ならでは、数日の距離を当然ながら踏破して、ここからは山道に入る。
何気なく山中へ足を踏み入れようとしたのだけど、あっと言う間に魔物に囲まれてしまって、慌ててみんなをシロ車の上に戻した。
魔物が増えていると聞いてはいたけど、中々多い。
「任せて! みんなはしっかり余力を残していて!」
そう宣言して、両の短剣を抜く。嬉々として剣を抜いたタクトと、シロ車から降りる気のないラキ。
ちら、とみんなへ視線をやって、怯えの色がないことに安堵した。大丈夫、どうやらウチのクラスは本物だ。さすがのドラゴン世代、この時点で草原の牙を越えているかもしれない。
ややドン引きの視線は解せないけれど。
「お待たせ! じゃあ、行こっか」
一通り魔物を片付けて振り返って、苦笑する。
「なんだか、すごい大所帯になっちゃったね」
ぞろぞろ下りてくるのは、クラスメイトほぼ全員。
だって、みんな行くって言うんだもの。
「おかしいんだよ……お前らさ。こんな強い冒険者見たことないんだけど……」
「だろ?!」
ブツブツ言う彼らに、タクトが満面の笑みを向けた。
オレはそれ、微妙に褒められてないオーラを感じるんだけど。
あれから、まずオレたちはギルドに直行して彼らの情報を確認した。
クラスメイトの聞いた依頼と、受注していた依頼も一致する。特に問題もなく出立したようだし、急ぎオレたちも向かった次第だ。
まるで遠足のような雰囲気の中、ラキが顎に手を当てる。
「順調なら、4日ほどで帰る予定だよね~?」
「すっげえ順調な場合だからな?! 馬車で往復3日だぞ?!」
彼らが受けていたのは、植物採取の依頼。植物フェチと、植物好きの集まったパーティらしい依頼だ。
ダンジョンでもない場所なら、一日あったら十分では、と思ったけれど、賢明にも口をつぐんでおく。
「なら、1週間なら確かにおかしいって言うには早ぇえよなあ」
「だよな……先走りすぎかな」
タクトの呟きに、言い出しっぺのクラスメイトが、少し項垂れる。
「え、別にいいんじゃね? みんなで自主訓練みてえでさ! ちょっと様子見に行って、大丈夫なら適当に討伐して帰ろうぜ!」
お気軽に笑うタクトに、気の抜けた笑みが返された。
「自主訓練か! 良さそうだね」
にっこり笑ったオレに、ラキがそっと呟いた。
「『ユータ懲役』に処される~?」
「違いますけど?!」
やめて?! ビクっとしないで?! 今回、そういう目的でもないし!
というか、何でそのフレーズで当たり前のように恐々とした目をされるの?!
そんな和気あいあいとした道中、クラスメイトの順調な戦闘も確認しつつ目的地へたどり着いた。
さあ行こう、と特に気負いもなく足を踏み出そうとして、ラキとタクトが複雑な顔で足を止めていることに気が付いた。
「どうしたの?」
いたって普通の場所だと思うけれど……何か気にかかることがあったろうか。
二人がそんなだから、歩き出していたクラスメイトたちが不安げに振り返る。
顔を見合わせた二人が、オレを見た。
「どうする?」
「これは……マズイよねえ~」
サッと持ち上げられて、こそこそ顔を寄せ合う。あの、こういう場合二人が屈むのが普通じゃない?
「な、なに? 何がマズいの?!」
振り返って、ぽかりと口を開けた洞窟を確認する。道中にも採取ポイントはあったのだけど、彼らはいなかった。残るポイントは、この洞窟のみ。
オレには、普通の洞窟に見える。真剣な顔をする二人を交互に見比べた。
「ユータがいて、洞窟がある。つまり……」
「豊富な経験が、また積み上がってしまうよね~」
うん??
咄嗟に意味が分からず、首を傾げる。
『そうね……由々しき事態だわ』
『主だけが生き埋まるのはともかく、この大所帯は危険なんだぜ!』
うんうん両肩で頷くモモとチュー助に、ハッとする。そ、そういうこと?!
「そんな毎回毎回崩れるわけないでしょう! オレが入っても崩れてない洞窟もあるよ!」
『スオー、その時点でアウトだと思う』
『フツーは、崩れない』
そうなんだけど! でも、別にオレのせいで崩れたわけじゃないんですけど?!
思案気な二人に馬鹿馬鹿しくなって、頬を膨らませた。
「大丈夫! だったら今回は、最初から洞窟が崩れないようオレが気を配るから!」
「まあ……崩れても対策があればいいわけだしな」
「みんなの生き埋め体験にもいいかもしれないしね~」
そんな体験、絶対いらないと思う!
「問題ないから! 行くよ!」
こちらを窺っていたクラスメイトに力強くそう宣言して、オレは足音も荒く洞窟へと足を踏み入れた。
ひんやり冷えた洞窟内に、たくさんの足音が響く。
「もっと人がいるかと思ったのに……」
誰かの呟きに、確かに、と首を傾げた。
ここらに固有の魔法植物は、どちらかというと日の当たらない魔素の豊富な場所を好むので、山中よりも洞窟内に生えている。だから、それ目当ての人はそれなりにいるはず。
魔物にしても採取にしても、洞窟は一般人にはリスクが高いから、もっぱら冒険者の稼ぎ所なんだけど。
「全然会わないね~」
「けど、べつに魔物も多いってほどじゃねえし」
2人も首を傾げて戦闘を眺めた。
洞窟はある意味四方から狙われないので、戦いやすい側面もある。
ここならオレたちが背後を守れるので、Dランクが前に立ち、クラスメイトが戦闘を担当している。
なんせオレたちの数が多いので、魔物が足りるかな、と思うくらいで――
「お、多い、と思うわよっ?!」
「お前ら、いつもどこで戦闘してんだよ!!」
……そうでもなかったらしい。
「まあなー。なんか俺ら、やたら大量の魔物と戦ってるよな」
「普通は魔物一体に対し複数人、が基本なんだよね~」
そう、なのか……。
とは言え、危なげない戦闘はさすがのドラゴン世代。
時折ラキとタクトのフォローが入りつつも、順調に進んでいる。
オレはと言えば、ひたすら壁に手をついて、油断なく洞窟の動向を見守るという……
「馬鹿みたいじゃない?! これ!」
ついにそう口にしたオレは、物理的に支えているかのような手を放して地団太を踏んだ。
なんで、みんなが戦闘している傍ら、一人壁と見つめ合っている必要があるのか。
石橋を叩いて渡るにもほどがある!
「気を配るんだろ?」
「こっちは大丈夫だから、専念してよ~」
「何に専念?! おかしいでしょう!」
ぷりぷりしながら、ならば、と魔力を高めて再び壁に手をついた。
じわり、しみ込ませるように広げた、オレの魔力。
結構な無駄使い……ではあるけれど。
「時々こうしておけば、もし、二人が言うようなことが、万が一、仮にも起こったとして、対処しやすいから!」
『ますますリスクが上がった気がするわ……』
『主ぃ、そういうのを、ふらぐって言うんだぜ!』
やめて?! もうそれ以上言わないで?!
オレは、心持ちしっかりと、魔力を通したのだった。






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