1070 メルヘン
ふふ、とついつい笑みが漏れる。
さて、どんな顔をしてくれるだろうか。
小箱を胸に、秘密基地へと転移した。
ラピスをお使いに出してあるから、きっと文字通り飛んでくるに違いない。
うずうずして小箱の中を覗いたとき、ぽんっとラピスが帰って来て、慌てて蓋を閉じた。
「ラピス、ありがとう。チル爺たちは来られそうだった?」
――もちろんなの。ラピスのお誘いなの。
天狐を祀る妖精さんたちからすると、もはや強制イベントに違いない。
で、でも、来て損はないから!
『きたー!』
『ひさしぶりー? さいきんぶりー?』
『どうしたのー?』
ややあって、賑やかな声と共に3つの光球が飛び込んできた。
オレの周囲をくるくる回る妖精トリオに、満面の笑みを浮かべる。
「ふふふ! 今日はね、とっておきがあるんだ!」
自信満々にそう宣言すると、いっせいに光が明滅し始めた。
『おやつー!』
『おいしいものー!』
『食べたーい』
わっと詰め寄られて、大慌てで首を振った。
「あーっと、待って待って?! そうじゃなくってね?! 今日は、食べ物じゃなくて!」
しまった。オレと言えば食べ物だと刷り込まれている。
途端、しゅんと元気のなくなった妖精トリオに苦笑して、何かないかと収納をあさった。
いついかなるときも、期待に応えられるよう何かしらのストックが――ほらね。
「えっと、これは揚げクッキーだよ。お手々がベタべタになるから気を付けてね」
妖精さんサイズのはなかったので、大きな一枚を3つに割った。ドーナツは……さすがにいらないかな。
『くっきー?』
『ちょっとやわらかい?』
『おいしー!』
とりあえずご機嫌になった妖精トリオにホッとしたところで、ふうふう息を吐くチル爺が到着した。
「チル爺、久しぶり……でもないかな?」
『ぬし……ラピス様を小間使いのように使うでないと――!』
ちらちらラピスの方を窺いながら、チル爺が小声でまくしたてる。
「いいからいいから! きっといいことあるよ!」
むふむふと笑みを抑えながら、チル爺をローテーブルに座らせる。
『なんじゃ?! なんぞまたやらかしおったんじゃないじゃろうな?! ワシ、関係ないからの?!』
いやいや関係大ありだよ?
捧げ持つように取り出した小箱に、クッキーを食べ終わったらしい妖精トリオも興味津々に寄って来た。
『とくべつなおかしー?』
『いいことー?』
『やっぱりおいしいものー!!』
ち、違うからね?!
不信感MAXの視線で小箱を見たチル爺が、じりっと後ろへ下がる。
なんで?! 何も飛び出してきたりしないから!
『信頼度が地に落ちてるのよねえ……』
『やらかし常習犯なんだぜ!』
両肩からのツッコミにむっと唇を尖らせながら、妖精トリオたちも呼んで、にっこり笑う。
「これから、プレゼントがあります。目をちゃーんとつむっていられたら、あげるね!」
『『『しょーち!!』』』
途端武士みたいになったトリオが、ぎゅむ、とつぶらな瞳を固く閉じる。
慌てふためいたチル爺が、庇うように前へ出た。
『ちょ、これ、そんな危ないことを……! ぬしもそんな無体なことをするでないわ!』
「待って待って、何も無体なことは言ってないんだけど!?」
人聞きが悪すぎる! 見てよ、オレを信じて今も目を開けない妖精トリオを!
「ふーん、じゃあいらないんだね、チル爺は」
『じゃから、まず何をするつもりかを――は、まさか……』
きらり、とチル爺の目が光った気がする。
うーん、さすがにチル爺にはバレちゃうか。
じいっとオレを見たチル爺が、いそいそ目を閉じた。なんというか、現金だなあ。
「まだだよー、いいって言うまで、お手々を前に出して目を閉じていて」
一番耐えられるだろうチル爺の両手に、ふわり。既にそわそわ左右に揺れている妖精トリオたちに、ふぁさり。
「はいっ、いいよ!!」
きっと、Hくらいでばちぃっと目を開けた各々が、その両手に掛けられたものを見た。
『『『『…………ッ』』』』
……おや、思ったよりも静かだ。
てっきり、トリオからは悲鳴のような歓声があがると思ったのに。
そっと、そっと衣装を広げたトリオが、目の間に掲げて息を止めている。
つぶらな瞳は光を受けて、ゆらゆら煌めいていた。
そして、チル爺も。
しん、と静かな空間の中、くすりと笑った。
「みんなの衣装、どうかな? 着てみせてくれる?」
なんとか衣装から視線を外した面々が、どこか不安を感じる面持ちでオレを見る。
「大丈夫、それはみんなの衣装だよ!」
恐る恐る、衣装を胸に抱いたみんなが、小さな胸いっぱいに息を吸い込んで。
……感激の雄叫びって、あるんだな。
小さな身体からほとばしる喜びが、声になって秘密基地の中に響き渡っていた。
「一人で着られないと、困ると思うんだけど」
あと、オレの手のサイズを考えて?! オレがやる方が難しいからね?!
『じゃが! も、ももももし、万が一傷でもつけようものなら……』
そう、ちまちま衣装を着せる羽目になってるのは、トリオじゃなくって。
『みてー!』
『どれす! どれすー!!』
『すごーーい!!』
妖精トリオが、心持おしとやかに宙を舞っている。くるり、くるり、動くたびに翻る衣装が華やかだ。
各々の色に合わせて作られたドレスは、まるでおとぎ話の世界みたい。
「はい、ここを前で留めて……この飾りは、こうかな?」
不器用な妖精さんたちのために、衣装に宝飾品が直接取り付けられている。
黒に近いような、深い緑のローブ。アンティークゴールドが随所にあしらわれたデザインは、重厚で高貴な雰囲気を漂わせている。
たっぷりしたロングトレーンは、飛んでいれば引きずることもない。
「うわあ、見違えるね! ものすごく偉い人みたい!」
『どういう意味かの?!』
「大丈夫、褒めてるよ!」
じとり、とした視線は、すぐにそわそわと衣装へ向いた。おずおず布地を撫でて、その滑らかな手触りにうっとり目を細める。
「はい、みんな見えるかな?」
妖精さんたちには十分すぎるサイズの鏡を立てると、吸い寄せられるように群がった。
『『『わ……』』』
再び静かになった妖精トリオが、右を向き、左を向き、後ろを向いてくるりと回転する。
……かわいいな。メイドさんズが、感動のあまりドラゴンを乱獲しそうなくらい。
静々ポーズをとるチル爺まで、ちゃんとかわいい。
これは、小物までたどり着くには随分時間がかかりそうだ。
オレは、メルヘンな光景を前に、メイドさんズへつぶさに伝えられるよう目に焼き付けていたのだった。






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