1068 人気のほどは
「うわ、すげえ! 本格的だ」
「凝ってるね~! まさに本物の細工だ~」
せっかくだからサヤ姉さんに見せに来たのだけど。
執事さんから託された試作品を覗き込んでいるのは、今日も工房に入り浸っていたラキと、たまたまそこにいたタクト。
「でしょう! 凄いよね、これは貴族様向けだから本格派なんだって。妖精さんにはいらないと思うけど、一応持って行こうと思って」
実際小箱に入っていたのは、実用的なラインの鍋やら包丁やら。あと、日常使いできるだろう衣服。もちろん、晴れ着としてドレスなんかも入ってはいる。
「僕も作りたい~!」
「何を……ああっ! すっごい! やだ、こんな綺麗になるの?!」
さっそく目を輝かせたラキの後ろから、やっとやって来たサヤ姉さんが覗き込んだ。
ミニチュア作りにぜひ参加を、と言っていたサヤ姉さんだけど、ここまで緻密な加工となると鍛冶では難しいよう。
「さっすが加工師ね~芸術品じゃん!」
「でも、サヤ姉さんが初期段階を担当してるんでしょう?」
「そうだけどさあ、全然こんなんじゃないもん」
そう、ミニチュアの剣、貴族向け高級ラインはなんと、きちんと鍛冶師の手が入った金属を使用している。そのため、ばっちり強度と切れ味があるのだ。何に使うの? と言ってはいけない。ロマンだ。
あと、妖精さん用の包丁は特に、実用品なので切れ味は必須だしね。
「なんで小さいとかわいいんだろねえ。『妖精コレクション』、貴族が目の色変えてるのも分かるわ……」
「へえ、俺も欲しいもんな! なあラキ、俺のも――」
振り返ったタクトが、既に金属片を手に集中しているラキを見て、にんまり口を閉じた。
そうだね、そっとしておくのが一番だ。
「あたしも欲しいけど、剣なんてもってないし、ドレスもガラじゃないし……」
羨ましげに剣とドレスを見るサヤ姉に、ちょっと首を傾げた。
「じゃあ、自分向けのを作ればいいんじゃないの? サヤ姉だったら、ハンマーとやっとこセットなんてどう?」
言ってから、もっと可愛いものが良かったのかも、とサヤ姉さんを見上げた。
「え……そ、そっか! そういうのもアリ?! え~~ラキ君、あたしも作ってほしい! こんな煌びやかなもんじゃないから、もっと簡単で! その代わり、あたしが鋼の鍛錬するからさ!」
「いいね~大歓迎だよ~」
顔を上げたラキが、普段見ない顔で笑う。ああ、すっかり加工師モードだ。
「じゃあオレの、剣の見本に使う?」
「助かる~!」
「え、ズルいぞ! 俺も!」
チュー助と短剣をラキの側へ置いて、そっと離れる。邪魔をしないのが一番だ。
『え、主……俺様おいて行くの?!』
「チュー助、作ってほしくない?」
『……しょうがないな、主がそうまで言うなら、俺様モデルになってやらんでも――』
大丈夫そうなので、さっさと工房を出て町へと繰り出した。
「ラキはあの分だと、抱えて帰る羽目になりそうだよな。俺らはどうする? 討伐、行くか?」
「行くかって、タクト剣ないじゃない」
「あっ……」
とは言え、タクトは剣なんかなくても、マリーさん仕込みの体術があるんだけども。
でも本人の自認は剣士だしね。
「じゃあ、どこ行くんだ?」
「チル爺たちにコレを持って行こうと思ってるんだけど、その前に見たいなと思って。ほら、実際売れてるのかなってのを」
だってもしかすると、執事さんがオレに気を使っているだけだったら……。実態は全然違うって可能性もあるわけで。うん、それはそれで、功績じゃなくなってちょうどいいかもしれない。
「けどさ、まだ売り始めたばっかなんだろ? そんなどこでも売ってるもんじゃ……お?」
足を止めたタクトに釣られて、通りの一角へ視線をやった。
何の店だろう、すごい行列になって……え。まさか、だよね?
二人で顔を見合わせて、列の前まで行ってみる。
『ロクサレン発! 人型ぬいぐるみと妖精コレクション!』
……うわあ。
賑やかな文字で書かれた、どう見ても間違いなく当たりの立て看板。
そうだね……これはガウロ様が怒るのも無理ないかも。だって向こうの行列はぬいぐるみ服販売でしょう、あっちの行列は妖精コレクションオーダー抽選会。そしてあそこは裁縫用具店。
「すげー……そんな人気あるんだな」
「き、きっと今は目新しくて珍しいのに、数がないからだよ」
それはそれで、執事さんたちがうまくやっている気もする。レア感がないと、貴族は欲しがらないもんね。
もっとこう……探せばある程度かと。それを見かけて、むふふと笑いたかったものを……。
なんだか、もうお腹いっぱいだ。むしろ胸焼けレベル。
一旦帰ろうかな、とげんなりした時、ふいに――悲鳴が響いた。
「なに?!」
「んー、泥棒っつうか何つうか」
おそらく孤児院から配達しているんだろう、貧しい身なりの少年が地面に転がって呆然と見上げている。
そして、大きな箱を抱えて走り去ろうとする男。
まさか、納入品丸ごと?!
慌ててタクトを出動――
「ガッ?!」
あっ……。
サッと行列の中から突き出された日傘。思い切りよろめいた足元を、さらに引っかける華奢な脚。
それは、ドン、と倒れた男が立ち上がるより早かった。
「ふざけるんじゃないわよ! このっ!」
「欲しいなら並びなさいよ! 朝から並んでるのよ?!」
「私のローレイ様を……誰が渡すもんですか!」
ああー……。
なかなか買えない中、鬱憤のたまっていただろう婦女子の矛先が……一気に男へ向いた。
ぬいぐるみを盗ろうなんてセコイ考えの男が、そうそう鍛えているわけもなく。
「だ、大丈夫……かな」
「大丈夫には見えねえな」
凄まじい人数の袋叩きになっているけど……さ、さすがに女性の細腕……いや細脚? といえども危なくないだろうか。
仲裁に行こうかどうしようかと迷った時、慌てて走って来る衛兵さんが見えた。
さーっと何事もなかったかのように列に戻ったレディたちは、さり気なく服の裾など直している。
後には、ブルの群れに轢かれたような有様になっている男。だ、大丈夫、命に別状はない。
「なんか……唐揚げよりも熱意っつうの? 怖ぇえな……」
「熱狂度が……ね」
一応、盗まれそうになった箱は無事に店へ届けられたものの、またあんな輩が出ないとも限らない。
オレたちは頷き合って、運搬役の子へと歩み寄った。
「おらっ!」
「えいっ!」
わああ、なんて喝采が聞こえる。
少し目立ってもいいかと思ったけれど……これはちょっと目立ちすぎかも。
『目立つに決まってるわよね』
ふよんと跳ねたモモが、溜め息を吐く。
で、でも、こうしておけば、以降はきっと襲撃されづらくなるはず!
集団でやってきたチンピラを蹴り飛ばし、担いだ袋をしっかり握って着地した。
大きな尻尾が、まふっと後ろで揺れたのが分かる。
「あっつ……もう早く行こうぜ。釣りはこのくらいでいいだろ」
「そうだね、十分目立ったし」
オレより大きなもふもふが、うんざりした様子で踵を返す。そのおしりで揺れるしっぽが、なんとも魅力的だ。
意外と役に立つ、この着ぐるみ。
何せ正体を隠せるという最大のメリットがあるからね!
着ぐるみを着て、わざと中身がぬいぐるみ用品だと分かるように袋の外側にも取り付けてみた。宣伝を兼ねて、ってやつだ。
こうして路地なんかを歩いてまわれば、まあ釣れること釣れること。
ちょっとばかり悪い気を起こしたチンピラたちが、豊漁だ。
オレたちの後を追いかけてくる衛兵さんが、大汗をかいて彼らをせっせと運んでくれるのが申し訳ない。
「たまにオレたちがこうやっておけば、襲われることはないね!」
「減りはするだろうな」
だって、着ぐるみの中身が誰かなんて、わからないもの。もちろん、着ぐるみはたくさんあるから貸出OKだ。そもそも、チンピラ自体も減っているわけだけど。
その日、着ぐるみによるチンピラ撃退ショーは大層盛り上がり、なぜかロクサレンには、またやってくれという要望が届くようになったのだとか。
……なんでロクサレンに? 中身が誰か分からないのに?
そしてオレは、腑に落ちない顔でお小言を食らっていたのだった。






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