1067 ロクサレンの意のままに
「ユータ様! 我らメイド一同、心より感謝申し上げます! つきましてはこの命に代えましても、いつか必ずこのご恩をお返しする所存です!!」
ザッ! と並んだメイドさんたちが、裂ぱくの気合が籠もった声をそろえて言った。
どうしてロクサレンのメイドさんズが、王都の館に揃っているんだろう。
「え、えっと……? オレは一体何をしました……?」
おずおず尋ねるオレに、にっこり爽やかな笑みが返される。とりあえず、何をしでかしていたとしても、絶対に命に代えることじゃないのは分かる。
「ご謙遜を! ユータ様のご采配により、我ら素晴らしき仕事を賜りました!」
「むしろ、我らが支払いをせねばならないのでは……? と時折良心が痛むほどに!」
キラキラ輝く瞳がオレへの感謝に満ちていて、居心地が悪いことこの上ない。
「ユータ様、すみません。どうも、随分と彼女らの性に合っていたようで」
静かにやってきた執事さんに促され、事の次第を説明されながらその場を離れた。
「――なるほど、順調なんだね!」
「ええ、メイドらはそれが嬉しいようです」
始動したぬいぐるみ事業、それがあっと言う間に火が付いたよう。おかげでメイドさんたちはちまちました衣装を作り放題、孤児院で先生となって教える役目だってできた。
さらには、妖精さん用の本格仕様ミニ衣装まで。
「あんな小さな衣装、ただただ大変だと思うのに」
マリーさんと縫ったことを思い出して、ふるりと体が震える。
騎士隊長モデルから売り出したぬいぐるみは、案外、子どもよりも貴族女性に人気があるようで……その辺りはきっと、ローレイ様ぬいとカロルス様ぬいの効果だろう。
ローレイ様ぬいは、本人がいくらでも作れというから、完全量産体制に入っている。一方のカロルス様はロクサレン特製の限定品で、条件を満たした人に抽選で当たる方式になっている。
孤児院に寄付なんかで抽選チケットをもらえるので、にわかに寄付ブームが起こったりしているのだとか。そして、孤児院側はその寄付金を元手にぬいぐるみの衣服やパーツ制作に入る……という循環が始まっているのだとか。
ちなみに抽選チケットと銘打っているけれど、あれは嘘だ。
いや、嘘ではないかもしれないけど……公平ではない。
なぜって、メイドさんが回転する的にナイフを投げて当選番号を決定するから。
これがなぜ不公平なのかって、チケット配布時にこの人に当てちゃダメ、という場合はチケットの数字をチェックしてあるそうで。たとえば、悪徳貴族が無理やりチケットを奪っていくなんて場合に。
当然、ナイフを投げるメイドさんはロクサレンのメイドさん。つまり、普通に狙った数字へ当てられる。
「特定の番号を避けているだけですから、抽選していることに嘘はありませんよ」
執事さんは、そうにっこり笑うけれど。まあ、オレだってカロルス様ぬいを嫌な貴族に渡したくないからね!
やがて館の一室で小箱を手にした執事さんが、オレの方へ小箱を差し出した。
「こちら、試作となります。チル爺様方にどうかと」
「えっ! 渡してもいいの?!」
「ええ、宣伝も兼ねた、友好の証ですね。小物類もありますので、どういったものを望まれているか、ご希望も伺えればよいのですが」
うわあ……チル爺たちが感涙するのが見える。
小物類は、長老様に渡してもいいかもしれない。だって、長に何にもないのはダメだろうし。
「これがまた意外なことに、結構な需要が見込めそうです」
「これって、妖精さん用の色々?」
「ええ」
それは……確かにオレは需要がありそうだと分かるけど、どうして執事さんたちが分かるんだろう。妖精さんたちとやり取りできないのに?
首をかしげていると、執事さんが棚に歩み寄り、何かを取り出した。
「わ! 精密……! カッコいいね、これは欲しい!」
なるほど、手渡されたミニチュアの剣は、非常に精巧な造りとなってどこかわくわく感がある。そして、頑丈そうなチェーンが下がっていた。
「こちら、お守りとしての需要もかなり高く……恋人の剣をネックレスのように身に付けたり、祈りを込めたネックレスを本人へ送ったりという使い方をされるようです」
確かにこれなら、アクセサリーとしても需要ありそう! 女性がつけたらロザリオっぽいかもしれない。恋人との繋がり、なんてロマンチックだ。
「こっちのドレスは? 普通の妖精さん用だよね?」
かなり緻密に作られた小さなドレスは、明らかに高級品だ。しかも、小さな銀のハンガーとチェーンがついて……え、まさかこれも持ち歩くの?!
「こちらも、女性に大変人気があります。ご自分のドレスコレクションを見せびらかせる機会というのは、そう多くはありませんので。ご自分のドレスと同じものをお作りになって、こう、ずらっとバッグなどに取りつけるのだそうです」
「へえ……!」
キーリングのような大きな輪っかに、たくさんのドレスが連なっている様は、色とりどり華やかで、使いようによっては可愛いのだろうか。中には、ドレスの腰に同じデザインのミニチュアドレスを取り付ける人もいるのだとか。
「いずれも主に貴族の見栄や道楽ですから、大変よい収入になっておりますね。なんせ、素材自体が安いですから」
なんだか、机上の空論だったものが、ばっちりうまく行っている。もちろんそれは、執事さんたちの手腕によるものなのだけど……ロクサレン、やっぱりやりすぎじゃない?
そりゃあ、功績多すぎって怒られるよ。
『他人事みたいに言うじゃない』
『怒られたのは、主なんだぜ!』
……そんなことはないよ、きっと。だってオレ、まだ子どもだし! そう、オレのやらかしはもれなくカロルス様のやらかしになるんだよ。
オレは『ごめんね』、と爽やかかつ大きく笑ったのだった。






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