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気が付けば


「エド先輩。私、何も詳しいことを聞いてないんですけど。」


 隊長に問答無用で命じられるまま、私は従僕の姿でどういうわけか白翼の制服を着ているエド先輩の三歩分斜め後ろを歩いていた。今は王子の執務室に向かう途中だ。騎士とその従僕の関係上、あまりペラペラとしゃべっているのは立場上好ましくないため、周りに人がいない時を見計らって話しかけている。元女中というだけあって、そのへんのマナーはきっちり体に叩き込まれているのだ。

 鏡で見てげんなりしてしまった私の従僕姿は、悲しいことに騎士団や女中の制服よりもはるかに様になっている。ぱっと見、下級貴族の少年といったところだろう。

 こんなことを命じた隊長は、いくら聞いても任務の内容を詳しく教えてくれなかった。結果として、朝早くからこんな従僕の格好をしてエド先輩に付き従っているわけだ。


「え、何も聞いてないの?」


 前をむいているのでエド先輩の表情を読み取ることはできなかったが、その声には驚きが含まれていた。同じ任務につく相手が仕事内容さえ知らされていないのだから、無理もない。


 「そもそも、なんで白翼の制服なんか着てるんですか?正直わからないことだらけです。」


 初めて近くで見る白翼の制服は、白を基調として金糸で刺繍が施されている正統派王子様のような衣装だ。

 いつものだらしない制服の着こなしとは違って白翼の制服をビシッと決めたエド先輩は、いつもの軽そうな雰囲気は形を潜め、上級貴族の貴公子のようだ。もともと顔がいいのは知っていたが、白翼の制服がここまで似合う人も珍しい。


「勉強不足め。自分の所属してる隊のことくらい知っておくものだよ?」

「・・・反論の余地もないです。」


 弱みを握られて無理やり所属させられていても、リサーチ不足は私の落ち度だ。もし何か不測の事態が起こったとして、何も知らなくては対処できいない。


「今後の方針も含めて、王子の執務室で話し合うことになっているから、そこで説明してあげるよ。こんなところで話す内容でもないからね。」

 

 唇に人差し指を当てて意味深に微笑む姿は、妙に色っぽい。エド先輩のように顔がいい騎士は、黑翼にはあまりいない。どちらかというと、ハートネット先輩のように強面で厳い筋肉の塊のような者が殆どだ。近衞騎士といえば、顔良し、家柄よしのエリートが相場だが、黑翼の騎士たちはあまりにもミリアの常識からかけ離れていた。

 (そういえば、式典とかの公の場では、あまり黑翼騎士を見たことがない。)

 存在こそ知られてはいるが、近衛騎士といえば白翼で、黑翼はあまり公に顔を出すことがなかった。


「さ、ついたよ。近衛騎士団白翼隊エドワーズ・ルシエ、参りました!」


 エド先輩がドアの前で声を張り上げると、「はいれ。」と中から歌うような美声が聞こえた。第二王子の声だ。

 エド先輩に続いて執務室に入りドアを締めると、そこにはすでに見知らぬ白翼の騎士と私に無理強いをしたかの鬼畜上司が佇んでいた。


「驚いたな、よく似合っているよミリア。いや、今はエミリオ・ファジールだったな。」


 相変わらずの人外魔境な王子は、気を使ってなのか目元を覆う仮面をつけていた。それでも美しさがにじみ出てしまっているので、気休め程度にしかならないが。声も聞き惚れてしまうような美声なのだ。

 ちなみにエミリオは、従僕になりすました私の名前だ。隊長の親戚で、13歳になったため騎士になるべく白翼の騎士の従僕として仕えることになった、という設定だ。名前は、隊長が適当に考えたものだ。ファジール家という隊長の親戚は本当にあるが、身分はそれほど高くないため滅多に社交界には出てこないらしい。


「ありがとうございます。若干、複雑ではありますけど。そんなことより、いいんですか?」

 

 私は、見知らぬ騎士を見て王子に問いかけた。早速私の名前をバラしてしまって、良いのだろうか?という当然の疑問だ。王子の周りを女がウロウロするのは、まずいという話だったはずだ。


「何を言っている。ここにはお前の知っている者しかいないぞ」

「え、だってそこの方にはお会いしたことありませんよ?」


 誰かに似ているような気がするものの、黑翼にはこんな爽やかな青年は居なかったはずだ。私が首をかしげていると、爽やか美青年は口をへの字にして俯いてしまった。肩が小刻みに揺れている。

 

「ぷっ!わ、わるい。我慢の限界・・・!」


 ん?どこかで聞いたことがある声だ。


「まだわからない?ミリアちゃん。ヒントは、無精髭、ボサボサの髪。」


 そこまで言われて、唐突にひらめいた。まさか。


「え、ライー先輩ですか?もしかして。」

「ぴんぽーん。」


 まさか、あの無精髭と子供をこよなく愛する、三児の父で入婿男爵、ダメな、ダサい、だらしがないの3Dおじさん、ライー先輩だとは。


「ショックです。ライー先輩だけが心のオアシスだったのに・・・」


 隊長のような美男でも色男でもなく、筋肉ダルマとも違う、そのへんにいそうなだらしがないライー先輩は、私の癒しだった。それなのに、ヒゲを剃って髪を切っただけでこんなに爽やかな美青年になってしまうなんて。

 おかげでこの執務室の美貌率をぐっと上げてしまっている。

 ふと、ミリアは友人のことを思い出した。

(こんないい男たちに囲まれたら、発狂するだろうな)

 自分にとっては、迷惑な限りだが。


 

 

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