敗報の定刻
灯標七の朝は、時刻ではなく入港灯の点滅で始まった。
第九外縁圏に残る最後の大型中継港。倉科澪が管制卓へ着くと、前夜まで青く埋まっていた航路図に、灰色の空白が一つ増えていた。第十八居住星系。人口七百四十万人。三日前から定時連絡がない。
「喪失へ変更しますか」
若い職員が聞いた。澪は首を横に振った。
「確認していないことは書けません。通信途絶のままにしてください」
画面の向こうで職員がうなずく。彼の故郷も、先月から灰色だった。
午前便として入ってきた輸送船は、船腹を応急材で継ぎ足していた。予定の八隻ではなく五隻。しかも、そのうち二隻は乗員以外を乗せられない小型艇だった。港の係留輪に、家族を待つ人々が集まる。誰も大声を出さない。騒げば到着数が増えるわけではなかった。
澪は航路札を一枚ずつ並べ直した。避難船の出航を先にするか、食料船を先にするか。安全な航路は二本しか残っていない。どちらかを動かせば、もう一方が待つことになる。
司令部からの文書には「全体情勢は維持」とあった。澪はそれを印刷して、破損船の入港時刻を記した実測表の横に置いた。二枚の紙は同じ机の上で、まるで別々の宇宙を説明しているようだった。
三隻目の乗員から、寄港できなかった集落の一覧が届いた。どの地名も澪の端末では『確認待ち』になっている。彼女は現地の読み方を一つずつ聞き直し、誤字を直した。船長は疲れた声で礼を言った。地図から消えかけている土地にも、そこを故郷と呼ぶ人がいる。誰かが名前を正しく残さなければならなかった。
外では、貨物係が最後まで手を振っていた。五隻目のハッチが開く前に、澪は次の入港灯を点けた。




