78 〈幻夢(VR)〉で義理と人情と
「やっぱり、人手があると違うわねぇ。とっても助かったわ」
今日の営業を終え、今日の夕飯である賄い( 今日はミックスフライ定食。因みに賄は俺が作ることになった。これが俺の調理の実践になるわけだ )をスマラ達も呼んで食べ終えると、食後のお茶を飲みつつ、女将さんが笑っている。
「初日にしちゃ、良くやった」
店長も頷いている。
「ありがとうございます。兎に角必死でしたよ」
「れなちゃんも、注文がしっかりと受けられていたし、日本語もバッチリね。本当に外人さんなのかしら?」
そう言って首を傾げる女将さんに、俺達は苦笑を返すしかなかった。魔法を使っていますって言って、通じるだろうか?
ゲームなのだから、通じそうなものだが、これだけ現実世界に酷似した環境だと、信用してもらえない可能性もある。だがまぁ、ものは試しだ。
「実は、魔法を使って翻訳してます」
俺の言葉に、女将さんは目を丸くする。そしてコロコロと笑い、
「そうなの、それはとても素敵ね! 私にも使えるのかしら?」
と言った。俺は首を竦めつつ答える。
「申し訳ないですが、流石に無理かと」
「あらそう、残念ね!」
俺の答えにも、女将さんは気を悪くした様子もなく、微笑んでいた。多分、冗談だと思われてるんだろうな。
「明日はえめちゃんが手伝ってくれるのよね?」
「うん!」
女将さんの問いに、エメロードが笑顔で答える。俺は最後に、
「店長、賄いの味、どうでしたか?」
と尋ねた。今日は店長が揚げるフライの様子を見て、揚げ具合や下拵えのやり方を学ぶことができた。俺としては極力同じように行ったつもりだったのだが…。
「…魚と肉じゃ揚げる温度が違う。魚は揚げ過ぎだ」
店長の指摘に、俺はハッとする。そうか、だから店長はフライヤーを二つ使っているのか。俺はてっきり大量に揚げるから二つ用意していると思っていたのだが。どちらがどう温度が違うのか、明日はそこも確認していかないと。
「なるほど、勉強になります。ありがとうございました」
俺は頭を下げる。店長は鼻を鳴らすと、さっさと食器を片し始めた。俺は慌てて食器を受け取り、洗い場で洗浄する。マグダレナも慣れてきたのか、手際よく食器を集め、俺に渡してきた。
「なんか、手慣れているわね。マグも初めてだったんでしょ?」
「ええ。でも楽しかったわ」
スマラの問いに、食器を片付けながらマグダレナは笑顔で答えた。楽しかったのなら何よりだ。
明日はエメロードが店を手伝うことになる。店長たちに挨拶を終えた俺達は、銭湯に寄って汗を流すと、明日に備えて早々に眠りについた。
次の日も店は盛況だった。今日はエメロードが接客をしているが、天真爛漫な笑顔の接客に、客たちは妙な盛り上がりを見せていた。まるでアイドルを応援する親衛隊のようだ。
「ねぇねぇ、こっち、こっちの注文を宜しく!」
「テメェ、俺が先に呼んだんだぞ!」
「ちょっと貴方たち、私じゃ嫌だっていうのかしら?」
「「いえいえ、そんなことは」」
我先にとエメロードに注文を頼む客達に、呆れ声で対応する女将さん。エメロードは嬉しそうに注文を取って来る。
「マスター、ラーメンライスにレバニラ定食、ビールが二本!」
「エメ、俺じゃなく店長に伝えてくれ…」
俺は必死に皿洗いをしつつ、笑顔で俺に注文を伝えるエメロードを窘める。エメロードは、「あ、そっか!」といってペロッと舌を出すと、大きな声で店長に注文を伝える。その仕草がまた客達の心を掴んだようで、
「次、次こっちが注文だ!」
「翠髪の姐ちゃん、飯のお代わりだ!」
「こっちのテーブルで酌をしてくれぇ!」
客達の矢継ぎ早な注文に動じることなく、エメロードは笑顔で対応していく。
エメロードがしっかりと仕事ができているのを確認し、客達の様子に女将さんも匙を投げたのか、やれやれと首を振ると、裏方に徹することにしたようだ。
「えめのやつも良く働いているな。どっかで給仕でもしてたのか?」
料理を進めながら、店長が聞いて来る。俺は準備した皿を運びつつ、
「俺の記憶では初めてのはずですよ」
「…そうか」
と答えると、店長は頷き、その後は黙々と料理に戻った。俺は引き続き皿洗いに戻り、店長の仕事を観察し続けた。
「マスター、楽しいね!」
食器を下げてきたエメロードが、そう言って嬉しそうに笑う。俺も笑顔を返し、そっと頭を撫でてやった。エメロードはくすぐったそうに、それでも喜んでいる。
「おい、皿洗いの兄ちゃん、その娘に触るんじゃねぇ!」
「そうだ! 俺達だって我慢してるんだぞ!」
「お客さん、我慢してなくても触らないでくださいね」
途端に響き渡る怒号に、女将さんがポツリと呟いた。俺は慌てて奥へと引っ込むと、皿洗いに専念する。こうして、二日目もまた有意義な時間が過ぎていくのだった。
「なんか、毎日が楽しいね!」
エメロードが布団に潜り込みながら、そう言って微笑んでいる。俺はそんなエメロードの頭を撫でると、笑顔を返す。
俺達がこの『世界』に来て、一ヶ月が経過した。俺は連日太平軒で仕事を熟し、漸く幾つかの料理を任されるようになった。主にフライ系の揚げ物や、餃子などの焼き物だ。後は付け合わせの野菜の千切りなども任されている。
マグダレナとエメロードにもファンがついたらしく、働く日をチェックして通って来る客が増えている。女将さんは苦笑しつつも、二人の集客効果は喜んでいるようで、客達の悪ノリが過ぎなければ、放置するようになった。
店長は相変わらずだったが、最近は調理の合間に、俺の仕事を見ながら指摘をしてくれるようになった。
それはほんの小さなものだったが、気づかずに見逃すとハッキリと味が変わってしまうようなものであったりと、重要な事柄のみを的確に突いてくる。
おかげで、自らの技量が上がっていることを、日々実感できていた。
「そうだな。ちょっと状況が変わっているけど、こんなに穏やかな生活は初めてかもな」
「わたしは闘いも楽しいけど、ここでの生活も楽しい」
「そうね、それは同感。こんな生活があるとは思ってなかった」
同じように布団を被りながら、マグダレナも微笑んでいる。
「皆楽しそうで良かったわ。私も凄く充実してるわよ」
ここにきてもマイペースなスマラは、毎日を悠悠自適に過ごしている。まぁ猫なんだし、日がな一日寝て過ごすのも、大事なことなんだろう。今までが忙しすぎたのかもしれない。
「俺も料理についてどんどん腕が上がっている自覚があるし、このままいければ、そう遠くないうちに、ミカへの料理を作ることができるかもしれない」
俺の言葉に、皆も頷く。正直ここでの生活は捨てがたいものだったが、俺達は『試練』を終えて、ダンジョンを脱出しなければならない。そのためにも、頑張って料理の技量を習得しないと。
「確かに、ロゼ達にも暫く会ってないしなぁ。皆元気にしてるかな?」
エメロードはそう言って俺に抱き着くと、首筋に頬を擦りつけてきた。俺は優しく髪を撫で、束の間の間、ロゼ達に想いを馳せる。
ロゼ達はもう、〈稀人の試練〉をクリアしただろうか。彼らなら、きっと試練を乗り越えているだろう。
「ヴァイナス、早く会いたい?」
そう言って、俺の頭を抱えるように抱き締めてきたマグダレナに、俺は素直に頷いた。
「そうだね、早く会いたいよ。そのためにも、頑張らないとな」
迷いのない俺の言葉に、マグダレナは頷き、俺を抱く腕に力を込めた。
「確かに楽しいけど、あの娘たちにも会いたくなってきたわ。それに、あっちでも、まだまだ味わっていない美味しいお酒が一杯あるわ! お金は手に入れたんだし、贅沢するわよ!」
枕元で丸くなったスマラが、そう言って気焔を上げる。
あのなぁ、金を手に入れたのは俺なんだが…。まぁスマラが欲しいと言えば、無理のない範囲で手に入れることは吝かではないんだが。
「それじゃあ、明日も頑張るかね」
「うん」「ええ」「頑張って」
俺達はそう言って頷きつつ、眠りへと落ちていった。
次の日、出勤しようと俺達が、太平軒の裏口を開けた瞬間、大きな音と共に何かが倒れる音がする。
慌てて中に飛び込むと、鬼の形相で仁王立ちする店長と、倒れたテーブルや椅子に埋もれながら、店長を見返す若い男の姿があった。
女将さんは壁際でその様子をじっと見つめている。そこで、俺達に気付いたのか、こちらを見るとゆっくりと首を振る。どうやら手出しするな、と言いたいらしい。
「どの面下げてここに来た。二度と来るなと言っていたはずだ」
「そんなことは百も承知だ。けどよ、それを曲げてでも頼む! この通りだ!」
若い男はそう言って、その場で土下座をし、額を床に擦りつけた。その様子に、店長は鼻を鳴らすと、黙ったまま睨みつける。
事情が分からずに呆然とする俺達の傍に、女将さんがゆっくりと近づいて来る。そして、
「御免なさいね。ちょっと取り込み中なのよ」
「ちょっと、ですか」
俺の言葉に、女将さんは困ったように微笑む。その間も、若い男は土下座をしたまま、頭を上げようとはしなかった。店長も若い男を睨んだままだ。
「少し派手だけど、単なる親子喧嘩だから」
「アキ、もうこいつは息子でもなんでもない、赤の他人だ」
女将さんの説明に、店長がツッコミを入れる。
息子さん、か。
言われてみれば、確かに顔は店長とよく似ていた。今は伏せられていて、確認できなかったが。
「あの子は料理の修行が嫌で逃げ出したの。あの人譲りの舌があるし、継いでくれると思ってたんだけど…」
「アキ、余計なことは言うな」
女将さんの説明を、店長が遮る。なるほど、どうやら修行から逃げた息子さんを勘当していたのだが、その息子さんが帰って来た。しかも、何やら理由アリで。
俺達は女将さんに頷きを返し、様子を伺うことにした。
「…顔を出したと思えば、金の無心か。呆れて物も言えん」
「俺だって、こんな形で迷惑を掛けるつもりはなかった。でも、もうここしか頼ることができないんだ! 金は必ず返す! だから貸してくれ!」
仁王立ちのままの店長の言葉に、顔を伏せたまま男が懇願する。息子さんは店長に金を借りに来たらしい。
まあグレて家出した息子が、帰って来るなり金貸してくれじゃあ、典型的なダメ息子だよなぁ。けれど、息子さんの必死な様子は、只のダメ息子という気がしない。理由があるようだけど…。
「どんな理由があろうとも、お前にびた一文渡すつもりはない」
「親父、一生の頼みだ、心を入れ替えて働く! 金はどんなに掛かっても必ず返す! 後生だ…!」
伏したまま顔を上げようともせず、息子さんはひたすら懇願を続ける。店長はそんな息子さんを一瞥すると、踵を返し裏口から出ていった。
扉が閉まっても、息子さんは頭を下げ続けていた。そして、その肩が震えると、小さな嗚咽が聞こえてくる。
俺は女将さんを見るが、女将さんは首を振る。どうやら関わるなと言いたいらしい。でもなぁ、このままだと今日の営業はできないし、話を聞くくらいは良いんじゃないか?
俺は頷くと、息子さんに近づき、肩を叩く。
「このままじゃ、店を開くこともできません。場所を変えて落ち着きましょう」
そう言って、俺は息子さんを外に連れ出す。女将さんに目配せし、マグダレナと共に片づけをしてもらう。
俺は俯いたままの息子さんを連れ、近くの喫茶店に入った。ここはスマラのお気に入りで、俺達も休みの度に利用しているので、マスターとは顔馴染みである。
「いらっしゃい、おや、この時間とは珍しいね」
「おはようございます。奥、借りますね」
俺はそう言って、奥のテーブルに向かう。そこは最近スマラの特等席になっているテーブルで、今日もスマラが優雅に珈琲を飲んでいた。
「あら、どうしたの? 仕事は?」
「ちょっと立て込んでてね。この人に話を聞きに来た」
スマラは不思議そうに首を傾げ、俺はそれに答える。息子さんを座らせると、俺はスマラの隣に座る。
「マスター、俺達にもブレンドを」
マスターに注文をすると、マスターは頷き淹れ始めた。息子さんはテーブルを見つめたままだ。俺は彼が話し始めるのを待つ。
やがて珈琲が運ばれて来た。鼻孔を擽る香りを楽しむと、ゆっくりと口に運ぶ。旨い。
そういえば、猫にカフェインって有害だったような。隣で目を細めて珈琲を嗜むスマラを見て、まぁ今更か、と思い直す。
珈琲の香りで落ち着いたのか、おずおずと顔を上げた息子さんに、俺は珈琲を勧める。
「どうぞ、冷めないうちに。落ち着きますよ」
「…頂きます」
息子さんはゆっくりとカップを口に運び、ほうとため息をつく。そしてカップを戻すと、話し始めた。
途切れ途切れになりながらの、話を纏めるとこうだ。
今日訪ねてきたのは。店長から金を借りようと思ったからだ。何故借りようとしたのか? それは借金の形に身売りされる、幼馴染の女性を助けるためだというのだ。
その女性は、賭け事で膨れ上がった借金を残したまま、失踪した父親の保証人にされていたらしい。
本人も知らないうちに交わされた請求書を見て、最初は支払いを拒否したそうだが、誓約書は本物で、しかもバックにはヤクザが絡む闇金であったため、脅し紛いの請求にあい、支払うことになってしまった。
だが、学生である女性に支払い能力はなかった。最初はヤクザの息の掛かったクラブで働いていたのだが、それでも足りず、とうとう身売りすることになってしまった。
息子さんはそのクラブで働いていた。その時に再会した、健気に働く幼馴染を見ているうちに、いつしか憎からず想うようになっていたらしい。彼女のほうも、何くれと世話をしてくれる息子さんに、いつしか惹かれていたそうだ。
そんな中、身売りの話を聞いた息子さんは、何とか金を工面しようとしたのだが、どうにもならず、藁にも縋る思いで、太平軒を訪ねたのだという。
「だが、もうお終いだ…」
息子さんは、その場で泣き崩れる。俺とスマラは顔を見合わせる。
さて、どうしたものか。
『どうするの? お金を貸してあげる?』
『そう簡単にはいかなそうだよ。店長は一銭も貸す気はない! って突っぱねてるからな。勝手に貸すと、余計にややこしくなりそうだ』
スマラの心話での問いに、俺も心話で答える。それに、少しキナ臭さを感じてもいた。
借金の保証人になる際、本人の署名が必要なはず。書いた記憶がないのに、勝手に保証人にされた挙句、身売りすることになるとは、話が都合良すぎる気がした。
「身売りする先はどこなんです?」
「会員制のデートクラブで、内情は金持ち相手の高級娼婦です。客のどんな要求にも応えるのが売りらしいです。見初められれば愛人になることもあるそうですが、大抵は弄ばれて終わりです」
「そこもヤクザの?」
「はい。この街の繁華街の半分を取り仕切っている、『翔鳳会』って組の傘下です。俺が働いていたクラブも同じです」
ふむ、形に嵌めて沈めるとか、本当にあるんだな。まぁ、ここはゲームなんだが。それにしてもヤクザか…。
現実世界だったら尻込みしそうな話なんだが、折角ゲームなんだしな。ここは敢えて首を突っ込んでみたいところじゃないか。
「話は分かりました。俺からも店長に話してみます。どれだけ力になれるかは分かりませんがね」
俺の言葉に息子さんは顔を上げ、
「…お願いします!」
とテーブルに額を擦りつけた。
「それで、借金の期限は?」
「一週間後です」
「金額は」
「500万」
随分と大金だ。まぁそれくらいの額じゃないと、身売りとかの話にはならんか。
…金で解決するのは簡単なんだよな。たった金貨500枚だ。でも、それは最後の手段として、まずは探りを入れてみるか…。
「因みに、彼女の父親が借金を作った賭け事って競馬? パチンコ?」
「いえ、麻雀だそうです」
麻雀か。麻雀で500万の借金とは、随分高額のレートで賭けていたんだな。もしかして…。
「麻雀てことは雀荘でやってたんだろうけど、店は分かる?」
「はい。商店街の奥にある『雀鳳』ってとこです」
雀鳳…。予想はつくのだが、念のため。
「その店って、やっぱり翔鳳会がバックに?」
「ええ」
…こりゃあ、嵌められたな。イカサマがあったかどうかは分からないが、恐らくその人は意図的に負け込まされ、借金させられたんだ。分かり易い流れに、俺は内心苦笑する。
でもまぁ、分かり易いのは有難い。俺としてもシンプルな方が対処し易いし。問題は、証文があることだ。これに関しては、大人しく金を払っておくか。だが、今後関わってこないように、念入りに『お話し』しておく必要はあるがな。
後ほど結果を伝えることを息子さん( 名前はヨシアキさんと言うそうだ )に確認し、電話番号を聞いて別れると、俺は太平軒へと戻ることにした。
「それで、お節介に首を突っ込んだわけだ」
その日の営業を終え、夕食を済ませた俺に、店長はジロリと視線を向けると、そう呟いた。
「あの状況で、我関せずとはいきませんよ。女将さんに聞いたら、理由も聞いていなかったそうじゃないですか」
「あのバカが言うことなんざ、聞く耳は持たん」
店長の物言いに、俺は苦笑を返す。女将さんも苦笑を浮かべていた。
「それで、あの子はサッちゃんの為に、お金を作ろうとしていたのね…」
「ふん、あの大酒飲みの穀潰しが作った借金なんざ、自業自得だ。肩代わりしてやる筋合いはねぇ」
女将さんの言葉に、店長はにべもなく言い放つ。
「貴方、サッちゃんは悪くないわ。ヨシアキだって自分のためじゃなく、人のためにあれだけ必死になってるんだもの。助けてあげたら?」
「男なら、惚れた女のためには、自分で何とかするもんだ。親の脛を齧って助けたところで、恰好がつかん」
「貴方…」
女将さんの悲しそうな顔に、店長は、ばつが悪そうに顔を逸らす。だが、首を縦には振らない。仕方ないよな。500万は大金だ。
「その借金なんですが、少しおかしいんですよね」
俺はそう言って、考えていたことを話す。話を聞くにつれ、店長と女将さんの表情が変わる。話が終わると、店長は首を振り、
「だからと言って、証拠はない。借金の証文がある以上、金が用意できなけりゃ、見受けするのは仕方がない」
と言う。やはり、そこはそういう結論になるか。けど、もし俺の考えが当たっているなら、金を返してはいそれまでよ、とはならなそうなんだよな…。
「店長、お願いがあります」
「なんだ?」
「二、三日休みを貰っても良いですか?」
俺の言葉に、店長は訝しそうに顔を顰め、
「…何企んでる?」
「いえ、ちょいとやりたいことがありまして」
と尋ねてきたが、俺は適当に言葉を濁した。どうせ言ったところで止められるだけだろうしな。それに巻き込んだら悪いし。
「…分かった。れなやえめはどうするんだ?」
「本人たち次第ですが…」
俺がそう言って視線を向けると、
「ヴァイナスが何か用事があるなら付き合うわ」
「わたしも手伝うよ!」
「…だそうです。すいません」
俺の言葉に、店長は頭を掻き、
「仕方ねぇ。ここんところ頑張ってたしな。…3日だ。それ以上はやれん」
と言う。俺は、
「ありがとうございます」
と頭を下げた。皆も合わせて頭を下げる。さて、明日は早速探りを入れてみるとするか!
「それで何をするの?」
「まずは潜入捜査だな。虎穴に入らずんば虎子を得ず。『雀鳳』って雀荘に行ってみる」
帰りの道すがら、スマラが聞いて来た。
「麻雀なんてできるの?」
「学生時代、かなりやり込んだからな。こっちに来る前は暇潰しにアプリで遊んでたし、イカサマ関係も友達と遊び半分で練習したからな。いまの能力なら、大抵のイカサマは見破れると思う」
実際にイカサマはしたことないけどな。バレた時は洒落にならんし、友達同士の麻雀で、イカサマで勝っても面白くない。
「ふうん。もし相手がイカサマしてたら?」
「指摘して、難癖つけてくるなら実力行使だな」
「え? 闘い? 闘いなの?」
「頑張るよ!」
いや、闘いじゃないから。お姉さんたち盛り上がり過ぎです。まぁ、連れて行ってやらないと、本気で暴れそうだから、連れて行きはするんだが。さて、どうしたものか。そこでハタと気づく。
…女連れの方が、囮としては良いかもしれない。
意図的に女性を手に入れるのが目的なら、借金漬けからの流れで嵌めてくる可能性が高い。二人には悪いけど、協力してもらおう。
俺は二人にせがまれて、簡単に麻雀のルールを説明しつつ、帰途についた。
 




