4. 夜行の死霊
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「マジかよ!異世界転移!こええわっ!」
吉岡先生の発した言葉をしみじみと聞きながら、僕は何度も頷いた。普通、異世界転移をしたとしても、五体満足で日々を送るのが物語の常だと思うのだが、僕の左腕は例えエリクサーを飲んだとしても生えて来ないんだってさ。
物語によっては、聖女の力で四肢再生なんてこともあるんだろうけれど、バウさんが言うには、そんな事例、聞いたことないってさ。
「おまっ・・こんなところで腕失って・・労災降りるのかよ!」
「ですよね・・」
労災、それは労働者が労務に従事している最中に被った負傷、疾病、死亡の事を労働災害と言って、状況に応じて給付金が支給されることになるわけだ。僕の場合は、完全に修学旅行中での事故になるわけだから、労災認定されなくちゃおかしいんだけども、ここは異世界、キチンと元の世界で認めて貰えるかどうかが不明である。
病院に行った治療記録とかあればいいんだろうけど、僕の場合、エルフどもが置いていった特級ポーション(エリクサーではない)で、完治(腕はないけど)しちゃっているからね。不安だよ。色々と不安だよ。
「吉岡先生、先生って聖女として認定を受けたんですよね?」
30過ぎて聖女か・・その先については、ぶっ飛ばされそうだから考えるまい。
「だったら聖女らしく、同僚のために欠損部位の再生とか」
「いや、悪い、そういう聖女の特殊芸的なの?聞いたことない」
「酷い!あっさり答えるその酷さが身に染みる!」
「西山先生、どうして左手無くなっちゃったんだよ?」
「吸血鬼王にやられちゃったんだよね!」
突如、隣から声をかけられて僕は危うくその場で飛び上がりそうになってしまった。
いつの間にかやって来たのか、吸血鬼卿のレオニート君が隣に居て、僕をニコニコ見上げながら言い出したのだ。
「あの時に吸血鬼王を吸引していれば終わった話なのに、何故だか君は全力で拒否するんだもんなぁ!あの時は見ていてまじでウケたよ!ああ!おっかしいの!」
「その子供は一体なんなんだ?」
ゾンビたちをエリアヒールしていた吉岡先生が、怯えた様子で後ずさる。
ショタの吸血鬼なんて初対面だから先生が怯えるのも分かるけど。
「お前達!早く逃げろ!そいつは・・ξνμπ・・・」
馬車の扉を開けたイケメン達が何かを叫んでいるけれど、何を叫んでいるのかが良く分からない。ただ、この感覚は、前にも経験したことがある感覚だった。
◇◇◇
光の国で第二王子として生まれたエリアスは、膨大な光のエレメントを持っている。全てを焼き尽くすような力ゆえに、王家でも持て余される存在だったわけだ。そんなはみ出し者の自分の側近となってくれたのが宰相を父に持つネストリと、騎士団長を父に持つオイヴァだった。
父である国王は、ネストリとオイヴァには兄の側近となってもらいたいと考えたようなのだが、兄との年齢差が五歳もあるエリアスと同年齢である二人は、自然と第二王子に付き従うようになってしまった。
焼き尽くすような力を前にして怯える者も多く、常に孤独を感じていたエリアスに手を差し伸べてくれたのは二人だけ。
せめて国の為に力を付けようと励まし合って、レベルを上げる為に王都のすぐ近くにある山へと向かったところ、エリアスの力が強大すぎるが故に、山一つがエリアスの所為で焼失してしまったのだった。
争いや災いを好まぬ王家はエリアスの力を封じ、一切のレベル上げを許すことはなかった。だからこそ、エリアスのレベルは今でも27、レベル上げを蔑む風潮にある王家としてはレベル27の王子でも高ランクに位置することになるけれど、他国と比べればゾウと蟻ほどにもレベルが違う。
火の国の王がレベル800台であるのなら、腐の国の王でもレベルは900台となる。そんな中で父である光の国の王のレベルは18。低過ぎてお話にならないのは間違いないのだけれど、
「我らにはエレメントの神に愛された特別な力があるのだ!だからこそ!レベルなどという瑣末な事を顕示する必要は全くないのだ!」
と、嘯いている。
レベルを無視した風潮の中でこっそりとレベルを上げていたネストリはレベルが180となり、オイヴァはレベルが250となった。他国と比べれば低いのは間違いないが、人族の中では飛び抜けて高いレベルを保持している。
レベルは上げられないが、二人の後をついて行くことは許されているので、冬のスナイフェルス山へ蛮族討伐の為にエリアスが向かったところ、そこで出会ったのが三十人の人族の子供を連れた聖女ユイだった。
聖女ユイは拳ひとつで千人の蛮族を一網打尽にした強者で、山積みとなった蛮族を踏みつけにしながら振り返る様を見て、ドキリと心臓が跳ね上がるような衝撃をエリアスは受けた。
聖女ユイが元いた世界では魔法というものが存在しなかったというけれど、ユイは魔法の原理については深い知識を兼ね備えており、
「魔法は想像力、あとはコントロール力だと思うのよ。あなたは膨大な力を持て余しているというけれど、何故その力を制御しようと思わないわけ?使わないからそれで良いではあまりにも勿体無いわよ」
ユイはそう言ってエリアスに魔力のコントロール術を教えてくれたのだ。
「まあ、正直に言って今言ったことはファンタジー小説の受け売りでしかないんだけど、この世界に適応できてよかったわ」
と、ユイは苦笑いしながら言った言葉は、正直に言ってエリアスには理解が出来ない単語が多い。
膨大な力の制御が出来るようになった頃、エリアスを常に化け物と罵る妹の様子が明らかにおかしいことに気がついた。まるで闇の繭に包み込まれているように見える妹の姿、その違和感を父に報告したところ、父があっけなく殺された。
力の制御が出来ないエリアスの所為で父が殺されたのだと妹は大騒ぎを始めたのだけれど、父は人々を闇の心へと誘導する妹の手によって殺されたのだ。
聖女の力によって露わとなったのは、根源の意図に叛くものの魂、それは人に取り憑き闇へと導く『夜行の死霊』と呼ばれるものだった。
「ユイ!そいつは夜行の死霊に取り憑かれている!今すぐ離れるんだ!」
聖女に従い、腐の国へとやってきたエリアスは、ゾンビの感染を防ぐために結界を張った馬車の中へと避難していた。
頑丈な結界が施された馬車から飛び降りたエリアスは、たったレベル27に過ぎない。間違って山を消滅させた時に巻き込む形で魔獣を消滅させたため、レベルが27に上がっているだけのことなのだ。
「殿下!」
「ゾンビになってしまいますよ!」
エリアスを追いかけるようにして馬車を飛び降りてきた側近二人は、ゾンビになる心配はない。エリアスは息を止めて駆けながら、光の力を吸血鬼卿に向けて放出した。
『ピロロロロ〜ン 破棄された王子の要望により、光の力で集合体となった夜行の死霊の解体を試行します。集合体の10%が焼失、20%が焼失』
息を止めているのが苦しい、それでも踠くようにしながらエリアスは光の力を放出し続けた。
『25%焼失、破棄された王子はレベル40になりました。焼失速度は20%アップします』
レベル40となればゾンビになることなく息が出来るはず、息を止めていたエリアスが息を吸い込もうとすると、
「片腹痛い、我を分解しようとするのはお前か?」
耳元で声が囁かれたと思った瞬間、首筋に鋭い歯が突き刺さったのだった。
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