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3. 年齢的に痛すぎる聖女

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

三年一組の担任教師である吉岡結衣は三十二歳、この歳で離婚歴二回ともなれば、今後の結婚についてはすでに諦めていた。


 そもそも、中学校の教師ともなれば、部活の顧問として土日出勤は当たり前。残業代が出ることもないまま、サービス残業を強要され、夜の9時近くまで仕事をする日もかなり多い。


 就業時間が16時となっているはずなのに、21時まで働く残酷さよ。こんな状態の妻に満足する夫などこの世の中には居ない。とりあえず、何処かには居るかもしれないけれど、吉岡由衣は出会えていない。


 教師を辞めて、専業主婦になっても養ってくれる収入がある人を探すべきなのだろうが、そんな奴はこの世に居ない。何処かには居るかもしれないが、吉岡由衣は出会えていない。


 死ぬまでこの状況が続くのかと暗澹なる思いで修学旅行に参加していた結衣は、移動中のバスの中で爆睡をしていたのだが、気が付いたらラフティング教室ではなく、異世界の草原に到着していたわけだ。意味がわからない。


 ポツンと放置されたバスを運転していた運転手さんも、バスガイドさんも姿は見えず、本当にポツンと三年一組のバスだけが放置されていたような状態だった。

 仕方なく、生徒達をまとめて移動を開始することとなったのだが、移動した先は何故だか雪の山中で、盗賊みたいな顔をした奴らに取り囲まれる事態に陥ったわけだ。


 そこから先は良く覚えてはいないのだが、とにかく生徒達を守る為に、獅子奮迅の働きをしていたらしい。丁度、盗賊の討伐に来ていた光の国のエリヤス第二王子の部隊に助けられることとなったのだが、気を失っていて良く覚えていないのだ。


 色々あって、出品される生徒達を助けるために腐の国へとやって来た結衣は、異常発生したゾンビの浄化に勤しむことになったわけだ。

 光の国の王子達も共にいるが、こいつらは何の役にも立たないのだ。顔だけ麗しい、役立たずの三人組の方を振り返りながら結衣は大声を上げた。


「あのさぁ!あんたら少なくとも光のエレメントの血を引いているとか何とか、いっつも偉そうに宣っていたわよねえ!だったら、浄化の一つも出来て当たり前なんじゃないのかしら?」


「いやいや、浄化は聖女しか出来ないことだから!」

「我々には無理」

「聖女様頑張って!」


 何処かのファンタジーな物語のように結衣の側近となった三人の若者は、兎にも角にも顔だけ美麗な役立たず三人組だった。王子なんかレベルが二十八しかない為、ウィルス蔓延る外に出ることすら出来ない。

 結界に囲まれた馬車の中から結衣を応援しているのだが、ひと段落したら燃やしてやろうかなという不穏な考えに結衣は取り憑かれていた。


「聖女様!すみません!お疲れなようでしたら、いつでも休憩に入ってもらって大丈夫ですから」

「聖女様、ジュースをお持ちしました!」

「アイスも用意致しました!」


 腐の国の兵士たちはレベルが上位となるため、結界がない場所に出ていても問題がないらしい。先ほどから大きな団扇で結衣を扇ぎ、ジュースを運び、肩まで揉んで甲斐甲斐しく面倒を見てくれている。


『ピロロロロ〜ン 浄化魔法のレベルが20となりました。年齢的に痛すぎる聖女の要求により、エリアヒール(浄化作用あり)が10m×10mとなりました。浄化速度が2倍になる付与が発動します』


「ピロロンがようやっと来たわ。エリアヒール10m×10mになったので、それに合わせてゾンビを入れてくださーい!」


 ジュースを一気に飲み干した結衣が骨に指示を出すと、骨の戦士達は誘導してきたゾンビ達を10m×10mの囲いの中に誘導する。


「エリアヒール!」


 結衣は両手を掲げて叫びながら、痛い、痛すぎると心の中でダメージを受け続けている。膨大な魔力量があるので、魔力切れを起こすことはないけれど『エリアヒール!』と三十過ぎたおばさんが唱える痛々しさよ。


 おばさんのエリアヒールは痛々しいかもしれないが、囲いの中に入ったゾンビ達はあっという間に元の姿へと戻ることが出来たため、結界に囲まれた通路を通って、城門の外へと誘導される。


 浄化はやればやるほどレベルが上がるので、リヤドナの住民を浄化する作業は最速レベル上げスペシャル祭り状態なのだ。


「聖女様、アイスをアーン!」

「はい、あーん!」


 腐の国の兵士にアイスをアーンしてもらいながら浄化を進めていると、

「吉岡先生―!そういうのはハラスメント案件に入りますよーー!」

 と、上から声が降ってきた。


「無理やり若者を捕まえてアーンをさせるだなんて!非道にもほどがあります!セクハラです!いや、パワハラかもしれない!」


「うるせえな!こっちは浄化を頑張っているんだから、これくらいのサービスを受けたってバチは当たらないだろ!何がセクハラだ!何がパワハラだ!みんな、嬉しくて自ら接待しているんだよ!」

 

 クワッと目を見開いて結衣が怒鳴り声を上げると、上から骨で出来た怪鳥が舞い降りて、パーカーに短パン姿の男が熊と一緒に降りてきた。


 何処で拾って来たのか分からないようなブカブカの靴に、水着にしか見えない短パンと紺色のパーカーを着た男は、右手で前髪を掻き上げながら言い出した。


「三年一組だけは転移せず、無事にラフティング教室に辿り着いただろうと思っていたんですが、やっぱり、一組のみんなも強制移動になっちゃったんですね!」


「西山先生!」


 同じ中学校で働いて三年、使い勝手の良い後輩教師と異世界で再会を果たした吉岡結衣は、側から見てもわかるほど小刻みに震え出した。


 光の国に移動した結衣は風の噂で、自分たち以外にも水の国と火の国に人族の異邦人が現れたという話を聞いていた。


 人数もそれぞれの場所で三十人規模と聞いた結衣は、おそらく自分たちと同じように二組、三組もこの世界に転移して来たのだろうと考えたし、火の国に移動した生徒が十二人、腐の国でオークションに出されることになったと聞いた時には激しい怒りを感じたものだった。


 異世界に転移した後も、自分は三十人の生徒達に安心、安全を提供しているし、自分のクラスの生徒たちを守るために、治療をしたり、魔獣を倒したりと、それは大変な目に遭っているのだ。だというのに、他の二人の先生達は何をやっているのだろうか?


 生徒達を助ける為には自分が行かなければならないという、長年教師をやってきた使命感みたいなものに駆り立てられて腐の国までやって来た結衣は、二人の担任教師は見つけ次第ぶっ飛ばすと決意をしていたのだが・・


「西山先生!まさか!その左手!」


 西山先生は確かに、上半身に半袖のパーカーを羽織っていた。

 だがしかし、その紺色のパーカーは真っ赤な血で汚れていて、左腕が肩から切断されたように無くなっている。


 右手しか残っていない同僚教師をまじまじと見つめた結衣は、

「マジかよ!異世界転移!こええわっ!」

 と、絶句したのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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