2. 聖女様に会いに行く
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修学旅行中に異世界転移をすることになった僕らは、三年二組と三組のバスが同じ場所に転移をした関係で、三年一組のバスだけはこちらの世界に来ることはなく、無事で済んだのだろうと勝手に思い込んでいたところがある。
だがしかし、月日が経つうちに流れてくる噂話の中には、どうしても引っ掛かるものがあったのは言うまでも無い。
光の国に聖女が現れた。
三十人の異邦人を連れた聖女は、千人隊と言われる蛮族の奇襲部隊を壊滅(皆殺し)にして光の国に保護された。病に倒れた王族の姫を癒すことに成功し『聖女』として持て囃されることになったという。
そこに来て、話題の聖女が生徒たちを助けるために腐の国までやって来たと聞けば、ああ、やっぱり、光の国に現れたという聖女は『吉岡先生』だったんだなと思うわけさ。
吉岡先生は、確かに可愛らしい顔をしているんだよ。僕よりも二歳年上の先輩教師になるんだけど、離婚歴がすでに二回あるという強者で、本人曰く、
「結局私はダメんずなんだよね〜」
と言うんだよね。
中学生の時に最後のレディース、最後の不良フィーバー期間を過ごした吉岡先生は、夜中に喧嘩で補導され、親を泣かしまくったという経緯がある。
見かけは完全なるあざと系女子の可愛いお姉さんなのだが、中身が怖い。ちょっとヤンチャな中学生男子など恫喝一つで黙らせる、見かけと中身のギャップが凄すぎる姉御肌教師となるのだ。
とりあえず、闇の王とかいう人に無理やり連れていかれた屋上で、なんのかんのと言い合いをしているお偉いさん達には、プールから王子様を引き上げる作業に出向いてもらい、僕の方は聖女と合流して、可能な限りゾンビを治して避難を誘導するということで役割分担をすることになったわけだ。
リヤドナの街は巨大な城壁で囲まれているんだけど、熊のバウさんと共に、街の入り口近くにある迎賓館へと向かったわけ。そこまで行く間も、ゾンビゾンビで本当にグロテスクな有様だったわけだ。
僕には神の檻があるので、バウさんと二人、檻に囲まれた状態で腐の王に言われた場所まで向かって行ったわけだけど、飛びかかってくる、飛びかかってくる、よだれを垂れ流しながら檻に向かってゾンビが飛びかかってくるんだよね。
まるであれだよ、サファリパークで檻付きのトラックに乗せられて猛獣エリアを通過するみたいな緊張感、ライオンが近くまでやってきたなーと、ビビりながら用意されたお肉をあげるアレ。あの時みたいにお肉はやらないけれど、ゾンビが追いかけるようにしてついてくる。ライオンよりも無茶苦茶数が多いけど、檻を大きめに設定しているから手が届くところまでは近づかない。
「バウーーッ!まさか、下道で移動するとは思わなかったバウーッ!」
後ろからしがみつくようにして熊がついてくるんだけど、だからプールの方に行けって言ったのに、
「聖女様に会うと言うのなら、行かないわけにはいかないバウ!先代の聖女様を見逃した僕としては、是非とも今代の聖女様は直接見てみたいバウ!」
と言うミーハー魂丸出しでバウさんは僕について来たわけだ。
吉岡先生はねえ、あざといんだよ。
お手紙の作成とか、報告書とか、平気で僕に押し付けて来て、
「西山先生のおかげで(・・・・)!私!頑張って教師が出来るんだと思うの!」
とか言いながら、
「てめえ、なに、お手紙で誤字脱字ありまくり状態になってんだよ?ああ?確認してねえのか?生徒の見本たるセンコーがよお、そんなことで良いわけねえよなぁ?」
とか言ってブチギレるんだよね〜。そもそもそのお手紙作成、今月は吉岡先生の番でしたよね?とか言ったところで、
「ああん?なんだって?」
と、凄まれて終わるわけ。
教頭先生、校長先生、学年主任の前では、
「私の指導不足です!申し訳ありませんでしたぁ!」
巨大な猫をスチャッとかぶって、あざと系大爆発させるのに、下僕扱いの僕に対してなんて、
「てめえのせいで怒られたんだけど?」
なんて言われるんだよぉ?超理不尽極まりないんだよぉ!
王都から移動して来た腐の国の王様一行は、特殊部隊を連れてリヤドナまでやって来たんだけど、到着した時にはすでにゾンビウィルスの散布は終了しているような状態だったんだよね。
先行していた部隊が、骨の軍団で街を一周囲むような形で包囲しているから、街の中のゾンビは外に出ないようにしているんだそうだ。
空気中に散布されたウィルスは、遠くへ飛べば飛ぶほど脅威ではなくなってしまうんだけど、逃げ出したゾンビが健康体である人族だか獣人だかに噛みつけば、血の下位継承が実行されたということになって、ゾンビが増えることになるってわけ。
遥か千年ほど前になるんだけど、こちらの世界にやって来たばかりの吸血鬼達がゾンビ達を使って自分達の国を作り出そうとしたんだけど、失敗したという経緯があるらしいんだ。以降、吸血鬼達は闇の国で預かり、管理を受けることになったんだけど、ゾンビへの対応策というのは、今の時代にも継承されているんだってさ。
腐の国の王と一緒にやって来たのは、光の国の第二王子と、宰相の息子と、騎士団長の息子と、聖女である吉岡先生だという話は聞いている。
レベルが高ければウィルスに侵されることはないんだけど、光の国はレベルに頓着しないところがあるらしく、とても連れて歩けるようなレベルではなかったため、街の入り口で結界を張らせて待機するように言ってきたらしい。
巨大な城門がリヤドナの街の入り口になるんだけど、そこに張られた結界の方へ、まるでテーマパークに入場するお客さんのようにゾンビ達が進んで行く。
ゾンビ達の誘導員は骨の戦士で、その骨の戦士に指示を出す腐の国の戦士達の姿も見えてきた。
「あのー!すみませんー!聖女様に会いたいんですけど!先に進んでもいいですかーー!」
物凄い量のゾンビがテーマパークの入り口(リヤドナの城門)に向かって進んでいく中、最後尾に並んだ僕が骨の上で監視をする兵士に声をかけると、鎧兜をかぶった兵士は、
「レベルが高くて感染しなかった方ですねー!未感染の方は聖女様の浄化を受けなくても外にご案内できますけどー!」
と、大声を張り上げている。
「すみませんー!聖女様との面会はサルマン王の御許可も頂いているんですけどー!会うことは出来ないですかねー?」
ゾンビ越しに声を掛け合う僕らは無茶苦茶シュールだったと思うんだけど、サルマン王の名前と、僕の後ろに居るバウさん効果があったのだろう。
「了解しました!今すぐお運び致しますねー!」
さすがアンデッドの国だよね、地面の中から巨大な骨が突き出て来たかと思ったら、あっという間に大きな鳥の骨の上に僕たち二人は乗る形となってしまったのだ。
「骨が聖女様のところまでお運びしますので、手足を横には出さず、落ちないように気を付けてくださいね!」
手を振る兵士が、まるでアトラクションに送り出す係員さんのようだ。こうして僕は、羽ばたく骨の上で身動きも出来ず固まったまま、大空を羽ばたくこととなったわけだ。
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